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1 美人メイドの甘い罠

よろしくお願いいたします。

 

「アレックス様。」

 甘い声で囁きながら、寝室に忍び込んできた侍女の顔が月明かりで照らされる。

 ピンクブロンドの愛らしいその顔を見たアレックスは、唐突に理解した。


 俺って、あの悪役令息じゃない?


 確か主人公アリアの姉の純潔を奪い、婚約者のいた姉はその事を苦に自害する。

 手がかりは犯行時、犯人が残したカフスボタン。


 そして、10年後物語は始まる。


 攻略対象者達と謎解きをしながら、交流を深め、愛を育んで犯人を探すという恋愛謎解きゲーム。


 『手掛かりはその手のひらに』は謎を解きながら攻略対象者と愛を深めていく展開で非常に人気が高いものだった。

 最後に攻略対象者と結ばれて、権力者となっていたアレックスを断罪してゲーム自体は終わるんだけど…。


 エンディングのあとエンドロールでちらりと流れるのはアレックスが首輪を付けられて攻略対象者の一人ノワールに監禁されている映像。

 そして、平和にお茶を楽しむ主人公とノワールの会話の中で交わされる「君の姉の敵には、自分のしたことをその身体で充分思い知らせてあげたからね。」と言う言葉とにっこりと微笑む黒い笑顔に胸キュンしたけど…。


 いざ、ざまぁが我が身に降りかかると考えたら、震えがとまらない。


 そして、前世を思い出した事で気付いた違和感。アレックスは男ではない。この身体、女の子のものだ。

 だとしたらアレックスは、メイドを凌辱し殺害した犯人なんかじゃない。

 濡れ衣を着せられたんだ。だって、メイドを凌辱なんて到底できないではないか。


 美しいメイドの手が俺のボタンを外していく。普通ならば、鼻の下を伸ばしてされるがままになるのだろうが、無理だ。

 女の子だとバレるのも危険だ、逃げよう。


 俺はメイドを突き飛ばした。まさか抵抗されると思わなかったのか、彼女が不意を突かれて尻餅をついた。

 その隙にバルコニーに躍り出る。


 バルコニーの床の一部、少しだけくすんだ石に向かって思いっきり滑り込んだ。


 ベランダには俺と俺の親友ノワールしか知らない俺専用の転移装置が仕掛けてあるのだ。

 俺の身体は一瞬のうちにノワールの部屋のバルコニーにいた。



 ノワールは、攻略対象者の中でただ一人だけの年上キャラだ。我が国最強の魔術師にして、魔法具発明家の彼はとある発明で莫大な財をなし、主人公の犯人探しに暇潰しがてら参加するのだ。

 大人の余裕と魅力で、ファンの心を鷲掴みにしたゲームの一番人気キャラだ。攻略難度がかなり難しくほとんど攻略出来なかったのも、その人気に火をつけた。


 難攻不落のノワール様らしい。


 どこか憂いのある目がす・て・き・なんて思っていたけど…。


 最後に俺を追い詰める駆け引きは息をつかせぬ展開で情け容赦ないものだった。そして、アレックスを監禁するのも彼だ。


 決して敵に回したくない相手、それがノワールだ。


 ゲームでは、学生時代に仲違いしたらしいが…。


 今の時点では、ノワールとアレックスは大の仲良しだ。

 今のうちに、無実の証明をしておかなければ…。

濡れ衣からの監禁凌辱ルートなんてごめんだ。


 きちんと話して味方になって貰えれば、この上なく安心できる相手だ。

 結末がわかった以上、たとえけんかしてもノワールを手放す気はないぞ!

 未来のバッドエンディングを回避するには強い味方が必要なんだ。



 コンコン


 窓を叩く俺に驚いた顔で駆け寄ってくるノワールに安心する。たった数分の出来事なのに思ったより心細かったみたいだ。


「アレックス、どうしました?何があったんですか?」


 ノワールは俺の夜着のボタンが胸元まではだけた格好に驚いたように険しい表情で羽織っていたガウンをかけてくれた。

 その暖かさとふわりと香るノワールの匂いにほっとしたのが、涙が溢れ出した。


「ノワール、俺。」


 涙で声にならない。きちんと話して未来のバッドエンドを回避しなければならないのに、きちんと誤解を解いておかなければならないのに、ひっこめ涙、ヤバいぞ涙。

 ノワールの顔がどんどん険しくあたりの空気がどんどん冷えていく。

 もしかして学生の頃のけんかの原因ってこれ?


 嫌だよな、寝てるとこいきなり起こされてえぐえぐ泣く友人なんて。

 迷惑この上ないよな。迫り来るバッドエンドのシナリオ強制力の恐ろしさに、より一層涙が止まらない。

 ノワールごめん。


「き、きらいにならないで、」


 必死でそれだけなんとか絞り出した。命がかかってるんだ。ノワールは絶対に俺の味方でいて欲しい。


 ふわりと抱き抱えられる。


 ソファーに腰かけて子供にするように背中をとんとんと優しくあやされた。

 その優しい感触にひたり涙がようやく引っ込んだ頃、ノワールにベッドに寝かされた。


「アレックス、何があろうと私があなたを嫌うことはありませんよ。何も話さなくても良いです。今夜はゆっくり休んでください。」


 ノワールの心地よい体温を離したくなくて、すがるように彼の手を取る。

 今しかない。


「ノワール、俺の話、荒唐無稽すぎて信じて貰えないと思うけど、俺の話を聞いてくれないか?」


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