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第二話 結城力也

   

 結城力也が隣のクラスの女子に恋をしたのは、お昼休みの廊下だった。

 空きっ腹に手をあてがいながら、購買部へ向かっていたら、正面から歩いてきた女の子。その凜とした姿にも目を奪われたが、それだけではなかった。

 すれ違った瞬間、ふわっと揺れる長い黒髪から、独特の良い香りが漂ってきたのだ。

 思わずハッとして、力也は振り返る。彼の頭は彼女のことでいっぱいになり、空腹感すら忘れてしまうほどだった。


 その少女の名前は、青田姫子。

 数日かけて情報を集めてみたが、まだ恋人はいないらしい。それどころか、誰かに告白されたとか告白したとか、浮いた噂ひとつないらしい。

「みんな、まだ青田さんの魅力に気づいてないのか……。じゃあ、僕だけの青田さんだ! 今のうちに……」

 いささか古典的すぎるとも思ったが、やはり正攻法が一番。力也はラブレターを書いて、彼女の靴箱に放り込み……。

 青田姫子を、放課後の校舎裏に呼び出したのだった。


 校舎の裏にはゴミ捨て場がある。あまりロマンティックとは言えないが、少なくとも、誰も来ない場所には違いない。

 いや『ゴミ捨て場』である以上、掃除の時には大いに使われるはずだが、その時間帯は避ければいいのだ。力也はきちんと計算した上で、各クラスの掃除が終わってから一時間以上は経った頃合いを、待ち合わせの時間に指定していた。

「いた!」

 実際、力也が駆けつけた時、その場には一人きり。

 背中を向けているので顔は見えないが、もとより力也にとって、青田姫子を正面から眺めた時間は少なかった。むしろ後ろ姿の方が印象深いくらいだった。

 風に揺れる、この美しい長髪は、間違いなく青田姫子のものだ。そう確信した力也は、佇む少女の背中に向かって、力強く叫ぶ。

「ずっと前から好きでした! 僕と付き合ってください!」

 頬が火照るのが、自分でもわかった。心臓もバクバクしている。

 告白自体はラブレターで済ませたはずなのに、いざ口にしてみると、さらに上の恥ずかしさだった。面と向かって告げたわけでもないのにこれだから、後ろを向いていてくれた助かった、とさえ思う。

 それに『ずっと前から』と言い切ったのも、微妙に嘘をついているようで落ち着かない。まだ一週間も経っていないのに、こんな言い方をして良かったのだろうか……。

 そんなことを考えていたら、少女がこちらを向いた。

「えっ……」

 驚くべきことに、彼女は、隣のクラスの青田姫子ではなかった。力也のクラスメートだった。

   

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