forty six (side 小梅)
驚いてしまった。
私の前に鹿島さんが立っている。
しかも、こんな遅い時間に。私はメープルの閉店まで仕事をしているので、とうに夜中の12時を回っているはずなのに。
鹿島さんは先日の病院でのことを、何度も何度も謝ってくれた。
「怪我はしていないか?」
優しい声でそんな風に訊かれたら、胸がじーんと熱くなり、私はようやく、はい、と頷いた。
とにかく鹿島さんは必死に謝って、最後に私の手に名刺を置いていった。忙しいのだろうか、それとももうこんな時間だから眠たいのだろうか、そそくさと帰ってしまって、名刺を持った私はその場にぽつんと取り残されてしまった。
振り返りもせず、車を発進する後ろ姿。忙しい合間を縫って、謝りに来てくれたんだなあと思う。すぐに帰ってしまい、ちょっとだけ寂しさにまみれたけれど、私は首を振って内にめばえそうになる何かを否定してから、名刺を見た。
『鹿島コーポレーション 代表取締役社長 鹿島 要』
「わあ、本当に社長さんだあ」
本社ビルの住所を見ると、実はずいぶんとこの商店街からは距離があることを知った。
「さすがにこの近くではないかなとは思ってたけど、こんなに駅の近くだなんて……この住所、駅近の一等地ってやつだよね」
いつもは須賀さんの運転で来ているけれど、今日は鹿島さん自身が運転席へ乗ったことを考えると、わざわざの手間をかけてまで、謝罪しに来てくれたのだということはわかった。
連絡をくれ、と貰った名刺。ひっくり返すと、携帯の番号が殴り書きしてある。
「け、携番だ」
次第に心臓が早鐘のように鳴り出して、身体が小刻みに揺れた。




