第1羽、男性は女性向けソシャゲがお嫌い?(3)
三毛猫が少女を慰めていたからとか、問題を起こされたらどうしようかとかそういった類のものじゃない。不思議と嘴から出ていて、今はただ、少しでも愚痴って楽になって欲しい想いがあった。
泣き過ぎた影響か小鳥遊からハツラツさが薄くなり、戸惑う様子もなく語られた。
「オレは……ゲーム好きだったがイケメンがキラキラするようなソシャゲやらプレイせずに生きてきた。CMやアプリランキングで目にはしていたが、それでも興味を持てずじまい。でもある日、運命の出会いがあった。姪っ子の付き添いで『カナミラ』のオフ会で知り合った和葉さんだ」
小鳥遊が話すには綺麗で品のある、自分とはまるで真逆の和葉に惚れ、その場でカナミラをインストールしてフレンド交換をするくらいゾッコンだったと言う。
「和葉さんの好きなキャラは宮野奏羽という王子様キャラで、よくコラボカフェに行ってはジュースだけで腹がはち切れそうなほど飲んだよ」
涙は一旦止まり、ケラケラと笑いながら話してくれる。聞いているこちら側も思い浮かべるだけで腹が脹れ、顔が緩む。小鳥遊は好きな人物の好きなキャラを知ろうと宮野バナーイベントでは課金をしたり、ノベルやムックも購入したりと努力を重ねたそうだ。
「さすがに今からパティシエは無理だと断念した。オレ、ガサツだしケーキ自体も不味くなるだろうし。けど和葉さんに喜んで欲しくてプロポーズする時は気合い入れてさ! 姪っ子の手を借りて宮野の制服をチクチク縫って、会場に薔薇を降らして貰ってさ。OKされた時は飛び跳ねて喜んだ」
行動力の高さに目を見張る。並大抵の努力じゃなく「凄いですね」と尊敬の意味を込め、彼を称えた。
「ありがとう。宮野奏羽本人にはなれないけど宮野奏羽みたいに振る舞えば和葉さんはオレを見てくれる。自信がついたオレは結婚式でさらにバージョンアップさせた」
あっ、と百は嫌な予感を察した。
(振る舞おうとした?)
さらに惚気けていた小鳥遊の顔に影が入り、俯く。目を凝らさなくても後頭部に円形ハゲがあるのを確認できた。
胸の奥が捻られたような苦しさを覚える。
「式場もカナミラのパティシエズをモチーフにした感じにしてさ、お色直しで和葉さんには宮野風の衣装を着て貰った。昔馴染みのバンド仲間を呼んでカナミラの曲を披露すると和葉さんは泣きながら喜んでくれた。だったん……がな……」
『僕についておいで、子猫ちゃんに子犬くん達! いつでもどこでもスウィートな時間を僕と過ごそう』
一人と一羽の上で宮野奏羽がモブ達に百点の挨拶でメロメロにさせていく台詞が流れた。キュンとするどころか虚しく響く。小鳥遊は目を逸らした。
「やっぱ無理だと逃げられた。自分には宮野君しかいないって。……和葉さんを、宮野奏羽のせいで」
非常にか細く呟かれ、周囲が静かでなければ聞こえなかっただろう。初めはキャラに怒りの矛を向けていた発言は今や行き場を見失い、自分に突き刺している。
「オレ、今も和葉さん一筋だけどまた大切な誰かに拒まれるのが怖い。あぁ、どうしよう。行動力が取り柄の魅力のないオレはどうせどこに行ったって……」
膝をしきりに擦り、ため息ばかり零す。
(これはまずいぞ)
迂闊に話を聞くべきではなかったのかと後悔の念に苛まれる。小鳥遊は泣いてスッキリするタイプの男だったかもしれない。できたばかりの傷口に触れるのは開きやすいし、悪化しやすい。
(紅月家の女姉妹はまさしく勝手に立ち直るタイプだ。愚痴を聴いた後、結架は頬を叩き、羽優は脇を引き締める)
あの。呼び掛けは出なかったのかモモに遮られたのかわからない。
「なら、カナミラの世界はどうでしょうか?」
「……モモ?」
いつの間にか後方にいた彼女は相変わらず笑顔のまま、肩を落とす小鳥遊に声を掛けた。
「なんで……だ?」
「カナミラは中学生から高校生が青臭い青春を駆ける世界です。二度目の人生でそれを体験し自分自身を見つめ、仲間達と高め合うのもいいかもしれませんよ。転生した場合は必ずこの学園に入学するシステムになっていますのでパティシエ以外にアイドル、警察官などなど職業の幅も広いです。それにまだこっちから向かった方はいないので出会すこともないかな、と」
饒舌に話すモモを小鳥遊もモモもぽかんとする。
「けど……オレはもういい年こいた三十代だし……」
「それには心配及びません。異世界転生案内ではお客様自身が転生するキャラを既出か新かを操作できたり、転生した場合の年齢や性別も細かく指定できます。説明不足ですみません」
さらっと部下の罪を被り、モモに続きぺこりと頭を下げた。
「そう、なのか……」
「ええ。和葉さんが好きな宮野奏羽に転生することも可能です」
「えっ」
「ですが、これはあなたの第二の人生。思い通りにカスタマイズできるのなら、その新しいあなたのまま生きて現世の悔いを晴らす方がいい、と私は思いますがね」
真剣に、けれど愛情を持って自分の考えを伝えた。
(眩しい。今の僕にはモモが眩しくて堪らない)
自分の人生を決めるだけでも恐れるのに、他人がこれから歩んでいく人生を一緒に選ぼうとしている。
「あくまで私の考えです。小鳥遊さん、あなたは今さっき、自分には魅力がないんだと卑下しましたがそうでしょうか? 愛する人のために真逆のタイプにしがみついたあなたは青臭くもあり、和葉さんへの愛に溢れていた。それって私から見たら凄く魅力的だし、頑張る域を超えていました。自信を持ってください。少なからずあなたに惹かれ、救われた人はいます。光線を浴びる直前で助けた同僚の女性はちゃんと生きてます」
足元がぐらついた。小鳥遊は泣き崩れ、雄々しい涙声を上げる。だが、への字はなく口角は少し上がっていた。




