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forty (side 鹿島)


病室から出ると、鹿島はどっと疲れを感じながら、廊下を歩いていった。


(……これで良かったのかどうか)


花奈の母親には、婚約までしておいて約束を反故ほごにされたせいだ、花奈の落ち込みようと言ったらなかった、それで体調を崩したのだと、ねちねちとなじられた。

けれど、その後担当の医師に確認したところ、少し目眩があるので入院という処置をしたが、そう酷くないとのことだ。

不穏な理由でもなく、ほっと胸を撫で下ろした。

別れたのだしもう関係ないのだから、見舞いなどは要らないはずだが、そこまで冷徹になれなかった。

病院の一階に併設のフラワーショップで見舞いの花を買って持っていくと、花奈はそれを受け取らなかった。


(まさか受け取ってもらえないとはな……いや、受け取らないのが当たり前か……)


帰りのエレベーターの中で、じっと花束を見る。物言わぬ花束でも、渡した相手の喜ぶ顔をきっと待っている。そう思うと、途端にこの花束が憐れに思えてきて、それこそ虚しい気持ちがじわりと湧いてきた。


(……ついバカなことを考えてしまう)


一階に着くと、病院の中央エントランスへと向かう。途中にゴミ箱が目に入り、そこで立ち止まって持っていた花束を捨てた。

捨ててから、ゴミ箱を見下ろす。ピンクのスイートピーがゆらと揺れた。

急いでこの場を立ち去りたい気持ちがあったが、なかなか離れられないでいると。

ついに。

花を真剣に選んでいた、小梅の顔が目に浮かんだ。

見ず知らずの他人のために、一生懸命に花束を作り、喜んでもらえることを願った。


(ああ、俺は何てことをしているんだ)


ゴミ箱から花束を拾い上げた。外側の葉が少しよれたが、スイートピーは汚れていない。

ほっと胸を撫で下ろしてから、花束を抱えて、再度歩き出す。

会計のカウンター前を、急ぎ足で横切った。

待合いは薄暗くはなっていたが、ベンチに誰かが座っているのが見えた。気に留めず、そのまま行こうとして、どっと胸が鳴った。


「あ、あれ、小梅……ちゃん?」

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