fourteen (side 小梅)
「この前の、花束の人っ」
自分が思っていたより、嬉しかったんだと思う。声が弾んで、そこら中に響き渡ったのが、少し恥ずかしかった。
「あの時はありがとう。本当に助かったよ」
その優しげな声にも、内なるテンションが上がる。私は、そんな気持ちを抑えるのに必死になった。
「喜んでもらえました? 彼女さんに」
取り敢えずの質問をする。
「ああ……すごく喜んでいたよ」
花束の男性は、私が期待していた通りの答えを返してくれて、ほっと胸を撫で下ろした。しかもサービスで笑顔までくれて。
抑えてはいたけれど、ダダ漏れな私の顔は、筋肉が緩みっぱなしできっとブサイクだ。
「とても気に入ってもらえたよ。ありがとう」
上手くいって良かった良かった。そう思ったけれど、心の中でもやもやと何かが邪魔をする。それを振り払うように、私は声を出した。
「良かったです! 気になっていたんですよ」
男性が持ってきたビールの六缶入りをバーコードリーダーにかざすと、私は男性を見た。
手触りの良さそうな財布からクレジットカードを出す。見ると、見たことのない黒色のカードで、なんだこれ? と思った。
けれど、とにかくうちではクレジットカードは使えない。その旨を伝えると、カードを引っ込めて代わりに一万円札を出してきた。
商店街の中の小さなスーパーでは、クレジットカードにも一万円札にもあまり遭遇することはない。
普段とは違った高級感に緊張して、私はいつもより少しだけ舞い上がってしまった。
ビールを袋に入れる時、少しだけその緊張感に邪魔をされたのか、手が震えた。袋の口がなかなか開かず、何度も指をスライドさせるとようやく袋が開いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございますっ」
嬉しさで言葉が跳ねてしまって、私はまたもや気恥ずかしくなってしまう。私は、その男性が荷台でお釣りを財布に入れようとしているのを見て、もう少し話したいと思って、言葉を探した。
「小梅ちゃん、今日も元気そうね」
振り返って見ると、レジカゴに山盛りの商品。私は、内心ちょっとだけ残念に思いながら、向き直ってカゴに手を伸ばした。カゴからカゴへと移していく。
「古賀さん、久しぶりだね」
何気ない話をしながら、ちらっと荷台を見る。すると、男性はまだ財布の中に硬貨を仕舞っているようだ。レシートを片手で折っては、財布のどこに入れようか、迷っている。
(ふふ、買い物に慣れていないんだ)
手早く古賀さんの買い物をこなしてから、レジカゴを両手で持ち上げて、荷台に運んだ。いつもの通りレジ袋に詰め込むと、古賀さんが目を合わせて顎を打った。私もこくっと頷いて返事し、レジ袋を両手に下げた。
重いけれど、これを八十歳を超えた老齢の女性に持てというのは無茶な要求だ。だから私はいつも、ここから歩いて5分の古賀さんの自宅まで、荷物を運んでいる。
古賀さんは、私のおばあちゃんにどこか似ている。けれど、おばあちゃんとは一定の歳を迎えると、みんなこんなように似た部分が出てくるのかもと思うと、本当に似ているのかどうかも、怪しいのだけれど。
二つ、両手に荷物を持って店の外へ出ようとすると、花束の男性がひとつ持つよと言ってくれた。
私はやっぱり優しい人で間違いない、と確信する。
「それじゃ、さようなら。良かったら、また買いに来てくださいねー」
手を振ってくれた。私にじゃないけれど、手を振ってくれた。
「また来てくれないかな……」
俯いてそう呟くと、隣を歩く古賀さんが、はああ? 小梅ちゃん、今なんて言ったのう? と、肩を寄せてきて、ふわっとサロンパスの匂いがした。
おばあちゃんの匂いだ、そう思って、私は何でもないよーと笑った。




