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twenty eight (side 小梅)


鹿島さんが来る日もあるし、来ない日もある。定休日以外は、毎日シフトが入っているので、それこそ鹿島さんが来たかどうかを、カレンダーにでも記入してチェックできそうだ。


「来る、来ない、来る、来ない……」


私がぶつぶつと呪文のように呟いていると、こんにちはあ、と明るい声がして振り返った。

サツキフラワーの皐月さんだ。


「あ、いらっしゃいませっ」


見ると、どかっと置かれたレジカゴには、安売りのバナナがたくさん詰め込まれている。


「わあ、こんなにたくさん食べるんですか? やっちゃん、最近大きくなりましたもんね」


チビちゃんのまんまるのほっぺたを思い出しながら、私はレジを打っていった。


「うん、もうすごいよ。食べる食べる。こんなん一週間もたないから。三日の命だから」


私は、ぷっと吹き出しながら返した。


「まだ二歳なのに。でもバナナって美味しいですもんね。栄養もあるし」

「そうそう、小梅ちゃん。春巻きの皮でバナナを巻いて、油で揚げると美味しいの知ってる?」

「いやもうそれ聞いただけで美味しそうですよ」


私が笑って言うと、皐月さんが顔を近づけてきて言った。


「あいつもそれ好きなんだよね」


ドキッと心臓が跳ね上がった。


「か、鹿島さんですか?」


鹿島さんが皐月さんの幼馴染だと知ってからは、私の応対もなんだかちょっとぎこちない。けれど、最近では皐月さんが鹿島さんのことを『あいつ』と呼んでいるのに慣れてくると、直ぐに返事を返せるようにはなった。


皐月さんはあまり気にしてはいないとは思うけれど、こっちの心臓に悪いから、鹿島さんの話題を出すのはやめて欲しい。


「そうそう。あいつ、結構甘いものが好きなんだよね。チョコとか」

「へえ、そうなんですか」


口元がふにゃりとなりそうになるのを必死で堪えて、ひたすらバナナの値段を手打ちする。グラムがそれぞれ違うから、値札の通りにレジを打たなければならない。

ああもう、皐月さん、バナナ幾つ買ったんですかー!


「バナナも好きだからさあ、チョコバナナってあるでしょう」

「よくお祭りとかで売ってる?」

「そうそう。あれは最高の組み合わせだって、いつも言ってるの」


それは可愛いですねー……っとマズイ!


「……ふふ、おもしろい人ですね」


いやいや、なにが⁉︎ ぜんっぜん、おもしろくないけどもっ。早く、このバナナのターン、終われっての!


「1200円になります」


全てのバナナと牛乳や春巻きの皮をカゴへと移動させてから顔を上げると、皐月さんがクスクスと笑っている。それを見て、なぜかからかわれている感を感じると、照れ隠しに「皐月さん、バナナ買い過ぎですよう」と言った。


私が苦笑いを浮かべながら声を出すと、小梅ちゃんかーわーいーと言って、レジカゴを荷台へと運んでいった。最近は、皐月さんにはこうして、からかわれているような気がして仕方がない。


(……なんでだろ)


何はともあれ、皐月さんは美人で皐月さんこそ可愛らしい人なので、私は大好きだ。


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