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デッド・メモリー  作者: えあの
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第2話

幕間


時刻は日の沈む夕方18時、路地裏に私服の上に白衣を着た少年と5人の男女が向かい合っていた。

白衣の少年から話し始めた。


「お前らの狙いは俺と隼人なんだろ?隼人はお前らに負けないと思うよ。

だって俺の…あー…もういいか。僕の記憶を預けてあるからね」


「はあ?何言ってんだてめぇは」


「君たちが僕たちを殺して何を遂げたいのかはわからないけどそれを持ってるってことは多分そういうことだろうね…

なぜ、作ってもないそれを持ってるのかの詳細を知りたいところだけど、まぁ研究者としてはこの結果は喜ばしいことだろう。礼を言うよ」


彼はそう言いながら左手に手袋をはめた。


「何もわからない状況だけど、一つわかることがあるよ。目的は違えどそれを作ったのは事実僕だからね。こうだろう?

『その記憶は君たちのものじゃない』」


「は?」


「あー、ごめんね鎌かけてみただけなんだ、違ったようだね。その反応はなんかそれをただ超能力が使えるようになるだけのものだと思ってそうだし知らなそうだね」


「おい、てめーさっきから独り言うるせぇぞ」


後ろにいた背の高い青年がしびれを切らしたようにそう言い、拳を鳴らした。


「ごめんごめん、長く話しちゃうのは僕の悪い癖なんだ。じゃあ、始めようか」


夕焼けの空を黒い雲が覆っていき、白衣の彼の周りには氷の粒が漂っていた。





第二話


「もうこっちには来ないみたいだね」


その声の瞬間なにかが解けたかのように目が覚める。窓を見ると外は暗く、すでに夜になっていた。時計を見ると21時、おそらくだが4時間ほど時間が経っていた。


「え、君は何を…」


「説明は苦手だって…えーっと…この宝石、ディザイアって呼んでるんだけどこれを私は集めてて、いわゆる超能力が使えるみたいな…」


と薄黒く光る宝石を取り出した。その宝石は


「その宝石、なんで集めてるんだ?」


「わからない、目が覚めた時集めなきゃって。それから集めてる」


「目が覚めた時?」


「1カ月?そのくらいにそこで目が覚めて」


とライは公園を指す。公園に住んでたってそういうことか…食事とかはどうしたんだろうか…


「あ、隼人、外はもう大丈夫だよ多分」


忘れてた…一旦電話試してみるか。

と電話をかけるとすぐ繋がった。


「もしもし?真二!?大丈夫なのか?」


「あ、うん。なんだ?」


「いや、なんだじゃなくて真二が最初に電話かけてきて…」


「あ、そうだったな…忙しくてな。えっとまぁちょっと明日でもいいか?」


いつもと口調が違うように聞こえる。


「いいけど、なんかさっきからお前おかしいぞ?」


「あ、ちょっと人の前だからな…明日休みだし私の家で!」


半ば強制的に切られる。


「大丈夫だった?」


不安げにライがこちらを見てくる。


「あ、うん」


「ごめんね、あれは今まで感じたことないレベルのものだったから焦って無理な手使っちゃった。よく考えたらもしあなたにとって本当に大事な用だったら私がついていけば良かったなって思って。」


「一応真二は何事もなかったみたいだし、まぁ結果的にオッケーだよ」


会話をしながら多少疑いはしたが最初から僕の身に危険があるということを知らせていた。今のところ敵意みたいな、そういうものはまだ感じられない。


まぁ、何もわからない状況ではあるしあまり疑うのもよくないか…

そこで


「良かった…」


とライはほっとしたように笑みをこぼし胸を撫で下ろす。

可愛い、僕は考えるのをやめた。


お腹が空いたなと時計を見ると23時を回っていた。


「時間ないな、カップ麺だけど食うか?」


「かっぷめん?」


「まぁ見た方が早いかな、この中から好きなのを選んでくれ」


年端もいかない少女にこんな時間にカップ麺を食べさせる自分が不甲斐ない。


「じゃあ…これ」


「うどんか。チョイスいいな、僕も同じのにしよう」


水をやかんに適当に注ぎ、カチッとスイッチを回しガスコンロの火をつける。そんな当たり前の日常の動作をしている前に非日常が存在していることを認識する。真二の行動、なぜかチラシをはさみで切り刻んでいるライという名の少女。


………。


明日にでも、何か知ってそうな真二に聞けばすべて解決するのだろうか。


あ…というかライのこと、警察に届け出なくていいのか?近所付き合いが少ない方だし短期間ならどうにか誤魔化せそうだが…。


「そういえば思い出したんだけど、ライが持ってる手帳について聞いていいか?」


「えっと、あれは目が覚めた時に手に持ってたよ?人の名前とかいろいろ書いてあって、私の字で間違いはないと思うけど書いた覚えはなくて」


「なるほど、じゃあディザイアってのもそこに載ってたってわけか」


「見た目と種類みたいなのはリストみたいに、でも私持ってる人を見たら何なのかある程度わかるから意味はないね」


「え?じゃあ僕のは?」


「普通のとはなにか違うけど、正直なところよくわかんない。まぁ強そうだったらそれはそれでわかるし、すごく弱いとか?」


少しにやけながら煽るように言ってくる。


「ははっ…」


苦笑いで返す。ともかくあの宝石みたいなディザイアという名前のもの、見た覚えはないが…。


「じょ、冗談は置いておいて、君そっくりの顔の写真の欄にカイトってあって、髪色は違うけど目の色が黒で一緒なの。ほら」


こういうものを見ると寒気がするとか聞いたがそういうものは一切感じなかった。


見せてきたものはまるでドッペルゲンガー、生き別れの双子かのように自分の容姿そっくりの人物、写真には白髪の僕が映っていた。いや、多分僕じゃないんだけど。


「確かにそっくりだな、髪染めたらもうそのまんまだ。こいつのディザイアって欄、空欄だが書き忘れとかか?」


「むー…この手帳を書いた時の記憶もないし私は知らないなぁ。実際にみたらわかると思うんだけど」


「そうか、というかできたぞ。うどん」


「うどーん」


最初と比べてすごくライのノリが軽くなった気がする。まぁその方が気持ちが楽でいいんだが。


二人ともうどんを5分ほどで平らげ、風呂に入り歯磨きをする。ちょうど歯ブラシは新品がありその上真二が泊まりに来た用の布団があったため二人とも無事に寝床につくことができた。


そのあたりは何事もなかったがライの換えの服がなかったところが問題点であった。明日真二の家に行くついでに買いにでも行こうか。


うぅ…なぜかゴールデンウィークが丸々つぶれそうな予感がするなぁ。そう思いながら寝床についた。






ピピピピッピピピピッ……


あ…目覚ましが鳴ってる…、早く起きないとな…


目覚まし時計に触れようと手を伸ばした瞬間、目覚まし時計の音が止まった。


「ちょっとうるさい…。」


ライは目覚まし時計に話しかけていた。何をしているのだろう…


見ているとライは右手を構えた。


咄嗟に僕は


「ちょっ、何するかわかんないけどやめて!」


とライの手を止めた。


「始末しないと」


「いや、えっと、そうじゃなくてだな…」


「?」


「え?機械音痴?」


「なんか…バカにされてる気がする」


と不機嫌そうに睨んでくる。


「まぁ朝飯食べようよ、パンでいいかな」


「うん」


「パンは知ってるのか、やっぱ外国籍とかか?」


あ、違うわ、パンは英語でブレッドか。パンってどこの国の呼び方だったっけ…語源はポルトガルって真二から聞いた気が…。


「何を言ってるの?手帳になんでも書いてあるよ」


「なんでもは嘘だろ。手帳か…なんか長そうだし、機会があったら見るかも」


あの手帳の文字、何書いてあるか読めないし…。


「うん、あ、でも勝手には見ないでね」


「え、なんでだ?」


「なんでも!」


いつみても変わらなくないか?と少し思ったが、ふむ、何か見られてはいけないものでもあるのだろうか。


食パンに焼きたての目玉焼きを乗せて簡素ではあるが作ってみた。まぁいつもはめんどうで食パンそのまま食べるのだが他人に食べさせる以上はこのくらいはしないといけないだろう。


そのあとサラダと諸々、栄養配分がいいように作ってみた。マシにはなっただろう。


「できたぞ、ライ」


「ごはーん」


あれ?ご飯の時だけテンション上がってないかこいつ…。


「なにこれお皿の上にお皿乗せてるの?」


そう言いながらパンに乗せた目玉焼きだけをスプーンですくって食べていた。


「えっと、ライ。パンと一緒に食えよ。」


「パンってこれ?これは可食部なの?」


「え?食パンは知らないのか?」


「手帳には丸いやつが載ってたよ」


「なるほどな……どこまで知ってるのかもうわからん」


その後もライはコップに注がれた牛乳をスプーンで掬って飲もうとしていたり、とうもろこしを一粒一粒フォークで刺して食べたりと奇行を見せていた。


これはもうあれだな、見事にも扱い方を間違える天才だ。


「あ、そういえば服を今日買いにに行こうと思うんだが」


「ん?いってらっしゃーい」


そう言いライは左手をおおげさに振る。


「いや君の服がないってことなんだが」


「む…」


「まぁ女性服なんてわからないからライ自身についてきてもらいたいって話なんだ、あと普通に恥ずかしい」


「ふむ、ラジャー」


ライがそのまま雑に左手で敬礼をする。左手で敬礼はしたらいけないって真二が言ってた気がする。


「あとその流れで真二の家にもついてきてもらってもいいか?」


「遠い?」


「うーん…そこまでじゃないとは思う」


「じゃーがんばる」


「今すぐじゃないから準備だけしててくれ」


「準備するもの…ないけど?」


「そ…そうだな…」


そういえばリュック以外何も持ってないもんな…


「予定まで時間潰すか」


そういえばテレビを最近設置したのだった、小さいけど。


「ライ、なんかテレビ見るか?」


「テレビ?」


リモコンでチャンネルを変え、教育番組をつける。


「すごいね、これの情報は手帳にはなかった」


思ってた反応と違うな…なんかこう、なかに小さい人が!とかそういうのを想像してたんだが。


「とりあえず10時には出発する予定だからそれまでテレビ見るでもなんでもしておけば…ってそれ以外することねぇな」


「じゃあテレビみるよ」


今度なにかゲームとか本でも買って来た方がいいだろうか、この家娯楽が少なすぎる。


ライは元々持ち物があのリュックしかないから準備は必要ないが自分は一応多めにお金を財布にいれ、あとは鍵と手帳でも持って行っておこうか。


分厚く使えそうだと思いちょくちょく持ち歩いている、まぁ一回も使ったことがないのだが…。


「ん?」


この手帳、新品だがライのものと同一のものであることに気づく、というかこれどこで買ったんだろう、買った覚えすらないな。なんか寒気がする。うん、気にしないでおこう…。


そんなことを考えているとあっという間に時刻は9時になってしまった。


ライはさっきまで教育向け番組、要は子ども向けの番組を見ていたのだがニュース番組にチャンネルを変えたようだ。


「面白いか?これ」


「文字は認識できる、ただ知らない単語がたくさん並んでる。意味は多少文脈から予想できるけど知識が足りないね…」


ライはどこまで日本語喋れるんだろう、今の時点でかなり達者だが…。


「今度電子辞書…あーいや、スマホでも買うか」


年齢的に早すぎるか?そのあたり世間的にはわからないが、電話もろもろ最近の情報を調べるにはスマホがあると楽だろう。


「よくわからないけど、貰っていいの?」


「まぁ今すぐは無理だけどな、なんかの記念として買ってあげるよ。あ、記念と言えば自分の誕生日っていつかわかるのか?」


「それも手帳に…あれ?…」


ライの目にうっすらと涙が浮かんでいる。


「おい、なにか思い出したとかなのか?」


「わからない…」


なんだろ、記憶を刺激するのはよくないかもしれない、とりあえず話題を変えなければ…


「えっと…あ、僕の誕生日は」


「6月22日でしょ?」


「え…」


自分が言おうとした瞬間、答えられた。


「あれ…?私なんで知って…」


しばし沈黙が流れた。


「て、手帳に載ってたとかじゃないか?」


「見る限りはなかったけど見落としてたかもしれない。もう一度…」


なぜか今手帳を見せるのはいけない気がした。


「もう考えるのはやめておこう、そのうち自然に思い出せるかもしれない」


「うん…」


そのあと準備したものを確認するふりをしながらライの行動を思い直していた。


まず、記憶力が悪いかはわからないがおそらく、事実として記憶喪失なのだろう。


手帳に残したのは本人だとして記憶が曖昧になることを予期していた可能性がある。


ここまで色々おかしかった点は呑み込んでいたが、考えてみるとそもそもディザイアという正体不明のもの、日本語を知っているのに現在の文明をそれほど理解していない点、僕の容姿そっくりの人物の写真を持っていることなど、不可解な点はこの一日だけでも何度かあった。


現実味を帯びない話ではあるがライは都市伝説などで聞く平行世界とか、そういうところから来たのかもしれない。


これは…真二の好きそうな話題だな…今日真二に聞いたら少しでもライの正体が分かってくるのだろうか。


少し考えがまとまり気持ちが楽になった。

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