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始まり

とある地方のとある国。フィスカ。そこでボクは裏路地にある珈琲店を営んでいた。


『ねえ知ってる?近くの路地裏にある珈琲店。そこである紅茶を頼むとどんな願いも叶う茶葉を売ってくれるらしいよ。たとえそれがこの町での禁忌に触れようとも』



ボクの紅茶にはそんな噂が流れているらしい。まあそれは事実なんだけれども。ボクがこの珈琲店を経営しているのは訳がある。ボクが必要としているのは紅茶を注文するお客さん。ああ今日もそれらしいお客さんが来たな。





「いらっしゃいませ。…あなたはここに来るのは初めてでしょうか?お好きなところに座ってください。お飲み物は…」


彼女はメニューも見ずに答えた。  「ハイビスカスティーをください」


ほら当たり。

「……あなたは、ここのことは知ってて来たんですね?そうですか…」



彼女はおどおどした様子でカウンター席に座った。ハイビスカスティー。これがボクの店で必要な合言葉。



「はい。これ注文されたハイビスカスの紅茶です。ここは珈琲店ですけどボク紅茶入れる方が得意なので。どう美味しいでしょう?ボクの入れた紅茶は世界一ですから!」


自分で言うのも恥ずかしいけどボクは珈琲を淹れることより紅茶を淹れる方が得意だ。なんていっても魔法の力であるマギアを入れるのが簡単だからね。珈琲は苦手というよりそもそもボク自身が好きじゃ無いから上手く入れることができない。



お客さんが店の周りをキョロキョロしている。まあ無理もない。ボクと彼女しかいないこの空間に違和感があるのだろう。この店はボク1人で経営しているからボクしか店員はいない。


「不思議ですか?この店はボク1人なんです。ですので周りを気にせず悩みをお話しください。」


「そうですか…えっと…じゃあ…」


彼女はゆっくりと話始めた。ふんふん、彼氏が鬱陶しいので別れたいと…最近こう言うお客さん多いんだよなあ…あんまり手がかりにならないし。知名度を少しづつでも上げることも必要だから仕方ないけれど。とにかくボクはたくさんの情報が必要なんだ。



「私、彼のことを殺したいんです。だからここの紅茶がほしくて。」


「ふうん。だからボクの紅茶をね…自分で殺せばいいんじゃない?」


「そんな…!!この町じゃ禁忌だって知ってますよね⁈それにあなたの方法は死体が出ないって聞いてます。」


「ははっ!冗談ですよ。確かにボクの方法じゃ死体は出ません。さてどの紅茶にしましょうか…」



この町で人を殺すことは死に値する。というより死体が見つかって犯人が見つかればの話だけれども。見つかったら拷問されて治癒され、回復したら…の繰り返し。

魂が死ぬまでこれは続く。魂まで死んだらもう輪廻転生できない。そうすればボスの気に入らない人間は二度と生まれなくなる。そうやって理想の町にしていくことが目的らしい。ほんと悪趣味だよね。


この町のボス-フォイルとその仲間はボクが殺したい相手でもある。あいつらをより確実に殺すためにボクはたくさんの情報が必要だった。だからこの町で珈琲店をやってる。まあ理由はそれだけじゃないんだけどね。



カウンターの後ろ、壁一面にある戸棚の引き出しから彼女に合う茶葉を見つける。


「あったあった。これなんてどうでしょうか。ヒルガオの花が入っている茶葉。これをあなたが淹れて相手に飲ませれば確実に殺せますよ」


「ありがとうございます!でも本当にバレないんですか?そもそも本当にいいんでしょうか…」


「まあそれはあなたが決めることですし…ボクは話を聞いて合う紅茶を提供するだけです。まあここ珈琲店ですが…みんなを茶葉で願いを叶える。ただそれだけの為にここをやってるだけですので。ゆっくり決めればいいよですよ。」


他にいい茶葉がないか戸棚の方を向きいくつか引き出しを開けてみる。



ボクのこの理由を知られたら確実に先に殺されてしまう。悟られてはいけない。でもこの店の真の理由は誰も知らない。しかも女の子だからと油断して後ろを向いてしまった。



「本当にそれだけのためなんですか。」


「まあボクにも色々あるのですよ。」


「本当はあなたが殺したい人がいるんじゃないんですか?」



は?



ーカチャン



振り向く前に身体が気がついた。



彼女が手に持っていたのは銃だ。ボクの頭に突きつけられる。…その話どこで聞いたのか…?


「私の得意魔法は透明(トランスペア)です。あなたのことを調査するようボスに言われてきました。」



あちゃぁ…そんな魔法得意な人がこの町にいるのか。珍しいことではないけれど、この国は風切り(フランジュ)とか鋭利な攻撃方法が多い町だから油断してた。



ボクは腕をあげて降参の意思を示しながら「降参です。ボクを今ここで殺しますか?」と聞いた。

しかし返答は意外なものだった。



「いえ…今回のことは報告しませんし殺しません。その茶葉の威力が知りたいので…さっき私が話したことは本当にあったことで本当にこの茶葉に頼るためにきました。なのであなたがやっていることの事実確認はついでです」


ええ?ついで?人殺そうとしてるのにボクの命は二の次ですか…



「ついでかあ…結構ボク死ぬ間際のはずなんですけどね…」


彼女はとんでもないことを言った。




「明日、同じ時間にきます。そしたらあなたの捜している秘密…エルシャのことをお教えします。」



は?今なんて?



姉さんのことを…?



驚きすぎて今のボクには冷静を保つので精一杯だった。


永遠に感じられるような沈黙が続く。



「……お代は飲んでる紅茶代だけでいいので払ってくださいね。」


おいおい今言うべきセリフじゃないでしょ?!自分で自分にツッコミを入れている場合でもないけど!



それでも彼女はボクの言葉に乗ってきた。


「生かしてあげているのににタダじゃないのね」


「そりゃボクだって生活がありますからね」


チッ…



ええ舌打ちされた…そりゃ普通に金銭は発生するでしょ…



「はぁ…これでいいですね」硬貨がが乱雑にカウンターに置かれた音がした。



それでも彼女が銃を下ろす音は聞こえなかった。


「もう一度言います。明日同じ時間に来ます。待っていてください。逃げたりしたら…分かっていますね?」


「はい…分かっていますよ。それでは明日」



急に殺気が消えた。透明になって店を出ていったようだった。



彼女の話は本当なのだろうか?しかし明日になってみないとわからない…



緊張感がない返事になってしまったが動揺を隠すためにはそうでもしないと冷静さを保てなかった。




彼女が裏切れば…きっとあいつらを連れてここに来るだろう。



それだと確実にここで死者がでる…気がする?久しぶりにあれを準備するしかないか…


ボクは店を軽く掃除し、補充すべき茶葉を確認する。ああでももう必要ないかもなあ。


サロンを近くにあった椅子に引っ掛け、2階にある自室に向かった。












だいぶ時間が経ったようだ。 綺麗な月が空の真ん中に昇っている。 雲は一切ない綺麗な月。


ああもうこんな時間か。



「さて。今日はもう店じまいかな。今日は疲れたな…」


ボクは誰もいない店で1人カウンターに座って呟く。

本当に明日…彼女は教えに来るのだろうか?そもそも都合が良すぎる話なのではないのだろうか…


明日の準備をしよう。もうここから出るかもしれないから荷物もまとめてしまおう。





彼女が言っていたボクの秘密。かれこれ数年は追っているのにヒントもなにひとつ出てこない秘密。だけど一つだけわかっていることがある。姉さんーエルシャを殺したやつらが誰なのか。



それがこの町のマフィアのボス、フォイルの仲間。仲間までは分かったけど記憶が曖昧だから情報が上手く集められなくて誰が、なぜ殺したまでは情報も出てこなくてボクも思い出せない。


殺したらボクはこの町をでて姉さんの最期の言葉の意味を探しにいかなくてはいけない。




「フリージアへ行って。そこで秘密を知って青い薔薇の刺青の男を探すの。この大陸の…世界の…過ちを正して、全てを救って」



これが姉さんの最期の言葉。フォイルの追っ手から逃げている最中、この言葉を遺して姉さんはあいつらの前に出て、ボクを逃した。振り返った瞬間、姉さんは目の前でバラバラになって死んだ。


ほんのり甘い匂いがした気がしたけど目の前の光景が衝撃的すぎて幼かったボクにはトラウマのようにあの日のことを覚えている。



過ち?救う?青い薔薇の刺青?もう訳がわからないけどボクはこれしか覚えていない。



姉さんとはずっと教会で暮らしていた。ボクらだけでなくて子供も多くいて、それなりに楽しかった。血は繋がっていなくても家族みたいだった。でも姉さんが死んだあと、ボクは1人になった。それでもずっと暮らしていた教会の人たちは優しくて、優しすぎて悲しくなった。もうボクは独りなのに。



その後、今まで一切発現しなかった魔法が少しだけ扱えるってことがわかった。


姉さんが死んだ後に使えるようになるなんて、皮肉もいいところだ。姉さんはすごく魔法が使えたから。死んだ後の形見のようで嫌だった。


まあ魔法と言っても姉さんと違って、茶葉に魔力を込めるとか物に魔力を込めて使うことしかできなかったんだけれども。


だからボクは茶葉に飲んだら淹れ手の思うことを思い込ませることで噂を流行らせることにした。ただの思い込み、思い込みだけでは死ぬはずもない。だから死んだと思い込ませることで死体も出ない。そりゃ死体も出ないという噂が広がった。その噂のおかげでお客も増えたし、情報も手に入るようになった。


ボクの魔法はこれだけ。これしかできない。



それに比べて姉さんはボクより魔法が使えた。色んな攻撃魔法も使えたし物に魔力を込めても使うこともすごくうまかったことは覚えている。だけど知らなかった。姉さんが呪いを使うなんて。それも甘い匂いがするなんて。



姉さんはボクに呪いをかけた。この町から出られないように。最期に遺した言葉の意味が分かるまで、ボクがもう少し成長して1人で生きられるようになるために。そういう呪い。



知らなくて国から出ようともした。けど町を出ようとすると境界線の部分で透明な壁ができるように結界が現れる。髪の毛ひとつ外には出られなかった。何度自分の手首を切っても何度頭に銃弾を浴びせても死ななかった。死ぬ事ができなかった。姉さんの呪いの力で。



ありがちな話だなあと思うかもしれない。ボクだって何回も似たような書物を読んできた。死ぬ間際に魔法をかけて主人公を強くするとかそういう物語。だけどボクのは姉さんの言葉の意味を解かないとボクは自由になれない。書物の物語のようにはいかない。






姉さんもなんてことしてくれるんだって感じだよ。自分だけ先に死んじゃってさ。ボクは魔法だってろくに使えない、価値のない生き物なんだからボクも早くそっちへ行きたいよ。





ああ姉さん、ボクもう自由になりたいよ。こんな復讐に呑まれず普通の生活がしたかった。









そう思っていた時彼女がきた。あのフォイルの依頼できた彼女。本当なのかは分からないけど、どちらにせよきっと明日は荒れるだろう。




ボクは店の電気を消して自室への階段をあがった。あいつの準備をするために。












この時は誰も思っていなかった。ボクだって思っていなかったさ。ボク、カールが世界に喧嘩を売ることになるなんて。







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[良い点] うぉぉぉぉ!カールが呪い掛かっちゃった!がんばぇー! プリ...カールおじさん!
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