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twenty two (side 小梅)


鹿島さんが、最近はよく笑ってくれるようになった。私はそれが嬉しくて、今日はどうやって笑わせようか、などと考えるようになっていて、自分でもこの気持ちを持て余している。


「いやいやダメダメ。恋人いる人、ぜーったいダメ‼︎」


無言のテレビに向かって叫ぶ。


「やや、そんなんじゃないよね、小梅ちゃん。だって、鹿島さんってば、結構歳上だよ? そうそう、わかってるわかってるって。たぶん、頼れるお父さん的な? 待て待て、あの若さでお父さんはさすがに可哀想だよね。ちょっと大人なお兄さん的な? そうそう、そうだよねー」


テレビの暗い画面にぐにゃりと曲がって映る自分の顔を見る。百面相の後。これが鏡だったら、きっと疲れに疲れ果てた顔が映っていると思う。こうも疲れているのは、今日が火曜日だからだ。


「あああー疲れたなあ」


投げ出した両足を、手で揉みほぐす。


「定休日前の大安売り、えげつなー」


えげつなーは、メープルの元ヤン真斗さんの口癖だ。双子のくせに、対照的。真斗さんは口が悪くて早口、おちゃらけ。そして隼人さんはひたすら無口だ。


二人とも、私のうちの事情を知っているから、時々余り物をくれたり、大丈夫かー食ってるかーと声を掛けたりしてくれる。


「今日だって休みにしてくれるの、ほんと助かるもんね」


定休日の水曜日の前日、火曜日の夜はメープルのシフトをわざと外してくれている。メープルはモリタと同じ水曜日が定休日なのだが、火曜日のモリタの大安売りの忙しさを知っているからだ。


「身体を壊しちゃ、意味ねえからな。お前はとにかくモリタの大安売りの時、食材をお得にゲットしてくれりゃ、そんで良い」


真斗さんの言葉に呼応して、隼人さんが頷きながら厨房から出てきて、メモを渡してくる。


「了解です!」


メモを取って敬礼すると、隼人さんが頭に手を置いてくる。ぱふぱふと二、三度こづくと、厨房に戻っていった。

メモを見る。


「マヨネーズ、かつお節、出汁パック……レーズンチョコ、」


このレーズンチョコは、夜、ビールやハイボールのつまみとして出すやつだ。

けれど、優しい双子さんたちは、このレーズンチョコが私の好物だと知っていて、いつも口へと放り込んでくれるのだ。


「真斗さん、いつもありがとうございます。美味しー」


もぐもぐとしながら、レーズンチョコを舌の上で転がす。そして、賄いを食べさせてくれる隼人さんにも感謝。


「隼人さんの作るピラフは世界一です!」


そう言うと、二人はニヤと笑いながら、それぞれの仕事に戻っていく。

私も、口の中でレーズンチョコの甘みと酸味の絶妙なコラボを堪能しながら、カウンター裏で皿を洗い始めるのだ。

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