sixteen (side 鹿島)
「こんばんは。お疲れ様でした」
カゴを置くと、すかさず笑顔を寄越してくる。小梅の笑顔を見ると、疲れが吹っ飛ぶどころか、いつもは抑え込んでいる「疲れた」の言葉が、ついつい口から出そうになるのだ。
今日も疲れたよ、と言いそうになり、鹿島は慌てて、にこりと弱々しい微笑を浮かべた。
「……こんばんは」
「お疲れですね。ゆっくり休んでくださいよー」
小梅がてきぱきとカゴからカゴへとバーコードに通しつつ商品を移動する。
最近、このスーパー モリタに寄る時は惣菜を買って帰ることが多くなった。
ビールばかりではと思い、一度、肝の生姜煮をつまみに買って帰ったのだが、これが予想以上に美味しく、それ以来ビールとつまみの組み合わせで購入している。
「枝豆とビールの組み合わせが、身体に良いらしいですよ。健康にも気をつけなきゃ」
小梅のアドバイスで、枝豆にも手を伸ばすようになった。
「お惣菜、うちのシェフの秋田さんが作るんですけど、ちょっと美味しいでしょ?」
小梅が笑う。すると小梅の後ろで、仁王立ちになっている秋田が、小梅の頭を小突く。
「おい、ちょっと美味しいでしょ? とかバカにしてんのか」
小梅の言い方を真似して、笑いを取る。秋田は体格の良い、中年の男だ。どこかの日本料理の店に勤めていたが、リストラに遭い、ここへ来たという。
「小梅、惣菜タッパーに詰めといたから」
「いつもありがとうございます! 秋田さんの料理は世界一ですよ」
「まったく……お前は本当に調子良いな」
そんなやり取りを笑いながら、鹿島は財布から紙幣を出す。小梅から釣り銭を受け取ると、ありがとうと言って、カゴを持った。
(惣菜がいつのまにかビニール袋に入れてあるんだよな)
パックの蓋はきっちりと閉まっているので、惣菜の汁がこぼれ出ることはない。けれど惣菜を買った最初の時、パックが横になるとビールが汚れるか、と呟きながら鹿島がパックの向きを直してからは、必ずビニール袋に入れてくれるようになった。
(まだ若いのに、よく気がつく子だ)
ある日、小梅が言った。
「マイバックって、お持ちじゃないですか?」




