forty one (side 鹿島)
「え、鹿島さん?」
鹿島が近づいていくと、小梅の表情が固くなった気がして、さらに鹿島の胸は打った。
気がついて声を掛けてしまった手前、何事もなかったように過ぎ去って行くことはできない。
鹿島は観念して、小梅の隣に腰掛けた。
「どうしたの? どこか具合でも悪いのか?」
どうしてこんな場所でと、気になったことを先に問う。病院のロビーの照明が落としてあることもあって、小梅の表情は暗かった。
「いいえ、違いますよ。身内が入院してて……」
言い直す。
「おばあちゃんです」
「そうなんだね、それでお見舞いに?」
「はい……」
会話が途切れそうになり、小梅が先に続けた。
「鹿島さんは? お見舞いですね」
持っている花束を見れば、一目瞭然だ。
「うん、知り合いが入院しててね」
「そうですか。お大事にしてあげてくださいね」
「……ありがとう」
(……もう帰った方がいい)
そう思うが腰が上がらない。横をちらとみると、黒髪の中につむじが見えた。
小さな頭に、丸みの薄い頬。
「……綺麗な花束ですね」
「え、あ、うん」
「喜びますよ」
「そうかな」
「絶対です」
にこっと見上げてくる。黒い瞳が、いつもより丸く見えた。
(君なら、喜んでくれるのだろうに)
がさ、とラッピングが擦れる音がする。持っている花束が哀れに思えて、鹿島は思った。
(あの時の輝いていた花束とは全然違う)
カラーとラナンキュラスの美しさ。それに小梅の温かさが加わって、心に沁み入ってきた。
(早く、去らないと……)
「おばあさんをお大事に」
そう言って、立ち上がろうとした時。
ぎょっとした。
病室にいるはずの花奈が、少しの距離を置いて立っている。その姿が目に入り、嫌な予感がした。




