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プロローグ──紅月百が案内人鳥になるまで(6)

『百はさ、聞く仕事に就いたらいいと思うよ』

姉妹の話に相槌を打ちながら首を捻る。

『今の時代、自ら新しい職業を産みだすことも出来るし〜百ならそっちの方が向いてるよ』

『絶対に向いてる。百にぃなら向いてる』

(そんな聞くだけの仕事、あんのかな)

「でも、僕もお前らや親みたいな創作する仕事にも興味が……って。結架(ゆか)ねぇ? 羽優(はゆ)? 急にかくれんぼされても困るんだが!」


──薄らと開かれた目に入り込んだ光。

(ここは……どこだ。木目の天井……あ、百ノ湯とかいう銭湯にいるのか?)

ということは死んでいない? 

疑問だらけで起きると腹の上に肉が溜まった。百七十三と平均より少し高めの身長でBMIが低めなのに、余分な肉があるなんて有り得ない。しかもすんなり起き上がれる割には手を後ろについていないと転がりそ──

「手?」

親指から小指までの感覚がない。

(長さも短めじゃないか?)

思い切って腕を確認するとそれは筋肉もついていない薄い板のような、

「僕の手、こんな黒々と焼けていたっけ?」

日焼けの経験はあるが、腕のこれは黒だ。真っ黒。

「そもそも腕じゃない。翼?」

自分の口から「翼」が出たことにより、さらなる現実が突きつけられる。五本指だった足が尖った三本。

「三本?」

「あ、やっと起きたね。紅月百君!」

背後から飛んできた声に肩を揺らし、顔だけ向ける。

にっこりスマイルで宴会場に入室してきたモモの手には鏡がある。

「無理矢理体の形を変えたから負担がかかったんだろうね。でも大丈夫。人語は話せるし、人の言葉もわかる」

(僕の姿、人間だよな?)

縋るような視線に気づかれ、笑みを絶やさないまま向けられた鏡面に全身が映る。

嘴の先にはピンク色に禿げた肌。くるくるな瞳。腹全体が白く、太めの黒い線がアーチをかけている。

「なっ──」

「可愛いでしょ? 昔、日本に立ち寄った時にペンギンっていう珍しい生き物を見てね! 今じゃ日本はペンギン大陸らしくて紅月百君の出身国からこの子がピッタリ! と思ったんだよ」

「……フンボルト」

「そうそう! どうしてわかったの?」

どうしてもなにも、人生初の修学旅行でフンボルトペンギンを鑑賞したからだ。興奮状態だった百は少ない小遣いで図鑑を購入した苦くも楽しかった思い出がある。

「フンボルトは腹のラインで区別しやすいんです」

「そうなんだ〜! また一つ勉強になったなあ。では紅月百君、改めて看板娘ならぬ名物ペンギンとして、異世界案内頑張ろうね!」

(無垢な笑み、無垢、純粋、悪気はないと……思いたい)

モモの顔の横に手をかざされる。恐らく百の返しを待っているのだ。

(悪気はない?)

ペチンッ。擬音にしたら可愛いハイタッチは受けた相手に苦痛の顔をさせる。

「い、いったああ!! ペンギンの翼ってこんな硬いのお!?」

(心を読む能力があるのに?)

考えれば考えるほど、ぐらぐら腹の底で鍋が煮える。

「説明くらいきちんとしろ、命の恩人! 僕ら人間は大抵が凡人なんですよ、大事な条件吹っ飛ばして契約を結ぶとは悪徳商法になります。それからこれはフリッパーだ!」

「うわあ、ガン飛ばされながら褒められてる」

「褒めてません! もう一発ハイタッチします?」

「ご、ごめんなさーい!!」

長い眠りから覚めたペンギンは恩人の後ろを付け回す。愛らしい顔から離れた警戒心高め顔をして。

それから、畳はとても歩きにくかった。

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