表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/50

twelve (side 鹿島)



ほんの気まぐれだった。

カラーとラナンキュラスの花束のお礼を言いたかったわけでもない。

取引先の社長の息子がバーを出店したと聞き、サツキフラワーへ開店花の依頼の電話をすると、皐月が「ちょっとカタログを見に寄ってくれない?」と言った。


「花は任せるよ」

『カタログががらりと変わったのよ。悪いけど、選んでもらわないと困る』

「めんどうだなあ」

『今度はちゃんと、お茶ぐらい出すから』


電話越しにくすくすと笑う皐月。

鹿島は、やれやれと思いながらも、仕事帰りにサツキフラワーに寄った。カタログから商品を選び、コーヒーを飲んでから店の外へと出ると、視界にあのスーパーが飛び込んできた。今日は閉店前の時間なので、客もまばらにいる。


(ちょっと、買い物でもしていこうか)


軽い気持ちで、自動ドアに立った。店内へと入ると、右手のレジに小梅が立っているのが見えたが、先に買い物と思い、店の奥へと進んでいった。


(こんな風に買い物するなんて、コンビニぐらいしかないからな)


そのコンビニさえ、一ヶ月ほど前のことだ。このスーパーでいったい何を買ったらいいのか、迷いながらもビールの6本ケースを一つ、手にした。

ワインの棚の前へと移動する。


(ああワインはやはり、良いものは置いていないな)


見たことのないワインのラベルと値札を前にして、鹿島は苦笑した。


(まあでもビールなら国産だし、どこで買おうが同じだからな)


ビールを持って店内を横切り、レジへと向かう。

レジは二列だったが、小梅の方へと並んだ。前に並んでいる客に話しかけているのか、笑顔を振りまいている。


(愛嬌のある子だ)


前へと進む。小梅は鹿島の顔を見つけると、ぱあっと笑顔を浮かべた。


「この前のっ! 花束の人っ」

「あの時はありがとう。助かったよ」

「あ、喜んでもらえましたか? 彼女さんに」

「ああ……すごく喜んでいたよ」


そう言いながら、鹿島はにこっと笑顔で返した。


誕生日の次の日の朝、まだキッチンのシンクに横たえられていた花束を、鹿島は牛乳を飲み干しながら、遠い目で見つめていた。

花奈はまだベッドの中だ。仕方なく引き出しから花瓶を出すと、中に水をなみなみと注ぎ入れ、そして花束を入れた。

透明なガラスのシンプルな花瓶にラナンキュラスが色を添えて、とても美しかった。それをシンクに置いたまま、鹿島は当分の間、見つめていた。


そして結局。

花奈は花束を持って帰らなかった。

帰り際、「リングを忘れないで。ちゃんと深水さんに頼んでおいてくださいね」と念押ししながら。

子どもに言い聞かせる母親のような花奈の顔が、脳裏に浮かんでは消えた。


「とても気に入ってもらえたよ。ありがとう」

「良かったあ。すごく気になっていたんですよ」


ふふふと笑いながら小梅がビールのバーコードをレジへと通すと、鹿島は胸の内ポケットから財布を出した。


「クレジットカードで」


ブラックのカードを受け皿に乗せる。すると、小梅は眉を下げると、申し訳なさそうに言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ