表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/50

forty one (side 鹿島)


「え、鹿島さん?」


鹿島が近づいていくと、小梅の表情が固くなった気がして、さらに鹿島の胸は打った。

気がついて声を掛けてしまった手前、何事もなかったように過ぎ去って行くことはできない。

鹿島は観念して、小梅の隣に腰掛けた。


「どうしたの? どこか具合でも悪いのか?」


どうしてこんな場所でと、気になったことを先に問う。病院のロビーの照明が落としてあることもあって、小梅の表情は暗かった。


「いいえ、違いますよ。身内が入院してて……」


言い直す。


「おばあちゃんです」

「そうなんだね、それでお見舞いに?」

「はい……」


会話が途切れそうになり、小梅が先に続けた。


「鹿島さんは? お見舞いですね」


持っている花束を見れば、一目瞭然だ。


「うん、知り合いが入院しててね」

「そうですか。お大事にしてあげてくださいね」

「……ありがとう」


(……もう帰った方がいい)


そう思うが腰が上がらない。横をちらとみると、黒髪の中につむじが見えた。

小さな頭に、丸みの薄い頬。


「……綺麗な花束ですね」

「え、あ、うん」

「喜びますよ」

「そうかな」

「絶対です」


にこっと見上げてくる。黒い瞳が、いつもより丸く見えた。


(君なら、喜んでくれるのだろうに)


がさ、とラッピングが擦れる音がする。持っている花束が哀れに思えて、鹿島は思った。


(あの時の輝いていた花束とは全然違う)


カラーとラナンキュラスの美しさ。それに小梅の温かさが加わって、心に沁み入ってきた。


(早く、去らないと……)


「おばあさんをお大事に」


そう言って、立ち上がろうとした時。

ぎょっとした。

病室にいるはずの花奈が、少しの距離を置いて立っている。その姿が目に入り、嫌な予感がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ