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one (side 小梅)


おばあちゃんが倒れて入院した時、私は私の人生でこれ以上に、悪いことがあるのだろうかと思った。風呂場で倒れたおばあちゃんは、救急車で運ばれて一命を取りとめたものの、意識はまず戻らないだろうと病院の先生が気の毒そうな顔をして言った。


天涯孤独の四文字が、頭の中をぐるぐると回る。


けれど、死んでしまったわけじゃないから。おばあちゃんは生きているんだから。

そう思うと、希望のようなものが湧いてきて、たとえそれが偽物だろうがなんだろうが、何度もそう自分に言い聞かせて、私は自分を奮い立たせた。


「……奇跡が起きて、意識が戻るかも知れない。そしたらまた一緒に住めるようになるんだから、諦めないで頑張ろう……」


これ以上。悪いことは起きないような気がしている。

どう見たってどん底だもん、こんな状況。


無理矢理、笑ってみる。おばあちゃんは辛い時は無理して笑わなくていいって言ったけど、そうすると気持ちも軽くなるような気がして。


両親が遺してくれた通帳を見てみると、そこにはたくさんの桁の数字が並んでいて。最初はその金額に驚いた。一財産あると思った。けれど、それは高校生の私が見て(・・・・・・・・)との、前置きがあった。


おばあちゃんの入院費で、あっという間にその「一財産」は泡のように消えて無くなっていった。


「……働かなくちゃ」


家からほど近い、スーパーで求人のポスターを見つける。高校生だから時給は安い。けれど、履歴書を持って臨んだ面接では、優しそうな店長が、心配そうに声を掛けてくれた。


「それは大変だったね。うちで頑張ってみる?」

「はい、お願いします」


そしてアルバイトで入り、高校を卒業してからはパート従業員として働かせてもらうことになる。そのうち正社員への登用もあるという、ありがたい話。


泣いている暇などない。私には、自分の人生を悲観している暇もない。恋愛にうつつを抜かすこともできない。

恋というのは突然やってきて、そして去っていくんだな、そう思った高校生の時から、恋心を実感することもなくなっていった。


だから、こんな風に誰かを好きになり、そしてその人が唯一無二の存在になるなんて。


唯一無二だというのに、決して叶うことのない恋とは、知らずに。

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