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悪役令息アレックスは残念な子なので攻略対象者ノワールの執着に気付かない  作者: 降魔 鬼灯


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49  鎖

「俺を守るために距離を置く?で、10年後他の女に懸想したお前は俺を断罪するんだ。それのどこが俺を守るんだ?」




 涙で視界が歪む。きっと今醜い顔をしてる。ノワールに見られたくなくて、滲んだ涙を誤魔化すようにしがみついた。



 その振動で、手に握りしめていた黄金の鈴飾りがシャラシャラと音をたてた。不思議だね。



 こんな少しの揺れでも鈴は音を鳴らすのに。ノワールの腕の中の俺の鈴飾りは移動しても鳴らなかったなんて。まるで宝物のように真綿でくるむように優しく運んでくれているのに。ノワールは俺から離れていくの?



 今までノワールが側にいてくれるのは当たり前で、こんなに大切にされていることさえ気付かなかった。



 去年一年離れたことさえ辛くて頻繁にノワールを呼びつけていたのに。


 学園で共に学び共に卒業すれば、ずっと一緒にいられると思っていたのに。


 友人の地位で居続けさえいれば、ヒロインが現れても、一生一緒に居られるって、淡い願望を抱いていたのに…。



 酷いよノワール、ずっと学園に入ってから一緒に過ごしていたから、なおのこと淋しさが募る。




 なのに。ノワールの唇は、さらに残酷な言葉を紡ぎ続ける。



「他国へ王妃として嫁げばいくら私でも断罪は出来ません。それでも不安ならば私はこの国を離れます。」



 より一層禍々しさを増した赤い太陽の光がノワールを赤く染めあげる。ノワールの表情の無い顔が苦悶に歪んだように見えた。



 他の男に嫁げと俺から離れる為なら国すら捨てると。ノワール、お前の口からだけは聞きたくなかった。心がズタズタに引き裂かれて血を流した。




 ゴロゴロ。稲妻が光る。



 真っ赤に染まった空がどす黒い雷雲に飲み込まれていく。空をつんざくような雷鳴がいくつも轟いた。



 急に荒れた天気が俺の心の中みたいだ。ゲームでの悪役令息断罪のシーンも外は雷雲に覆われていたな。




「ノワール、俺から離れたいのか?そんなに俺のことが嫌い?」



 好きな人がいるのか、一番知りたかったその言葉は答えを聞きたくなくて口に出すことすら叶わなかった。





 ただ、俺に酷い言葉を投げつけたのはノワールの筈なのに俺以上に傷付いた顔をしているから、それ以上何も言えなくて、ただただ溢れる涙が零れ落ちないように上を向いた。


 泣いてたまるか。




 


「アレックス、あなたをこのまま拐ってどこかに閉じ込めてしまいたい。」


 吐息とともにノワールの唇から吐き出された言葉がポツリと荒れた心に沁みわたる。



 え?



 


「そうしてきっと嫌がるあなたを穢してしまう。私はあなたが恐れている事を10年後と言わず今すぐしてしまう。あなたに、あなたにだけは嫌われたくない。」





 淡々と自分に言い聞かせるように呟くノワールの言葉に怒りが洗い流される。俺も嫌われたくないよノワール、でもね。





「ねぇ、ノワール。ノワールが俺を拐ったら俺はずっとノワールと一緒にいられるの?」





 自分でも驚くくらい甘いねだるような声が出た。



嫌われながら側にいるのと、会わないまま時と共に忘れ去られるの。どちらも嫌だけど、どちらか選べるのならば俺は前者を選ぶ。嫌われても憎まれてもノワールの側にいたい。




「アレックス」



 ノワールの黒真珠のような瞳に俺が映っている。綺麗だ。ずっと見ていたい。





「だったら拐ってよノワール。好きにしたら良い。その代わり一生側にいて。」




 その瞳に俺を閉じ込めてよ。ノワールの瞳が揺らぐ。俺を拐いたいなら良いよね。俺をあげるから、お前をくれよ、いいだろう?ノワール。





 ノワールの耳朶じだに唇を寄せた。いつぞや母が熱心に見ていた古文書の『鎖』を思い出す。 


 俺には神力がないから無理だけれども、脳裡で『鎖』の誼を唱えながら願いを込めて耳朶に舌を這わせる。 



 『我が愛を憑坐にこの者を一生側に』



 卑怯な俺は今だけでも神力が欲しいと、ノワールを手に入れるだけの力が欲しいと天に祈り、ノワールの耳朶に歯を立てた。



 びくりと身体を揺らしたノワールと目があった。目の奥がギラギラと獰猛な光を宿している。怒っているんだろうな、喉元を食ちぎられそうだ。


 でもそれも、それすらも良いなんて、俺は狂っているのか。ほんの少し流れた彼の血をペロリと舐めとる。



 一際大きな雷いかづちが大地を揺らした。強烈な光が目を灼く。その瞬間、身体の奥底から静謐な何かが迸るように漲った。



 




 窓から柔らかな一条の光が差しこむ。外には先程までのどす黒い雷雲が嘘のような晴れ晴れとした青空が広がり虹がかかっていた。




なんなんだ。




 柔らかな光を浴びて、目の前でキラキラと光る物体が視界に写る。あちゃー、やってしまった。



 ノワールの美しい耳に華やかな黄金の蔦が絡み付く。金の鎖と翡翠が彩りを添えたそれはいつか見た古文書の『鎖』に酷似していた。






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