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thirty nine (side 鹿島)


『社長、大変です』


深水の慌てた様子に、最初、鹿島の会社の社員が仕事で失態でもしでかしたのかと思った。

スマホから音漏れする深水の声に、須賀がハンドルを離さずに、耳をそばだてている。取引先へと足を運ぶ途中で、鹿島は指をパチっと鳴らして、須賀に車を停めるよう指示をした。

須賀は直ぐに、駅裏の駐車場へと入った。取引先の本社とは、もう目と鼻の先だ。


「どうした、何があった?」


冷静な声で、先を促す。深水はさも言いにくそうな雰囲気で、言葉を言いあぐねている。


「早く話せ」


ぐっと喉が鳴った。


『それがその……花奈さまが、』

「花奈がどうした?」

『入院されました』


ドキッと心臓が跳ね上がった。


別れる時、花奈は確かに半狂乱だった。自分の両親の前だというのに、鹿島を許さないと罵倒し、そして部屋へと閉じこもってしまった。


「花奈、悪いが俺はもう君を好きだという気持ちがないんだ」


ドア越しに、そう告げた。

だったら、付き合い始めは好きだったのか、と自分に問うてみると、素直にイエスとは言えない自分に苦笑した。

父親と母親が、階下で言い争っている。


「だから、私が言いましたでしょ! そんなに高いものをねだるもんじゃないって」

「バカか、鹿島くんは資産数十億の大金持ちなんだぞ!そんな微々たる金が原因じゃないっ」


父親とはビジネスの話もあり、冷静に話し合いを保つことができた。相応の投資をするということで落着はしたが、女が原因だろうと散々に罵られた時は、それまでは下手に出ていた鹿島も、さすがに怒鳴って言い返した。


「花奈さんには、花奈さんの希望通り相当の贈り物をしましたし、それ相応の誠意を持って付き合ってきたつもりです。それを全て返せとは言いません。ただ、これ以上こんな虚しい関係はやめたいだけです」


リビングで父親とそう話している時、花奈がそっと入ってきて言った。


「要さん。チョーカーとお揃いのリングですが……」


父親が慌てて割って入った。


「花奈、やめなさいっ」


父親の制止を振り切って、花奈は最後まで言い切った。


「もう、わたくしのサイズで注文してしまったんです。別れると言ってもお店にはもう返品できませんから、わたくしがいただいても構いませんね?」


未練などはなかったが、罪悪感はあった。けれど、その言葉で残っていた罪悪感も、どこかへ吹っ飛んでいった。


「それは君が貰ってくれていい。だから、これで最後にして欲しい」


花奈は、それで納得したように、こくんと頷いた。


(……それなのに、)


まさか不穏な理由じゃないだろうな。


不安な気持ちを抱えながら、鹿島は須賀に市立の病院へ車をやるようにと指示をした。須賀に駐車場で待つように言うと、病院のホールからエレベーターに乗る。入院病棟の階で降り、鹿島はナースステーションへと寄った。

そこで尋ねた部屋の前に立つ。

名前のプレートで、花奈がいることを確認すると、ノックを二度して部屋へと入った。


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