導きの羅針盤
ボクらはその場所に向かう時、1つ気になっていることを聞いた。
「ねえクラウスって、エンゲルスって呼ばれていなかった?」
教会にいた時も、クラウスがエンゲルスって名前で呼ばれていることなんて見たことがなかった。ボクが知らないだけだったのかな?
「あぁ〜…そのことについても場所に着いたら教えるさ。」
ボクらはくだらない話をしながら目的地まで歩いた。
「ここだよ。」
ここって…明らかに裏路地の怪しい店のような雰囲気を醸し出していた。
「本当にここなの?」
怪しすぎて…
「ああそうさ。帰ったよー」
クラウスは遠慮なしに扉を開けると、3人ほど人がいた。
「エンゲルス様…!おかえりなさいませ。…この方は?」
「僕の親友のカールだ。羅針盤を作りに帰った。」
「かしこまりました。ではこちらへ。」
ボクらは奥の部屋に案内された。怪しげでなんとも言えなかった。
扉を開けると灯がついているのに薄暗かった。占いや儀式をするのかと言うような道具がたくさん置いてあった。
「カロル、羅針盤にするものはペンダントでもなんでもいいんだけれど、どれがいい?」
クラウスが指さした机にはペンダントやブレスレット、指輪などが置いてあった。これを型に作ることができるらしい。
指輪とかは柄じゃないし、ペンダントが1番無くさなそうだ。数あるペンダントを一つ一つみていく。何も刻まれていないシンプルな物からゴテゴテに装飾されているものまで様々だった。ボクは…
「これがいいな。」
1番端にあったシルバーの楕円のものを選んだ。うっすらと星や月がデザインされていて美しかった。
「OK、これで作ろう。ちょっと痛いけど我慢してね。」
痛い?
クラウスは僕の腕を取り、袖を捲るとどこからか出したのかナイフで切りつけた。
「痛っ!」
手首からは血が流れ、滴り落ちた。
「ねぇこういうことするなら言ってよ。びっくりした。」
クラウスは昔から悪戯好きだった。相手を傷つけるような悪戯はしていなかったけど、似たような驚きをしてしまうような悪戯にはボクも引っ掛かってしまったことがある。
それに今、痛かった。今まで痛みも血も何も感じなかった。改めて呪いはさっぱりと無くなっていることを実感させられる。
「だって言ったら作りたくなくなるだろう?」
悪びれる様子もなく、滴り落ちる血をペンダントに垂らす。クラウス自身も腕切り、同じように血を滴らせた。ボクの顔を見てニコッとすると、ペンダントを見つめ力を込める為の言葉を並べた。
「クラウス・M・エンゲルスの名のもとに、かの物にカールと我を導くための力を与える…」
するとペンダントは赤く輝き、やがて消えた。
そのままボクの手首の傷口を撫でるように触れると、綺麗に傷は無くなった。
「さあこれでできた!」
ニコッと笑い、手渡す。ロケットの中には確かに、彼の方向を指し示す羅針盤のような針が入っていた。ボクはチェーンの留め具を外し首にかけた。
「うん、なかなか似合っているよ。」
クラウスは満足そうだった。ゴソゴソと自分のペンダントを確認し、「うん、こっちにもちゃんと入った。」と言った。
「これで遠くに離れても、僕らはまた出会えるね。レオンとフェリンのは会ってからカロルのを入れよう。」
じゃあまた腕を切らなきゃいけないのか…痛いのが嫌とかではないのだけれど…血はあの日の光景を思い出させるからあまり好きじゃなかった。できればもうレオンとフェリン、それにクラウスには血を流して欲しくない。
不意に扉から音が鳴る。さっきの人たちだろうか?
「クラウス様、準備ができました。こちらに。」
「あぁありがとう。さぁカロル、エンゲルスについて教えるよ。」
次回→9月11日 夜