今宵ノ悪夢物語「小説 ある男⋯」
今宵ノ悪夢物語「小説 ある男…」
仕事の帰り道に、
古本屋に入った。
前から気になっていた駅裏の古本屋。
8坪ぐらいの小さな店、店主一人。
ガラ、戸を開ける。
うんうん、
この、しょっぱい様な辛気臭いにおいが、私の心を刺激する。
よし、お宝を見つけるぞ、
ポケットの中を確認し、私は意気込んだ。
雑然と並べられた本たちに敬意をし、私は一冊、一冊、本を吟味する。
この間などは、有名な大正詩人の詩集を見つけ歓喜した。その時の嬉しさと言えば、天にも昇る気持ちだった。
そんな過去の喜びを引きずりつつ、私は本棚を物色する。
カサ、
奥の棚の一つに、茶色くなった古い小説を見つけた。
作者 干川貢。
偶然だ、私の名前と一緒だ。
私と、同姓同名の作家が居たんだ。
私は、満更でもない気持ちで、その本を手に取った。
タイトル「ある男…」
変わった名前のタイトルだ、中を開く。
「仕事の帰り道に、
古本屋に入った。
前から気になっていた駅裏の古本屋」
驚いた、
まるで、私の今日の行動のようだ。偶然とは恐ろしい。不思議に思いつつも、私は続きを読んだ。
「8坪ぐらいの小さな店、店主一人。
ガラ、戸を開ける。
うんうん、
この、しょっぱい様な辛気臭いにおいが、私の心を刺激する。
よし、お宝を見つけるぞ、
ポケットの中を確認し、私は意気込んだ」
本当に、私の行動そのままだ。
こんな偶然があるのか、
その後の、私の行動も書いてあるのか?
「雑然と並べられた本たちに敬意をし、私は一冊、一冊、本を吟味する。
この間などは、有名な大正詩人の詩集を見つけ歓喜した。その時の嬉しさと言えば、天にも昇る気持ちだった。
そんな過去の喜びを引きずりつつ、私は本棚を物色する」
やっぱり、私の行動だ。
「カサ、奥の棚の一つに、茶色くなった古い小説を見つけた。
作者 干川貢。
偶然だ、私の名前と一緒だ。
私と同姓同名の作家が居たんだ。
私は、満更でもない気持ちで、その本を手に取った。
タイトル『ある男…』
変わった名前のタイトルだ、中を開く」
気持ちが悪い、
私の行動を予言して、書き記したような小説。手が震え出す、しかし…気になる。
続きを読む。
「突然のにわか雨に濡れる」
ザザーーッ、
突然、にわか雨が降ってきた。
また、小説のとおりだ。背筋がゾッとする。まったく私の行動と一致する。
この雨に濡れるのか?
私は、この本を買い、自宅に戻った。
雨に濡れる…
自宅、書斎。
濡れた髪を履き、本を開く。
「濡れた髪を履き、本を開く。
私は、過去の罪を悔やんだ。
実は、私は過去に人を殺している。今も捕まっていない。
ちょっとした手違いだった。不運に不運が重なり、彼女の首を締めてしまった。
泡を吹き、息絶えた彼女。私は、そのまま彼女の遺体を車に乗せ、山中に埋めた。今だに見つかっていない」
えっ、
なぜ、私の犯罪を知っている?
確かに私は、過去に人を殺している。今も捕まっていない。
ちょっとした手違いなのも一緒だ。不運が重なったのも一緒、彼女の首を締めて殺したのも一緒、
泡を吹き息絶えたのも、そのまま彼女の遺体を車に乗せて山中に埋めたのも、今だに見つかってはいないのも一緒だ。
何なんだ、
なぜ、この小説に書いてある?
私の心臓は激しく鼓動した。
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「それ以来、私は定職にも就かず、その日暮らしの生活だった。食べる物さえ困っている。私は、人生に絶望し荒んでいた」
その通りだ、
食べる物さえ困っている。実は、あの古本屋に入ったのも、半分、強盗をしようと思ったからだった。ポケットには、いつもナイフが入れてある。
人生に絶望し、荒んだ生活。
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「私は、買ってきた縄を柱に縛り付けた」
自殺をするのか、私は自殺をするのか?
紙袋を開ける。中には縄があった。
確かに私は、縄を買ってきた。しかし、それは古くなった本を処分するためだ。決して自殺するためのものではない。
おかしい、
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「私は静かに台に乗り、首を縄にかける」
やはり、私は自殺するのか!
バン、
私は恐怖のあまり、本を壁に投げつけた。
ザザーー、雨が強く降り出す。
ペラ、
風で、本のページがめくれる。
「バン、私は恐怖のあまり、本を壁に投げつけた。
ザザーー、雨が強く降り出す」
やはり、
私のことが書いてある。
私は、ゆっくりとその本を拾い上げ、再び読み始めた。
そうだ、結末は?
最後を読んでみよう、
パラパラパラ、パラ
私は、最後のページを開いた。
「私は、雨の中走った。
恐怖のあまり、そこから逃げ出したかった。
ヒュウヒュウ、ヒュウ、音がする。
ヒュウヒュウ、ヒュウ、
そして、恐る恐る振り返ってみた。
ああっ……」
何だこれは、
私は、雨の中、家を飛び出した。
走った、
走った、
恐怖のあまり、そこから逃げ出したかった。
ヒュウヒュウ、ヒュウ、音がする。
ハアハア、ハア、
ヒュウヒュウ、ヒュウ、
そして、私は、
恐る恐る、振り返ってみた。
ああっ……
古本屋、
パンパン、
店主が、古本の埃をハタキで叩いている。
その横、廃棄と書いてある箱があった。
中には、あの本がある。
タイトル「ある男……の死」