seventeen (side 鹿島)
「マイバックって、お持ちじゃないですか?」
「いや、そういうものは縁遠くて……」
「毎回、5円お支払いただいていて、申し訳ないなって思って」
「いや、そんなことは別にいいよ」
「バッグをお持ちいただくと、スタンプカードにスタンプを押していてですね。20個揃うと、100円の割引か、マイバッグを差し上げているんですよ」
「そうなんだ」
鹿島が関心を持てずにいると、後ろから店長がひょこっと顔を出してきて、「鹿島さん、これどうぞ」と袋を差し出してくる。
「いやいや、だめですよ」
鹿島が断ると、店長が袋をばりっと開けて、中からエコバッグを取り出した。
「もう20個くらい溜まっているでしょ。最近よく来ていただけるから。どうぞ、使ってください」
「いや、でも……」
鹿島が遠慮すると、小梅が笑って言った。
「鹿島さん、貰っちゃった方が良いですよ。だって、店長めちゃくちゃ頑固だから。貰うまでしつこく付きまとわれますよ」
「なんでよ、小梅ちゃん。それじゃあ、僕がストーカーみたいじゃない」
ぷっと吹き出して「じゃあ家まで追っかけられないように、いただいておくよ」と言う。
わはは、と笑い合ってから、次のお客に代わる。主婦の買い物だと分かるほどの、山盛りのレジカゴだ。
「ちょっと店長さん、私にもちょうだい」
直ぐに、小梅が割り込んできた。
「スミコさんはスタンプ集めてよ。それにいつも溜まっても、100円引きの方を選ぶじゃない」
「マイバッグ欲しいんだけど、いつも現金に目がくらんじゃうの」
「じゃあ今度はマイバッグをごり押ししてあげるから」
「うん、次の時は小梅ちゃんが私を説得して」
そんな会話を背中で聞きながら、鹿島が貰ったマイバッグに買ったものを詰めていると、自動ドアから須賀が入ってくる姿が目に入った。
「社長、皐月さんが帰りに寄って欲しいと」
「車まで呼びに来たのか? 珍しいな」
鹿島が、マイバッグに最後の商品を放り込んでから須賀を見ると、須賀はひらひらと手を振っている。
「須賀さん、こんばんは」
小梅の声に驚いた。須賀が、すかさず返して「こんばんは」と言う。須賀が急ぎ足で入ってきたのもあり、小梅が話し掛けていいのか迷った素振りを見せると、今度は須賀が声を掛けた。
「小梅ちゃん、あれ見つかった?」
驚いた様子で、二人を見た。
小梅が腰を折って、レジのカウンターの下に手を伸ばそうとすると、須賀が慌てて手で制した。
「あ、今度でいい。それまで置いといて。近いうちにまた寄るよ」
「はーい」
鹿島はきょとんとしながら、二人のやり取りを聞いていた。須賀が鹿島からマイバッグを奪って、立ち去ろうとする。路駐の車を離れることに気を取られているのか、さっさとドアから出て行ってしまった。
その後ろを追って、須賀に追いついた。
「ちょっと、須賀くん。どうしてその、小梅、さんと?」
「え? 何ですか?」
通りを横切ろうとして、車が来ないかをキョロキョロと確認している。
「須賀くんは、ここに買い物に来るの?」
「え、ああ。はい。時々」
車が途切れた合間を見計らって、二人は通りをさっと横切った。
「皐月さんが、もうすぐ閉店だからって、急いでみえて。真っ直ぐに行っていただけませんか」
訊きたいことは山ほどあったが、鹿島はそう促されて、サツキフラワーへと足を向けた。胸の中がもやもやとして、もう一度振り返ると、須賀は運転席に乗り込んでドアをバタンと閉めた。
(……親密そうだったな)
サツキフラワーのドアの前に立つ。ドアが開くと中から出てきた冷房の冷気にふわっと包み込まれると、鹿島はようやく落ち着きを取り戻したような気持ちになった。
(須賀くん、いつのまに……)
落ち着きは取り戻したが、心の中は一向に晴れなくて、皐月が出してきたカタログのページも話の内容も、頭に入ってこなかった。




