表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息アレックスは残念な子なので攻略対象者ノワールの執着に気付かない  作者: 降魔 鬼灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/55

45 ピンチはチャンスっていうよね


 さてと、扇子を回収しましょうか。扇子は長い袖の袂にある。着物で言うと振袖の一番下のところね。長い袖を手元に持ってきて袂に手を入れてごそごそしてたらちょっとした不審者じゃないか。バレないようにとらねば。


 視線を斜め下に流して風情をもたせながら、右袖を優しく撫でるように手繰る。そうだ、袖なんて見てませんよ。本当は袖を見ながらごそごそしたいけど、あくまで優雅に袂に向かって指先を這わせて行く。


 どうしたんだ。視線の先の女子学生達が恥ずかしそうに両手で真っ赤な顔を覆っている。俺はそんな破廉恥な事はしてねーぞ。君らさっきまでギルバートの半裸をノリノリで見てたじゃないか。


 ただ袂から扇子を取り出そうと頑張ってるだけだ。あ、見つけた。思わずにんまりしてしまうな。


 オリビエちゃんの深紅の扇子が出てきた。本当に綺麗だな。一応使えるかどうか開くか。


 すっと開いた扇子でかくれんぼするように顔を隠す。うん綺麗だ、どこも損傷してない。舞に使える。


 二階席で食い入るように俺を見つめるノワールが可愛い。きっとハラハラしているんだろうな。


 舞扇はこれ一面でも充分だけど、折角だからもう一面。優雅に見えるように優しく左袖を手繰り寄せる。

 袂に指先が入る瞬間、客席のギルバート達が目に入る。真っ赤な顔で惚けているね。ふふふ、アクシデントに気付いていないのか、まだまだだなギルバート。

 

 おっ、ヴィヴィアンちゃんの扇子発見。にまにまとノワールを見上げた。

 ノワールの顔が真っ赤だ。ヤバい可愛い。あの冷静なノワールの赤面なんて、貴重すぎてヤバい。


 もー、皆ったら、扇子二面とっただけで大袈裟。


 スローテンポの曲が終わりに差し掛かる。さて、ここからが正念場だな。

 ボタンはあと2つ、えーいここは景気良く全部外すか。純白の扇子を片手で開く。どう綺麗?悪役令嬢は扇子一つで笑うけど悪役令息アレックスは両手に扇子を持ってみた、えっへん。深紅の扇子を持つ手で一番下のボタンを外す。おへそチラリしそうで扇子で見えないギリギリのラインどうかな?

 ふふふ。純白の扇子で口元を隠して笑う。悪役令嬢みたいかな?


 曲がアップテンポに変わる。曲に合わせて下に着た深紅の上衣を足で軽く蹴ってふわりと見せる。赤い花開いたような華やかさだ。

 片手を開けたいな。ちょっとお行儀悪いけど赤い扇子を閉じて飾り紐を口に加えた。すまん。オリビエちゃん、扇子は後で弁償します。

 白の扇子を曲に合わせてひらひらと回す、客席の視線が扇子に向いた隙に最後のボタンを外して裾がふわりと広がるように翻しながら後ろを向く。シャンと鈴飾りが鳴り響いた。

 

 客席の視線が白一色に覆われたその時、顔だけ後ろを向く。

 見返り美人って、みんな好きなんだよね。ノワールが息を呑んでいるのがわかる。ふふふ。


 曲のクライマックスに合わせて肩からするっと純白の衣装を落とした。

 下から鮮やかな深紅の衣装が現れる。ふふふ。皆びっくりしてるね。

 前を向いて手にした純白の扇子を口元で開き、口に加えた深紅の扇子を手に取りもう片方の手で開いた。


 実は俺、華陽の舞得意なんだよね。母が必死で練習してたから…。普通はしないけど両手でも舞えちゃうんだよな。

 音楽に、合わせてくるくると扇子の要部分を親指と人差し指で挟み、手首をぐるり扇子を回転させる。

 華やかに両手の扇を翻す。身体の動きに合わせて軽やかに鈴飾りが、鳴り響いた。

 翻る扇子に合わせてゆっくりと腰を沈めて行く。

 ノワールと目が合う。惚けたような顔をして俺を一身に見つめるノワールが可愛い。


 触れれば落ちなんと言う風情で舞台に座る。これ大事な所よ、母なんて日頃は妖精のようにふわふわしてるのに、舞のこの部分だけはヤバいくらい色っぽいもんな。

 ふう、無事着地完了。二面の扇子を片手で持つ。紅白が重なりあって、ほら華のように美しいだろ、ノワール。

 ねぇ、俺だけがお前に堕ちてるなんて、不公平だよね。お前も俺に堕ちて来いよ。


 ノワールを見つめて嗤う。


 ノワールに外さないでと言われた黄金の鈴に触れた。俺はいつまでもお前の言う事を素直に聞く良い子じゃないよ。


 ノワールが口付けた鈴を一気に引っ張る。美しく結われた髪がうねるように広がった。


 息を呑むノワールの瞳を見て笑う。俺をちゃんと捕まえとけよな、ノワール。


 最後の一音が終わる。


 ほどいた鈴飾りのノワールが口付けた鈴に口付けを落とした。


 幕が降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ