15話:最終回(中編)
「いやあ、お頭、今回のシノギも楽でしたねえ!」
「いやあ、全くだ。それもこれも全て、”鬼面の男”のお陰だぜ!」
とある山奥。陽が沈み辺りが暗くなった山で焚火を囲み荒くれ者達が酒を飲みながら騒いでいる。
その内の一人、お頭と呼ばれた男は額に二本の角が付いた面を被っているが、その出来はお世辞にもよくできているとは言い難い。
彼らの正体は、この山を利用する行商人を狙って商品を略奪している山賊だ。碌なスキルを持たず落ちぶれた彼らは努力することを嫌い、他者から奪う事で日々の食料や金を得ている。
「この仮面があれば殆どの商人は碌に抵抗もせずに簡単に飯や酒、金を差し出す。なんたって勇者を倒した男なんだからな!」
数か月前に起きた大規模な”勇者税”強奪事件、その中で勇者ミツルギや勇者ミオカ、キサラギは死亡し、”勇者税”は全額奪われたという。
そしてその事件の首謀者である”鬼面の男”は捕まり、さらし首となったが、今でも”勇者税”に苦しめられた者達からは生存が強く信じられている。
この山賊の頭領はその噂を聞き、適当に作った鬼の面を被り、自らを”鬼面の男”と名乗り、商人達を脅してきた。
「さてと、、、じゃあお前ら明日に備えて今日はもう寝る、、、」
「悪いけど、お前達は明日から冷たい監獄で臭い飯を食う事になるぞ。」
「っ!誰だ!」
突如聞こえる第三者の声に、山賊達は酔いが醒めていなくとも武器を構える。
「はあ、本当に勘弁してくれよ。漸く目的を果たせたってのに、摸倣犯とかさあ、、、」
うんざりしたように溜息を吐く声が聞こえるが、肝心の姿が見えない。
「何処に隠れてやがる!さっさと出てきやがれ!」
「そう言われて誰が素直に出るかよ!」
声のした方向に一斉に振り向く山賊達、辺りを警戒する者はいない。酔いと彼のスキルによって周りを確認する余裕が無いからだ。
そうして痺れを切らした山賊達が、相手の姿も見えていないのに森の奥へと進もうとした瞬間、それは後ろから襲い掛かってきた。
「うわっ!」
「どうした!」
「あ、足が、、、、狼の大群だあ!」
山賊を後ろから襲撃した者達、それは姿を見せない第三者によって手なずけられ、火を恐れなくなった狼の群れだった。
突如襲い掛かってくる狼、酔いが回り碌に武器を振り回す事の出来ない山賊達は我先にと逃げ出そうとするが、そんな事を彼が許すはずもない。
「ぎゃあ!」
籠手と一体化した連弩から放たれた痺れ毒を塗った矢に貫かれる山賊達、身動きが取れない彼らの元へ涎を垂らしながら近づく狼達、此処までくれば自分達がどうなるかなど考えるまでもない。
「まあ、人を食べないよう調教してるけど、いい薬にはなるか。」
狼を使役している男はこのまま一晩体が動けない中、狼に襲われる恐怖を味わって今までの行いを反省してもらおうと少し悪趣味なことを考えていた。
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セイン王国王都の隅にある小さな薬屋、簡単な傷薬や風邪薬を売っていてどちらかというと庶民向けなこの店は四人の看板娘により、割と繁盛している店。
しかし、実はこの店が王女によってとある密命を受けている事を知る者は少ない。
「ただいま~。」
「あ、お帰りユージ、例の山賊はどうだった?」
「武器も仮面も質が三流の雑魚ばっかり、今朝グリードに引き渡したよ。ふわ~あ。」
「お疲れ様、お風呂は沸いているから、今日は店はアタシ達に任せて、お風呂で埃を落としてゆっくり休んでて。」
「すいません、お言葉に甘えます。アシュリーさん。」
出迎えてくれたミラとアシュリーに挨拶をし、眼を擦りながら風呂場へ向って行く本物の”鬼面の男”こと祐二。
この小さな薬屋は数か月前に起こした”勇者税”強奪事件が終わった後に、目的を終えた後、どうするかと皆で考えて作った薬屋だ。
薬の調合は祐二、売り子はミラとニスア、帳簿はアシュリーとクレアにやってもらっているこの店は最初は繁盛するか不安だったが、祐二以外の四人が美人という事で話題となり、彼女達目当ての男性客で割と繁盛していた。
まあ。もっとも四人ともナンパしてくる男達は無視しているのだが。後は”調合”系のスキルを祐二が持っていないために定価よりも幾分か安く販売しているので、家計に苦しい者達からも贔屓にされている。
そんなこんなでのんびり薬屋ライフを送れると思った祐二だが、事はそう簡単ではなかった。
なんと”勇者税”強奪事件の後、懸念していた”鬼面の男”の模倣犯が各地で多発し始めたのだ。しかも祐二のような奪った金を民衆に還元するとかではなく、ただ勇者を打ち破った”鬼面の男”のネームバリューを利用して商人や民家から金を奪う強盗として。
これに頭を悩ませた第一、第二王女は祐二を自分直属の私兵として雇い、彼らの討伐を命じた。その結果祐二は相変わらず忙しい日々を過ごしていた。
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カランと扉にとりつけられた鈴がなる。
「いらっしゃいませ~。」
店番をしていたミラが人懐っこい笑みを浮かべて客を迎える。
「へえ、此処が今のアンタの家?中々いい場所じゃない。」
「へって!?せ、先輩!」
「よ、ミラ!」
店に入ってきた女性の顔を見て、ミラが驚く。
「最後にあったのは何年前だっけ、確か、組織が国の騎士団に潰された後だから。」
「先輩、生きてたんだ。」
死んだと思っていた相手が生きていたことにミラが涙を浮かべる。
「ま、積もる話もあるだろうし、ちょっと茶に付き合てくれない?」
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その女性は嘗て騎士団を恐怖に陥れたあの媚薬をミラにくれた、犯罪組織の先輩だった女性だ。犯罪組織が騎士団に潰された後、彼女の行方は掴めず、ミラはずっと死んだものだと思っていた。
「まあ、あの後色々あって、国から逃げた先の村に住んでいたお人よしの男に匿われてね。暫くのんびり暮らしてたら、アンタの噂を聞いたって訳さ。」
「そうだったんだ、それより、先輩、そのお腹は、、、」
ミラの視線の先は、彼女の腹部。そこは丸みを帯びていた。
「ああ、さっき言ったお人よしの男との間の子供さ。まあ、旦那とは式を挙げるのが遅くなったからデキ婚に成っちまったけどね。」
愛おしそうに腹部を撫でる女性、それを聞いてミラは彼女が今は幸せな生活を送っている事に気付く。
「アンタはどうなんだい?いい男はいないのかい?」
「えっ!僕?」
言いよどむミラを見て女性は何となく察する。
「良い男はいるけど、自分なんか相応しくないって、顔だね。しょうがない、アタシが一肌脱いであげるよ。」
そう言うと女性はテーブルの上に薬が入った瓶を置く、それは以前にも彼女がミラに渡した媚薬が入った瓶だ。
「これは、、、これを使ってどうしろと?」
「これをその男に一服盛って、関係持って責任取らせちまいな!」
「最低だよ!!!!!」
いい笑顔でサムズアップする先輩にミラが机を叩きながら立ち上がる。
「何言ってんだい、アタシだってこの方法で今の旦那を手に入れたんだから。」
「最低だ、この人最低だ!」
「アタシは悪くないよ!むしろ悪いのは旦那さ!何年も一緒に暮らしてきたのに手を出さないんだから、アタシの気持ちに気付いている癖にどんだけ誘惑しても手を出さなかったヘタレだったんだ!まあ、薬を盛った夜は、、、凄く強引で、、、カッコ良かったけど。」
頬に手を当て、顔を赤らめる先輩。
「惚気ても最低な事には変わりないよ!」
「仕方なかったんだよ!あのままじゃ、一生アタシの思いは伝わらないって、伝わっても関係は一歩たりとも進まないって、それにね、ミラ。よく聞きな。」
「な、何?」
「愛ってのはね、生まれるもんじゃなくて育てるもんなんだよ。いいじゃないかい、関係を持ってから愛を育めばいいんだよ。」
「何いいこと言ってる風に言ってるの!?」
「ま、それはアンタにあげるよ。邪魔したね、じゃあまた来るよ。」
「二度と来るな!」
ケタケタと笑いながら、椅子から立ち上がり店から去っていく先輩、残ったのは顔を真っ赤にしたミラと机の上に立っている媚薬。
「本当にあの先輩は、、、」
溜息を吐きながら机に突っ伏すミラ、その視線の先は媚薬に向けられている。
「いや、使わないよ。うん、使わない。使、、、わない、、、、使、、、、、」
更新がだいぶ遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。




