第1羽、男性は女性向けソシャゲがお嫌い?(4)
「では転生の手続きを行いますね」
モモは小鳥遊に書類を渡し、しっかり目を通して貰う。承諾を得たら拇印かサインを。その間、百は置き去りだった。
手続きでサインをして貰うまでは研修でやった。だから仕事を放棄したも同然なのだが、フリッパーを挟もうとすれば「ありがとうございます、次はこちらを」「ここ抜けていますね」「もう一度ご確認いただきますようお願いいたします」とモモに先を越される。
(僕の接客態度が気に入らなかったのか?)
一切目が合わないどころか、口調も正していた。わずかに開いた嘴も横に結んでしまう。
だが、項垂れてはダメだ。
(とりあえず、モモの仕事振りを観察して小鳥遊さんを見送るんだ)
「これで小鳥遊さんにやっていただく手続きは全て完了です」
「フゥー、結構あるもんだな」
「お疲れ様でした。今から奥の間に行きましょうか」
奥に部屋なんて存在したのだろうか。
モモの後を踵を浮かせて伸びをする小鳥遊と共についていく。
宴会場及び案内所を抜け、左に曲がると階段を上がった時にはなかった襖一枚が現れていた。
(いつの間に……)
「どうぞ中へ。布団を敷いてあるのでまずはお休みになってください」
「えっ、いいのか? 眠くなってきたから助かるが……」
くかぁ、と大欠伸をする小鳥遊にモモはニコリと笑う。
「はい、もちろんです。浴衣もご用意させていただきましたので、お好きに着用してくださいね。またお声掛けしますのでそれまでどうぞごゆっくり」
「何から何まですみません」
とろんとした目付きのまま頭をペコペコ。どこか厳つい、取っつき難い印象もあったが根は良い人だ。
(やるだけやって収集がつかないまま、モモに仕事を押しつけてしまったのがする心残りだが)
広い背中が二人の前に出る。そのまま襖を引くかと思ったら、小鳥遊は眠気を抑えてしゃがみ込んだ。
目線はまだ高い。けれど綺麗な歯を零して笑いかけられた。
「ペンギン、世話になったな。愚痴……つーか、和葉さんとの思い出を聞いてくれてありがとうな!」
(……あっ)
わしゃわしゃ。頭の羽毛が乱雑に浮き出て、「今度また会ったら美味い刺身でも食わせてやるよ!」と最後の最後に太陽を見た。
トクントクンと鳴る心臓は全身を暖かくさせてくれる。
「……ごちそうさまです!」
太陽は隠れた。それでも届いたと思う。
嬉しい、嬉しい──悔しい。