表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/50

sixteen (side 鹿島)



「こんばんは。お疲れ様でした」


カゴを置くと、すかさず笑顔を寄越してくる。小梅の笑顔を見ると、疲れが吹っ飛ぶどころか、いつもは抑え込んでいる「疲れた」の言葉が、ついつい口から出そうになるのだ。


今日も疲れたよ、と言いそうになり、鹿島は慌てて、にこりと弱々しい微笑を浮かべた。


「……こんばんは」

「お疲れですね。ゆっくり休んでくださいよー」


小梅がてきぱきとカゴからカゴへとバーコードに通しつつ商品を移動する。

最近、このスーパー モリタに寄る時は惣菜を買って帰ることが多くなった。


ビールばかりではと思い、一度、肝の生姜煮をつまみに買って帰ったのだが、これが予想以上に美味しく、それ以来ビールとつまみの組み合わせで購入している。


「枝豆とビールの組み合わせが、身体に良いらしいですよ。健康にも気をつけなきゃ」


小梅のアドバイスで、枝豆にも手を伸ばすようになった。


「お惣菜、うちのシェフの秋田さんが作るんですけど、ちょっと美味しいでしょ?」


小梅が笑う。すると小梅の後ろで、仁王立ちになっている秋田が、小梅の頭を小突く。


「おい、ちょっと美味しいでしょ? とかバカにしてんのか」


小梅の言い方を真似して、笑いを取る。秋田は体格の良い、中年の男だ。どこかの日本料理の店に勤めていたが、リストラに遭い、ここへ来たという。


「小梅、惣菜タッパーに詰めといたから」

「いつもありがとうございます! 秋田さんの料理は世界一ですよ」

「まったく……お前は本当に調子良いな」


そんなやり取りを笑いながら、鹿島は財布から紙幣を出す。小梅から釣り銭を受け取ると、ありがとうと言って、カゴを持った。


(惣菜がいつのまにかビニール袋に入れてあるんだよな)


パックの蓋はきっちりと閉まっているので、惣菜の汁がこぼれ出ることはない。けれど惣菜を買った最初の時、パックが横になるとビールが汚れるか、と呟きながら鹿島がパックの向きを直してからは、必ずビニール袋に入れてくれるようになった。


(まだ若いのに、よく気がつく子だ)


ある日、小梅が言った。


「マイバックって、お持ちじゃないですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ