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twenty five (side 鹿島)


結局は新しく購入したドレスを、珍しく自分から手渡しすることになった。いつもなら、花奈は自分で気に入ったものを購入する際、商品は自分で持ち帰り、請求書は鹿島の名前で郵送させる。それが今回は、花奈の父親を通したせいか、会社へと商品が届けられたからだ。


秘書の深水が荷物を受け取ると、その内箱につけられた伝票に添えられている、確認用の商品の画像を見て、感嘆の声を上げた。


「まあ! 素敵ですねえ」


(女とは、こうもドレスやら宝石やらに、まるで目がないのだな)


鹿島は深水から請求書を渡されながら、思った。


「このサイズが入るなんて。花奈さん、スタイルも抜群ですね。羨ましい限りです」


確かに花奈を着飾らせてパーティーにでも連れていけば、それだけで鹿島の株が上がるほどだ。花奈そのものが宝石のような輝き。花奈目当てに自分に近づいてくる男たちがいることも分かっていた。

最初は、鹿島もそんな花奈を恋人として付き合っていることに、鼻を高くしていた。


「俺から渡すよ」


紙袋に入れ替えられた大きな箱を受け取る。花奈が気に入ったというドレス。綺麗に折り畳まれて眠っている。ドレスが届いたことを連絡すると、さっそくその日の夜に取りに来ると言った。自宅へと帰ると、花奈がパタパタとスリッパの音をさせて、玄関まで出てきた。


「おかえりなさい」

「ただいま。これ、届いたよ」


花奈はつけていたエプロンを、手早くささっと脱いで玄関のカウンターへと掛けた。花柄のエプロンはいつも綺麗だ。汚れて、洗うなどという行為を付き合ってこの一年、一度も見たことがない。

テーブルを見ると、いつもの色合いだけは良いサラダとワイングラス。空腹を感じる腹を抱え、モリタの惣菜を思い浮かべながら、鹿島は紙袋から箱を出した。


「はい」

「わあ、ありがとうございます」


花奈が笑顔で受け取る。箱を開けると、滑らかなビロードの生地が美しい、エレガントなデザインのドレス。バラの花の豪華な刺繍が肩から胸のあたりにかけて斜めに施されている。


花奈は自分によく似合うデザインを心得ている。自分を美しく見せるためのあらゆることに、精通しているのだ。

ドレスを身体にあてがって、「どう? 要さん、素敵でしょ?」と、ため息混じりに言う。

玄関の姿見の鏡の前で色々なポーズをつけ、そしてスマホで写真を撮ると、箱へと大切そうに仕舞った。


その姿を見て突然、小梅が作ってくれた花束を思い出した。一生懸命に選び、工夫して作ってくれた、あの花束。シンクの洗い桶に放置されたカラーとラナンキュラス。レースやリボンなどの包み紙は、シンク横のゴミ箱に突っ込んであった。


(あの花束も、これくらい喜んで大切にしてくれたら……)


スーパーモリタの店員が、花奈が喜ぶようにと心を込めて作ってくれた花束。小梅が、純粋に。花奈のために作ってくれたもの。


(いや、違う。俺のためだ。恋人と上手くいくようにと……それなのに……)


生まれた不満はいつまでも鹿島の中でじりじりと燻っていた。


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