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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジー 短編

【短編】中二病患者の中年は躊躇しない

まあ、アレだ。


ちょっと適当シリーズ書いていたら湧いて出たバグなんだよ。

「オッサン!撤退だ。今なら奴は気付いていない」


 まだ少年と言った風貌の男が前方へと叫ぶ。


 オッサンと呼ばれた人物の先には巨大な物体が見えている。


「いや、アレがトロールだろう?今と昔じゃトロールって奴の認識が違うのかもしれんな」


 どこか力が抜けたような口調でそう呟くオッサン。


「ちげぇーよ!あんな馬鹿デッカイトロールが居てたまるか!どう見てもアイツが居るのは山脈ん中だ!」


 少年はさらにオッサンにそう続けた。


 しかし、オッサンは全く意に介していないらしい。


「とは言っても、せっかく再就職先を見つけたんだよ。手ぶらで帰る訳にはイカンでしょ」


 オッサンは振り向いてそう語る。


 オッサンも少年も、21世紀日本には似つかわしくない。いや、とあるところへ行けば出会えるような恰好をしている。


 少年はファンタジー小説に出てくるような皮鎧を身に着け、それとは少々不似合いな日本刀を下げている。


 武士の様に帯に指すのではなく、サーベルの様にベルトから下げているのでその姿との違和感はぬぐえないが、今の日本ではよく見かける光景である。


 対してオッサンは、ファンタジーでもパワードスーツや鎧を着こんだバトルもので目にするようなゴツゴツした出で立ちだ。

 さらに、それがパワードスーツであることを強調するかの如く、細身の格好には似合わないほど巨大な薙刀を軽々と肩に担いでいる。


「オッサンはテスターだろ。そいつは国の研究所が作った試作品だ。まだその能力すらわかんねぇ。基本的なテストが終わったばかりなんだ。しかも、アンタ初心者じゃねぇか!」


 少年はさらにイラついてオッサンへと突っかかる。


「そりゃあ、ついこの間まで普通にリーマンやってたのは確かだ。


 が、それは仮の姿でしかない。これまで20年来こんな現実を望んで来たんだ。分かるだろ?


 戦隊シリーズや変身ヒーローみてカッコいいと思ったのはお前たちもじゃないのか?」


 そう言われて否定も出来ない少年。


「そっから僕はね、アニメにハマっちゃったの。周りがアイドルだのブランドがどうしただの言いだして、水着のグラビアがどうしたとかさ。


 でも、そんなアイドルが魔法使う訳でも、エルフや女神さまな訳でもないんだよ。普通の人間。


 擬態はしたさ。一応、アイドルグループにハマったフリだとか。流行の外国映画とかさ。


 だけど、その外国映画がロボットや宇宙戦争やってんだぜ?


 おかしいと思わねぇか?


 アニメ否定して賢ぶって、常識ぶってる奴がだ!


 なんで所詮は同じファンタジーやらフィクション系の宇宙戦争やロボの話をイキって偉ぶってんだっうつうの!」


 いきなり始まった独白に少年は付いて行けない。


「だから、擬態を止めてやったさ。


 いきなり引きだしたんだ。オカシイだろ?お前と変わりねぇのにだ。


 そんな事を何度もやりながらここまで来た」


 オッサンはそこまでまくしたてると、前を向いた。


「デイダラボッチだろ?あれ。


 映画で見た奴だ。


 よく似た青い半透明の巨人が暴れるラノベもあったな。


 フィクションだと思ってたものが現実になりやがった。今じゃ擬態しなくても魔法や超能力の話なんか普通にやってる。


 もはや現実なんてものが存在しない。


 なあ、これはちょっとした恐怖じゃないか?」


 不意に少年を見るオッサン。


「これはね、中二病にようやく巡ってきた幸運なんだよ。


 うだつの上がらねぇリーマン生活で擬態を強いられてきた僕らに巡ってきた幸運。破滅の罠かも知れないこの機会を逃したら、きっと後悔するんだ」


 愁いを持った顔で少年を見るオッサン。


「だから、ちょっと赤い球になってアイツの周りを舞ってくるよ」


 そう言ってそのパワードスーツのバイザーを自然に降ろすオッサンのナントも自然な姿に、制止の声が一瞬遅れた。


「オッサン、分かってんなら退けよ。相手はこっちなんか認識してねぇって」


 だが、その声はオッサンの作り出した衝撃波でかき消されてしまう。


 僅か3歩で音の壁を超えたオッサンにはもちろんその声は届いていない。


 音の壁、秒速350m、更にその3倍を超えると熱の壁が存在する。


 赤い球になるには熱の壁を越えて摩擦熱で周りを発光させれば良いんだろうと考えたオッサンはその考えをあっさり実行した。


 体が熱に晒されないようにフィールド展開も忘れない。


「さて、エスパー少年の様にアレの周りを舞って切り刻んでみようかなっと!」


 そう言ってジャンプすればさっきまで遠くにいたはずのデイダラボッチは目の前である。空の青を移しただけで実はほぼ透明の体は至近に近づくと実態を掴むことが難しい。気配だけでその存在を感知して、空気の階段を蹴って周りを左右へと移動し続ける。


 急所が何かは良く分からない。核だとか顔だとか、そんな明確な目標すら見えない輪郭だけの相手に向かって薙刀を突き立て、そのまま空を蹴って切り裂いていく。


 熱の壁の向こう側の速度を維持したままデイダラボッチの気配が消えるまで高く上り、そこで今度は天頂の空気を蹴ってデイダラボッチの頭めがけて薙刀を振るい、着地する。


 自身に重力を上乗せして弾丸のようにデイダラボットの頭を踏みつぶし終える。


「ま、これで倒せなくても僕はテスターだ。もう、テスター報酬1日分の仕事はしたよな」


 そう呟くとそのまま頭を足場に出発地点へと飛んで戻ろうと跳び上がった。



 少年の側からは衝撃波の後にまさに火の玉が出現し、すごいスピードでデイダラボッチへと向かうのが見えた。

 背景となる山脈よりも大きな巨体。


 遠近法による効果ではなく、それは現実なのだと、近くの山が主張していた。


 少年の目測ではデイダラボッチの高さは千m超え。背景の山脈が低いとはいえ五百mを超えるのだからそこに間違いはない筈だった。


 ただ、そのあまりの大きさに距離感がおかしくなるが、明らかに10km以上遠方のはずだが、火の玉はまさに音以上の速度で進んでいるらしく、僅かな時間で足元へ至り、何かのイベントでも見るかのように鋭く上昇を始めたかと思うと周りを本当に舞いだしたように見える。


 ユラユラ軽やかな乱舞をしながらデイダラボッチを飛び越えた。


 世界がこんなになる前に見たプロジェクションマッピング。綺麗だったなと。まったく場違いな事を思っていたら、火の玉がデイダラボッチの頭へと突っ込んでいく。


「おじさん!」


 少年と共にいるパーティの誰かがそう叫んだ。


 どう見てもそれは自爆に見えた。


 しかし、次の瞬間には火の玉はデイダラボッチから抜け出し、こちらへと飛んできた。


「ヤバいヤバい、逃げる・・・」


 少年は隣からそう促されたが、脚が動く前に衝撃波と熱波が襲った事でその声はかき消されてしまった。



「ふう、みんな、どうだった?」


 何とか衝撃波と熱波を防いだ少年たちにオッサンのそんな暢気な声が聞こえて来た。


 だが、少年たちはオッサンを見る余裕なんかなかった。


「たった一人でデイダラボッチを倒しやがった・・・」


 オッサンの背景と化しているデイダラボッチが崩れ落ちていくのが見えた。


 それは積乱雲が崩れるかの如く音もなく形を失っていき、少し後にはものすごい突風が彼らを襲った。


「おわっと」


 その突風が見えていた少年たちは何とか防御できたが、オッサンは背負を向けていたので無防備に突風を背に受け、よろよろとふらついたかと思うと尻もちをついてしまっていた。


「さすがに歳だな。そんなに動いた気はしないんだけどなぁ」


 暢気にそんな事を言うオッサンだったが、その暢気な姿すら、少年たちにはバケモノにしか思えなかった。



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