forty nine (side 鹿島)
さらに数日後、意を決してスーパーモリタへとやってきた鹿島は、初めこそは店内をうろうろとしていたが、それでは事が進まないと、すぐにも観念してレジへと向かった。そろりとレジカゴを出すと、小梅があっと気づいて話し掛けてきた。
「鹿島さん、こんばんは」
「……こんばんは」
けれど、小梅との視線はなかなか合わない。
(……やっぱり来なければよかったな)
無言で財布を出す。
「鹿島さん、その、連絡ができなくてごめんなさい」
言いにくそうに視線を落とす小梅を、鹿島は遠い目で見ていた。
「いや、別にいいよ」
嫌味に聞こえないように、声のトーンに気をつけて言う。
「私、携帯も家電もなくて、お店の電話借りるのも、あれで……」
一生懸命に言い訳してるのかと思うと同時に、言い訳をさせていると思うと、なぜかそんな自分自身に羞恥の気持ちが湧いて出た。一回り以上も若い女の子に言い訳をさせていることを、いい大人の男として、すごくダサいと思った。
「いや、別に。大丈夫だよ」
「す、須賀さんにお願いしようと思ったんですけど、須賀さん最近全然来てくれなくて」
頭の中に霞でもかかったように、ぼんやりとしている。けれど小梅がなにかを言えば言うほど、自分の顔が険しくなっていくのを感じた。
小梅はレジカゴへの移動が終わると、レジを通して手早く釣り銭を渡す。それを受け取ると、鹿島はカゴに手を掛けた。
その瞬間、小梅の焦ったような声がした。
「け、携帯、持ってないんです」
それはさっき聞いた、ていの良い断り文句だな、と思った。
「そう」
小梅の顔を見れなかった。下らない羞恥心が邪魔をして、それ以上は言葉が出なかった。次に並んでいる客が、横へじりじりと近寄ってくる。
その圧に負けたのもあり、鹿島はレジカゴを持って、荷台へと進んだ。
「じゃあ」
「……あ、ありがとうございました」
いつもと違う、小梅の弱々しい声。その声を後ろ髪に感じながら、鹿島は商品をエコバッグへと入れ始める。
(案外……どうってことなかったな)
連絡をくれなかったことに、もっと恨みのようなものを持つのかと思いきや、そうでもなかった。それより自分のみっともなさが優ったようだ。
(だからって、携帯持ってないとか、そんな言い訳……)
ふ、と小さく鼻で笑った。
笑った瞬間。
「……私、超絶、貧乏なんで。だから、頑張って働かないと」
小梅の言葉が蘇った。
「携帯、持ってないんです」
いつもの元気な笑顔はない。その弱々しい声。
鹿島は振り返って、小梅を見た。その横顔。淡々と、商品をレジに通している。
そろ、と近づいた。自分の手を握りしめると、じっとりと汗ばんだ。
「本当なんだね」
小梅が振り向く。
「え?」
「携帯を持っていないんだね」
小梅は眉をハの字にすると、無理矢理笑った。きっと自分の眉もハの字なんだろうと、その弱々しく作られた笑顔を見て思った。
「……はい」
泣きはしなかったが、鹿島は泣きたい気持ちになった。




