いえでかくれんぼ。てがさしだされる
すでに午前二時を過ぎていた。
彼女は日々の仕事に疲れていた。
あと少しで今日も終わる、そう思いながら話を続けた。
「えー、では本日、最後のメッセージを紹介します」
と言ったあと一瞬、言葉に詰まってしまった。
スタッフから手渡されたメッセージは、ぎっしりとひらがなだけが埋まっている。
彼女は文章を目で追いながら、自分でひらがなを変換して読みはじめた。
「これから先のあなたの未来。色々なことがある何よりも苦しいのは一人過ごす夜更け辛くて眠る気配も見られずでもその山を乗り越え逃れたならあなたは知る心に幸せをこれを最後まで信じるならばあなたの元に手が差し出される」
彼女はメッセージを読みながら今の自分の状況を重ねていた。
積み重なった疲労で、感情が不安定になっていたのだろうか。
彼女はメッセージを読み終わったあと、涙声で話を続けた。
「温かいお言葉、ありがとうございます。リクエストいただいた曲は米○玄師さんの『ピースサイン』です」
ラジオの向こうで、その言葉を聴きながらほくそ笑む男がひとりいた。
ずっとファンだった彼女に向かって、そのメッセージを送った人物だった。
翌日、「ラジオパーソナリティが殺害された」とニュースは伝えた。
殺害現場には容疑者が逃げもせずナイフを持ったままその場に立っていた。
警察の質問に対して、
「彼女はぼくの気持ちを泣きながら受け取ってくれました。だから、この手を刺し出しただけです」
と満足げに不敵な笑みを浮かべながら答えた。
警察は男が持っていたカバンの中から、一冊のノートを押収した。
その中には、同じ内容の文章が全ページに渡って書きつづられていた。
規則正しく、まるでパソコンで打ち込んだかのように1ページずつ同じ文章が並んでいた。
p1
これからさきのあなたのみらい。
いろいろなことがあるなによりも
くるしいのはひとりすごすよふけ
つらくてねむるけはいもみられず
でもそのやまをこえのがれたなら
あなたはしるこころにしあわせを
これをさいごまでしんじるならば
あなたのもとにてがさしだされる
p2
これからさきのあなたのみらい。
いろいろなことがあるなによりも
くるしいのはひとりすごすよふけ
つらくてねむるけはいもみられず
でもそのやまをこえのがれたなら
あなたはしるこころにしあわせを
これをさいごまでしんじるならば
あなたのもとにてがさしだされる
p3
これからさきのあなたのみらい。
いろいろなことがあるなによりも
くるしいのはひとりすごすよふけ
つらくてねむるけはいもみられず
でもそのやまをこえのがれたなら
あなたはしるこころにしあわせを
これをさいごまでしんじるならば
あなたのもとにてがさしだされる
・
・
・
p50
これからさきのあなたのみらい。
いろいろなことがあるなによりも
くるしいのはひとりすごすよふけ
つらくてねむるけはいもみられず
でもそのやまをこえのがれたなら
あなたはしるこころにしあわせを
これをさいごまでしんじるならば
あなたのもとにてがさしだされる
数日後、パーソナリティの女性のスマホから彼と似たようなメッセージが見つかった。
彼女は自身のSNSで、その文章を書き込んでいたことが警察の調べで明らかになった。
これからさきのわたしのみらい。
いろいろなことがおこるだろうな
くるしいことやかなしいことには
どうしてもがまんできずになみだ
たとえいくねんがすぎたとしても
わたしはただおびえながらいきる
だれかにこのさきあまえさえせず
きょうもひとりいえでかくれんぼ