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forty seven (side 鹿島)


数日後、居酒屋で大同と飲んだ時にその話をすると案の定、大同は腹を抱えて笑った。


「連絡してくれ、とはなあ。おっさんのアオハルか」

「自分でもびっくりだ。こんな暴挙に出るなんてな」


ハイボールをゆっくりと飲む。


「で? 連絡はあったのか?」

「……それが、」

「ああ、いい。無いのはわかってる」


鹿島は、そんなにわかりやすいか? と、手であごを二度さすってから、苦笑した。


「しかもだなあ。あれから買い物も行ってない」

「ははあん」

「……どんな顔して会いに行ったらいいのか、わからないんだ」

ぐいっと喉に流し込み、手を上げて追加を頼んだ。そしてその手をそっとスマホの上に乗せる。何度見ても、着信はない。



「社長、いい加減に溜め息を吐くのを止めてもらえませんか?」


秘書の深水が、同じような溜め息を大げさに吐いた。


「会議中ですよ。スマホを遠い目で眺めるのも、どうぞご遠慮ください」

「い、今は休憩だからいいだろう」

「何を言ってるんですか。会議中も上の空で」

「いやいや、そんなことはない」


すると、会議室のドアからぞろぞろと役員らが入ってきて、各々着席し始めた。その様子を見ながら、鹿島は声を上げた。


「揃ったな。じゃあ、今から二部を始めるぞ」


すると途端に、全員がきょとんとした顔になる。


斜め後ろに座っている深水が、「社長、会議は全て終わっていますので、次に予定しています報告会を始めてください」と言う。

慌てて手元の資料を探りながら、該当の書類を引き寄せる。


「ああ、すまん。では報告会を始める。Sチームから頼む」


こんな風に、ここ数日は何も手につかない状態で、深水にはその都度、散々な嫌味を言われていた。


(誰かの連絡を待って上の空で過ごすなんてこと、今までになかったな)



「おねーさん、ハイボールもう一杯っ」


向かいでジョッキを上げている大同を見る。すると、はーいと返事をしてジョッキを下げにきた店員と、親しげに話している。

視線を落とす。スマホはうんともすんとも言わない。


(……おっさんが気持ち悪い、とか。思われてんのかもな)


今まで。自分がどう思われているのかなど、考えたことはなかった。

鹿島はこれまでも、胸を張るようにして生きてきたし、そうあらねば経営者として失格なのだとも思う。会社を軌道に乗せ、経営を安定させる手腕に、ある意味自信があったと言ってもいい。それが今、根幹からいとも簡単にぐらぐらと崩れそうになっている。


(どうしてしまったんだ、俺は本当に……)


頭を抱えたい気持ちで大同と同じようにハイボールを頼むと、鹿島はスマホを胸ポケットにしまった。


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