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twenty one (side 小梅)


「お疲れ様です。今日も暑いですねえ」


挨拶は、まあ、いいよね。何のことはない内容なら、別に彼女がいたって、話をしてもいい……と思う。


「こんばんは。今日も暑かったよ」


これくらいの挨拶だもん。大丈夫。

鹿島さんが惣菜を吟味しているのを、横目でちらちらと見る。真剣な横顔の、真ん中にそびえる高い鼻。


(鼻、高ーい。シュッとしてて、なんていうか……滑り台みたい)


自分の語彙力の無さに、つい溜め息を吐きたくなる。

しかも鹿島さんが手を伸ばして取ったものが春雨だと知ると、私は心の底からの、残念な声を上げてしまった。


「あー」


言ってから心でしまったなと思うけれど、後の祭りだ。訝しげに見る鹿島さんの視線に耐えかねて、私は白状してしまった。


「惜しい。実はその隣のやつ、私が作ったんですよ」


手に取った春雨の隣には、ポテトサラダのパック。


「って言っても味付けは秋田さんですけどね」

「そうなの? じゃあ、こっちにしよう」


鹿島さんが、春雨を置いてポテトサラダを手に取り替える。


え。いいんですか?


心が、じんっとした。なんだろう、この気持ちは。「嬉しい」とも違う、「良かった」とも違う、身に覚えのない新しい感情。

ほわっと、心が温かく。けれど、同時に胸がきゅっとなった。


「え、いいんですか? 嫌いじゃないです? 玉ねぎ入ってますよ?」


鹿島さんの嫌いなものは、玉ねぎとナスなんだよね、知ってるんだ。すると驚いたことに、鹿島さんは声を上げて笑った。


「ははは、玉ねぎは生なら食べれるんだ」


わわわ。ちょっと待って。笑ったよ、笑ってるよー⁉︎


「普通、反対のような気がしますけど、ね」


ふにゃと崩れそうになる顔を立て直して、慌てて言う。


「ポテトサラダは好物だよ」


その言葉に、今日。ポテトサラダを作って良かったと、心の底から思った。手にしてくれたパックは、少しだけおまけもしてあります。秋田さんに怒られたけど。


「わあ、良かった良かった……」


と、そこへ秋田さんがやってきてポテトサラダの件では頭を押さえつけられてさらに怒られたけれど、気持ちはふわふわ風船のように軽かった。


(私の作ったポテトサラダを選んでくれた)


心の中が、なんだかくすぐったいような気がして、私はその日一日、ずっと足取りが軽かった。

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