16話:最終回(後編)
とある休日の朝、仕事が無い祐二達は朝食後のコーヒーを飲んでいたのだが、その空気とは穏やかというよりは何処かぎこちなかった。
「じー。」
目を皿のようにして二人の人物を眺めるニスア、彼女の視線の先には祐二とミラの二人がいた。
(な~んか、今日の二人には距離感がありますね。)
薬の調合や”鬼面の男”としての仕事がある日には祐二が一番朝早く起きて、準備なりを行うのだが、休日に限っては疲れが溜まっているのか、五人の中では一番遅くに起きる。まあ、それでも普通に速い時間なのだが、
だが今日に限っては、祐二とミラが一番朝早くに起きて二人でテーブルに座っていた。
(さっきから何故かお互いにチラチラと見てますし。)
一人分の席のスペースを開けて、無言の二人。しかし時折相手をチラ見する。しかし一切言葉を交わさない。
それはいつも楽しく会話を交わす食事中でもそうだった。それに影響されてニスア、アシュリー、クレアも食事は黙々と進めた。
(ふ~む。)
改めて二人を観察する。朝に湯浴みでもしたのか二人の髪はしっとりと濡れており、服は皺だらけ。またよく見ると二人の耳や首元が少々赤く腫れている。
そして何より、ミラの肌がもの凄いツヤツヤしておりニコニコと笑顔、一方の祐二はゲッソリとしながらも何処かすっきりした表情。
「コホン、お二人共。昨夜はお楽しみでしたね。」
「「っ!!!!!」」
「そう言えば、昨日の夜、ユージ君の部屋から凄い物音がしたけど、あれって何だったの?」
「「っっ!!!」」
「お二人は今日、主様の部屋から出てまいりましたよね。お二人で朝から何をされていたのですか?」
「「っっっ!!!!!!!」」
ビクンっと体が何回も跳ねる二人、間違いない、この二人、、、
「あ~、そう言えば、俺今日狩人組合で仕事を頼まれてたんだった。」
もの凄い棒読みで椅子から立ち上がり、出ていく祐二。
「そ、そう言えば僕も今日は薬の宅配を頼まれてたんだった。直ぐにいかなきゃな。」
同じようにミラも棒読みで席を立ち上がろうとするが、ガシッとニスアとアシュリーに肩を掴まれる。
「ミラさん、嘘を吐いちゃだめですよ?」
「う、嘘なんかじゃ、、、」
目が泳ぐミラだが、ニコニコ笑顔の二人は力強く肩を掴んだまま話そうとしない。
「じゃ、じゃあ、行ってきます。」
その隙に逃げる祐二。
「さて、ミラさん。詳しく話を聞かせてもらいましょうか。」
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「ふむふむ、成程。」
ミラから昨晩何があったのか聞き出した三人が頷く。
「つまり、昨日の晩、祐二さんの部屋を訪ねて、二人で紅茶を飲んでいたと?」
「う、うん。」
「で、香りつけのブランデーと間違えて、うっかり嘗ての先輩から貰った媚薬を持って来てしまったと?」
「そ、そう、び、瓶が似てたから。」
両手の人差し指をツンツンしながら視線を逸らすミラ。
「そ、それで、僕もユージも媚薬入りの紅茶を飲んで収まりがつかなくなって、その、そのまま、って。で、でも、本当にうっかり間違えただけで、一服盛ろうとかそんなつもりは無くて!」
「うっかり~?本当ですか~?」
ニスアが上目遣いでミラを睨む。
「ほ、本当だよ!!」
「ふう、ミラさん?」
ニスアが息を吐き、穏やかな表情になると、いきなりミラの服を掴み、無理矢理脱がす。
「ちょ、何して!」
「こんなエッチな下着つけてて、うっかりとか、全く説得力が無いんですよ!!!」
ニスアに服をはぎ取られ下着姿になったミラだが、彼女が身に付けている下着はとてもではないが下着としての機能を果たしているとは思えなかった。
「何ですかこのいやらしい下着は!胸は丸出しで胸の下から紐で支えてるだけじゃないですか!しかも谷間をリボンで蝶々結びにしてあざといですよ!プレゼントはワ・タ・シ♡ですか!下も酷いですよ!前も後ろも丸出しで!完全にヤること前提じゃないですか!完全に受けれいれる為の下着じゃないですか!どこで買ったんですか!こんな下着!」
「しょ、娼婦時代に娼館から渡された勝負下着で、、、」
「そんなの着けてたって事は、完全に確信犯ですよね!」
「は、はい。本当は態と間違えました。魔が差してしまいました。だから服を返してください。」
罪を認めた被告人はいそいそと服を着る。
「それで、ミラさんはどうしてそんなことしたんでですか?」
「確かに、ミラちゃんらしくないよね?」
「それは、その、この間来た女性のお客さんが、実はユージ目当てに来てることが分かって、ユージも満更じゃない感じがして、それで。」
「それで祐二さんが奪われるかもしれないと焦って薬を盛って一発ヤったと?」
「ニスアちゃん、親父臭いよ。」
「一発って言うか、その。」
ミラが薬を盛った理由を知って呆れるニスア達だったが、もじもじとしたミラの態度を見て一気に詰め寄る。
「何回だったんですか?」
「じゅ、十五回、、、」
「じゅっ!」
「目までは覚えてる。それ以上はもう意識が朦朧としてて。」
「・・・、未亡人のアシュリーさん!男性ってそんなに出来るんですか!」
「し、知らないよ。アタシだって旦那とは口づけもしてないんだから!」
その後もミラの口から暴露される様々な体験談にニスア、アシュリー、クレアの生娘三人組はキャーキャー!と騒ぎ立てる。
「ふう、ふう、凄いですね!まさか祐二さんがそんな事を求めるとは!」
口から垂れた涎を腕で拭うニスア。
「あたしもう、ユージ君の顔見れないかもしれない。」
両手で真っ赤になった顔を隠すアシュリー。
「そして、それを受け入れた上で決して主導権を譲らないとは、感服しました!奥方様!」
握りこぶしを作り、興奮で鼻息を荒くしながらミラに尊敬の眼差しを向けるクレア。
「もう、皆やめてよ~!」
そして三人から根掘り葉掘り聞かれて、顔を真っ赤にしているミラ。
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「兎に角、もうこれでお終い!」
その後も三人から色々聞かれたミラだが、流石に恥ずかしくなったのか無理矢理切り上げる。
「ユージには悪いことしたし、帰ってきたら謝らなきゃな~。許してくれるといいけど。」
焦ったとはいえ、薬を盛るなど人として最低の所業だ。最悪殺されても文句は言えないかもしれない。ミラは覚悟をするのだが、他の三人はキョトンとしている。
「別に謝らなくてもいいんじゃないですか?」
「うん、ユージ君だったら普通に許してくれるし、そもそも怒ってないと思うよ?」
「はい、旦那様でしたら、寧ろ旦那様の方から謝罪に向かわれると思いますが?」
「そんな訳ないよ!だって薬で無理矢理初体験を奪われたんだよ!しかもよりにもよって僕みたいな元犯罪者とだよ!絶対恨んでる!本当ならユージだって好きな人がいて、その人と結ばれた上で最高の思い出にしなきゃいけなかったのに!」
「「「だったら、問題ないのでは?」」」
祐二がミラに恋心を抱いている事を普段の祐二の態度から察している三人が呆れる。
「そもそも、ミラさんが相手だったら薬盛らなくても押せば行けたんじゃないですか?」
「いや、どうだろう?ユージ君、ちょっとヘタレな所もあるから。」
「そこはミラさんのテクで何とかして、、、」
「ちょっと、二人共ふざけないでよ!僕は真剣に、、、」
「だって祐二さん、ミラさんの事、好きじゃないですか?」
「・・・へっ?」
さらりと爆弾発言をするニスア、するとアシュリーとクレアが『しまった』という表情をする。
「ニスアちゃん!勝手にばらしちゃ駄目!」
「えっ?あっ!」
ニスアも一拍遅れて『しまった』という顔になる。
「ユ、ユージ、が僕の事を好き、、、?」
「ばらしちゃ駄目じゃないニスアちゃん!いくらユージ君の態度があからさまで、あれで気づかない方がどうかとは思うけど、本人達はまだ気づいてないんだから!」
「いや、でもこの際、いっそ全て暴露したほうが良いじゃないですか?」
「そ、そんな事ある訳。」
必死にニスアの言葉を否定しようとするミラだが、その表情は何処かにやけていた。
「確かに、正直見ててじれったいとは思うけど。」
「それに、私は祐二さんとは立場上結ばれることは出来ません!いや、まあ出来るは出来るんですけど、色々と後始末が、それなのにくっつきそうでくっつかない二人を見てると妙にイライラするんです。もうこの際、全部ゲロしましょう!」
ニスアがミラの肩を掴み、詰め寄る。
「いいですかミラさん?祐二さんは貴方に惚れているんです!それはもうベタぼれです。」
「そ、そんな訳、僕みたいな元娼婦相手に、、、」
「でも昨晩は耳元で甘い言葉囁かれながら、上も下もチュッチュッチュッチュしまくったんでしょう?」
「ニスアちゃん、本当に親父臭いよ。」
「あ、アレは薬の影響で、、」
「じゃあ、賭けをしましょう。」
「賭け?」
「そうです、今日祐二さんが帰ってきたら、ミラさんを罵倒するか告白するかです!」
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テーブルに座ったミラを中心に他の三人は直立不動で玄関をじっと見ている。そして日も沈みかける夕方頃、ガチャッとノブが回り、誰かが入ってくる。
「「「「っ!」」」」
「今日は此処に泊まらせてくれないか?姉上が公務を手伝えとうるさ、、、ぎゃああああああああああ!!」
速攻で袋叩きにされ、窓から放り出されるソニア。再び元のポジションに戻る四人。
それから一時間後、再びノブが回り扉が開く。
「た、ただいま。」
「「「「お帰り!!」」」なさいませ旦那様!!」
「う、うん。」
異常な覇気を孕んだお帰りを喰らった祐二は思わずのけぞるが、体勢を立て直すと真っすぐにミラの元へ向かう。
「ミラ、話があるんだけど、良いかな?」
「う、うん。いいよ。」
「流石、ここじゃ恥ずかしいし、俺の部屋で、、、」
「駄目っ!此処で話して!」
「う、分かった。」
ニスア達の前で話すのは少々恥ずかしいが、それでもミラの真剣な表情から祐二も覚悟を決める。
「えっと、俺が話したいのは、その、、、」
「昨日の事と関係してるの?」
「そ、それはまあ、そうかもしれない。」
「やっぱり、怒ってる?」
「怒ってない、本当に怒ってない!」
上目遣いで泣きそうなミラに慌てて否定する祐二。
「じゃあ、何?」
「えっと、その、俺の話って言うのは、その、まあ昨日の事に後押しされたっていうか、今日を逃したら、一生言えないんじゃないかというか、その、、、」
上手く言葉に出来ない祐二はミラの両手を優しく包み込み、目を閉じる。
「ミラ、俺は、、、その、、、、」
「?」
「俺は、、、ミラの事が好きだ、、、仲間とか友達としてとかじゃなくて、その恋、的な意味で。」
絞り出すかのように、言葉を選ぶかのようにポツポツとしかしはっきりと言葉にする祐二。
「だから、、、その、、、俺と、、、俺と、、、、け、、け、、、結婚してくれ!」
包み込んでいた両手を離す、するとミラの左手には鈍く輝く銀色の指輪が付けられていた。
「・・・・・・ミラ?」
いくら待ってもミラから返事がない事に気付いた祐二が目を開けると。
「ぷしゅ~~~。」
「あ、ミラさん気絶してますね。」
「まあ、そうなるかな。」
顔を真っ赤にしたミラが目を開けたまま気絶していた。
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「それで、それで、悪い勇者を倒した鬼面の男と仲間の女の人はどうなったの?」
とある家でソファーに座った黒髪の小さな女の子が、絵本を持って読み聞かせをしている母親に続きを求める。
「ん~♪、その後はねえ、鬼面の男と仲間の女の人との間に可愛い娘が生まれて、仲間から祝福されて二人は無事結婚したんだよ。」
「キャー♪」
「それからも鬼面の男は悪い勇者や悪い人を懲らしめる為に、戦い続けましたとさ。さあ、今日は此処まで続きは明日呼んであげるから。」
「ねーねー、お母さん。その鬼面の男は今も生きてるの?」
「さあ、どうかな?でももしかしたら近くにいて、僕達の平和を今も守ってくれてるかもね。おっと、そろそろお父さんが返ってくる時間だ。」
絵本を本棚にしまうと幼い娘は父を出迎える為、玄関に立つ。やがてノブが回って扉が開き、外から黒髪の男性が家に入ってくる。
「ただいま、ミラ、リディア。」
「おとーさん、お帰りなさい!」
「お帰り、ユージ。」
大分更新が遅くなってすみません。
拙い物語ですが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。




