14話:最終回(前編)
「それでは、お父様。今回の事件に対して何か申し開きは有りますか?」
「私は悪くない。」
王城の一室、現国王の書斎にてレイアが父である国王を責め立てている。
「確かにお父様に非は無いでしょう。それでも責任は取らなければなりません。」
「聞いてくれ、レイア!私は唯勇者達の暴走を防ぐために!!」
「ええ、それは存じ上げています。お父様が勇者の暴走を防ぐためにご機嫌取りの為に勇者税の徴収を止めなかったことを。ですが、今回の事件で勇者税は全額盗まれました。そして勇者のうち何人かも死亡。」
必死に言い訳をする父親をゴミを見るような目で見つめるレイア、事の発端は数時間前に遡る。
御剣などの勇者の暴走を防ぐために勇者税を彼らに貢いできた国王、だが”鬼面の男”の活躍や魔族との戦争が終戦した事により、民衆の間で勇者や”勇者税”の存在に疑問を持ち始める者が現れ始めた。
このまま”勇者税”が廃止してしまえば、御剣達が自分達に切っ先を向けてくることを危惧した国王は、一芝居打つことにした。
魔族の王の一人と手を組み、戦争をもう一度起こそうと考えたのだ。そうすれば再び勇者の需要が高まり、”勇者税”が集まる。ついでに勇者は戦地に送るから暫くの間はのんびりと暮らせる。
そんなくだらない企みを実行し、いよいよ”勇者税”を徴収する日となった今日、”勇者税”が全て奪われたのだ。
一人ではない、何人も何十人も何百人と言った軍勢が”勇者税”を盗んでいった、護衛には勇者の中でもとりわけ強い者を選んだ。
だがそれでも”勇者税”は盗まれた、それだけではない、勇者はその盗人達によって殺されてしまった。
戦争の資金である”勇者税”を奪われただけでなく、戦争で勝つために必要な戦力である勇者まで失ってしまった、これでは戦争などできるはずがない。
そして国王の娘であるレイアはその責任の追及として、父親を王位から引きずり出そうとしている。
「安心してください、お父様。死罪にはいたしません。唯暫くの間、幽閉なさってもらうだけですので。」
笑みを浮かべながら恐ろしいことを言う娘に国王の顔が青ざめる。要は死ぬまで部屋から出られず、退屈な日常で死ぬまで一人で過ごすことになるからだ。
「それと、お父様が連絡を取っていた魔族の王の一人ですけれでど、既に亡くなっているようです。私の方から別の魔族の王の方と連絡を取って、開戦は行わないと条約を結びましたので戦争は起こりませんよ。良かったですね?さあ、近衛兵、父を連れて行きなさい。」
「や、やめろ!」
元国王は必死に抵抗するが、鍛え上げられた近衛兵には敵わず、外へと連れていかれる。
「さあ、正念場は此処からです。」
祐二達は役割を果たしてくれた、此処からは自分の番だ。レイアは自分の頬を叩くと気合を入れ、書類仕事を始める。
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「本当にこれで良かったんでしょうか?」
祐二達が”勇者税”奪還の為に動いてから数日、ニスアを始めとする一同は、ギールが所持する廃墟の一角に作られた墓の前に来ていた。
「仕方ないよ、もし生きてたらユージ君の行動に乗っかって野盗とかが増えるかもしれないってレイア女王様が言ってたでしょ?」
「でも、こんなのッて!祐二さんはみんなの為に命を懸けたのに、犯罪者として、王都や集落にお墓を作らせてもらえないだけじゃなく、さらし首にもなるなんてあんまりです!」
”勇者税”奪還事件の翌日、素早く動いたレイアの手により、国王は王座を退き、フェイや彼女の父親と同じく夫である皇帝を幽閉し、新たな皇帝となった元皇帝の妻達と協力し戦争を回避した。
そしてもう一つの問題、”鬼面の男”が生きている事によって発生する彼に便乗した野盗の増加や彼に賛同した者達の処分だが、これは”勇者税”奪還の際に勇者ミツルギとの戦闘で”鬼面の男”が死亡したことにより、こちらの騒ぎも沈静化した。
そして残った遺体の内、頭部だけはさらし首として王都の中心に飾られ、腐敗が酷くなった今は廃棄させられた。
勿論、国から見て彼は犯罪者であるため、墓を作る事は許可されず、”鬼面の男”に賛同した者達によってギールの所持する廃墟近くに建てられた。
「ユージは、最初から自分が犠牲になる事で全てを納めるつもりだったから、きっとこれで良かったんじゃないかな?」
「報われないにも程があるじゃないですか!ユージさんは、、、ユージさんは、、、」
彼が他の勇者と異なり、自分の立場が低いせいでショボいスキルしかもらえず、それでもめげずに頑張ってきた彼を知っているニスアとしては、祐二が辱められた事に納得がいっていないようだ。
「でも、本人がそれでいいって言ってるんだから仕方ないんじゃない?」
「で、でも。」
「ミラの言う通りですよ、ニスア。別に俺は誰かに認められたくて”勇者税”を奪った訳じゃないんですから。しかし自分の墓参りって変な気分だな。」
とうとう泣き始めたニスアをミラと祐二が宥める。
「しかし、姫様も凄いよね。”勇者税”を盗んだ翌日にはユージそっくりの偽物の死体の人形を作るんだから。というかユージ、本当に何で無事だったの?」
「いや、俺も分かんねえ。」
あの日、脇腹を思い切りさかれ血を流し意識を失った祐二だが、死ぬことは無かった。あの後普通に皇帝の妻によって宮殿の医務室へと運ばれ、適切な治療を受けて、騒動が収まる間にギールの手に渡され、王国に戻ってきていた。
そうして目が覚め、顔から火が出そうな程恥ずかしかった祐二を最初に出迎えたのはミラの怒りのビンタだった。
そしてワンワン泣く彼女を宥めるのが一番苦労した。
「しっかし、これからどうするかな?」
「んー、一応王女様がポケットマネーから礼金を出してくれたし、以前話した薬屋でもやってみる?」
確かにそれは以前話した。あの時は何でもない雑談だったが、今考えると悪くないかもしれない。
「そうだな、じゃあ、やってみるか?」
後二、三話程蛇足的な話をやって最終回です




