12話:愚帝
「各地で勇者税を乗せた馬車が襲撃を受けているだと!一体何をやっている!」
「ひいい!も、申し訳ございません!」
「ええい、黙れ!」
部下である大臣から勇者税を乗せた馬車が襲撃を受けているという報告を聞いて、美丘を匿っていた帝国の若き皇帝である男は怒り狂い、頭に被っていた王冠を大臣に投げつける。
「世界を救う勇者様の金に手を出すとは、不届き者め!地獄に墜ちろ!」
「ふっふう、まあまあ、皇帝、それ程激昂なされずとも、勇者ミオカ様であれば賊など直ぐに排除出来ましょう、他の勇者様も一騎当千の実力の持ち主、直ぐに騒ぎは収まりますとも。」
「枢機卿、、、そうだな。もうよい、貴様はさっさと下がれ。」
皇帝が大臣と部下を下がらせ、広間は皇帝と枢機卿、そして王妃だけとなる。
「そうだ、勇者様は無敵なのだ。彼らがいればこの帝国も、いや世界すらも救って平和な世界を築いてくれる、そして父の悲願でもあった笑顔の絶えない世界が、、、」
皇帝の目は血走り、明らかに正気ではない。そんな彼を枢機卿は都合の良い駒を見る目で、妻である王妃は憐れむ目を向けている。
「それを邪魔する者は全て殺せ!勇者様を敬わない者も、勇者税を奪おうとする者も、笑顔で無い者も全て殺せ!」
口が裂けそうな程開き、聞く者がいない広間で叫ぶ皇帝に冷たい声が掛けられる。
「ったく、、、どいつもこいつも正気を失いやがって、嫌になるぞ。」
「まあ、そう言わず、正気を失ってるから、こんなバカげたことを考えるんでしょ?」
「っ誰だ!」
声がした方向を向くと、そこには鬼のような面を被り脇腹を抑えている男と、露出の高い衣装に身を包んだ女が現れる。
女の方の素性は分からないが、鬼のような面を被った男の事は知っている。
「貴様は鬼面の男!どうやって此処に現れた!何の為に現れた!」
「方法はコイツに聞け、それと目的はアンタをぶん殴る為だ!」
腹を抑えていない方の手の親指でフェイを指さし、皇帝を睨む祐二。
「皇帝を殴る?ふっふっふ、それはいけませんよ、そのような不敬な行為、処刑されてしまいますぞ。」
枢機卿は祐二には見下した目を、フェイには色欲で濁り切った目を向ける。
「知るかよ、こちとら最初に動き始めた時点で死ぬ覚悟はできてるんだよ!」
「ひいっ!」
が、祐二の殺気の籠もった眼差しを向けられ、尻餅をつく。残された王妃はこの状況をただ静かに見守っているだけだ。
「っち!醜い豚が、衛兵!此処に侵入者が現れた、即刻こ奴の首を撥ねろ!」
皇帝が鈴を鳴らし、城に残っている兵を呼び戻そうとするが、一向に現れる気配はない。
「ああ、それは無理よ。此処にいる兵士は私が皆倒しちゃったから、本当は勇者も倒したかったんだけどね。」
「な、なに、、、」
兵が現れない理由を知り、愕然とする。
「勇者は彼が殺しちゃったから、確か、、、勇者ソーローだっけ?」
「御剣だよ。」
一文字もあっていないフェイに祐二はツッコミを入れるが、それ以上に聞き逃せない情報に皇帝は目を見開く。
「貴様、、、今何といった、、、勇者を、、、」
「ああ、勇者ミツルギを殺した。」
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「ひゃーははは、あっひょひょひょひょ♪」
祐二の腹部を神器であるカンオティオスで貫いた御剣は邪魔者が消え、自分が勇者の地位を取り戻す喜びで空を仰ぎながら笑っている。
「あっひょひょひょひょひょひょひょ、、、ああ?」
だがそこで違和感を感じる、突き刺したというのに手ごたえが全くない。ふと視線を戻すとカンオティオスの切っ先にあったのは、ボロボロのマントと地面に付きたてられた剣、そして柄の部分に引っ掛けられた鬼面だけであった。
「あれ、、、?」
「本当、変わってないな、お前は。」
背後から声がし、振り向くと口元に冷たい金属状の何かを押し込まれる。そこにいたのは血がドクドクと流れている脇腹を抑えながらも、右手の籠手に装備した連弩に隠された銃身を御剣の口に押し付けている祐二であった。
「は、はああ、なんふぇ、ほまえが、、、ひゃまとが、ほほにひるんはほ、、、ほまえひゃ、ひめんのほほお?」
口に銃口を押し付けられたことで上手く喋れない御剣は、祐二が鬼面の男の正体であったことに驚くが、一方の祐二は御剣を呆れの視線で見つめていた。
嘗て祐二と御剣が最初に戦った際、祐二は変わり身を使って御剣を倒した。そして今も同じように変わり身を使って彼を追い込んでいる。覚悟を決めるのに少しためらってしまったため、脇腹を思いっきり切り裂かれてしまったが。
あの頃から全く成長していない、いやむしろ人間としてどんどん墜ちてしまっている彼には呆れるしかない。
「『勇者は人殺しをしちゃいけないが、勇者じゃない俺には人殺しが出来るんだよ』か、確かにそうだな、そして俺も勇者じゃないから、人殺しが出来る。」
「っ!ひゃ、ひゃめふぇふれ!」
必死に命乞いをする御剣だが、その目は焦点が合っておらず、血走っているどころか真っ赤に染まって、中心は底が無い虚のようになっている。
勇者と言う世界を救う役割ではなく、勇者と言う肩書とそれによって得られる金や甘い生活に魅了され、人殺しに躊躇が無くなってしまった御剣。
もし此処で彼を見逃したら、取り返しのつかないことになる。
「・・・転移もしたんだ。転生できることを神様に祈れよ。」
そして籠手の引き金を引く。甲高い音が響き、御剣の頭部が砕け返り血が祐二の顔に掛かる。ハッキリ言って自分がした行いに吐き気を催してしまう。
「、、、っ!」
だが、鑑賞に浸っている暇はない。
「皆!直ぐに来てくれ!急いで勇者税を回収するぞ!」
隠れていた仲間を呼び戻し、彼らに勇者税の回収を頼むと御剣が持っていたカンオティオスを回収し、フェイに駆け寄る。
脇腹が痛むが、そこは我慢し簡単な応急処置で済ます。
「おい、フェイ!」
「あら、何かしら?」
「俺を今すぐ、ギールの元へ運んでくれ、アンタならできるだろ?」
「それは出来るけど、どうするの?彼を助けるの?」
「ギールは自分が美丘を倒すって言ったんだ、そんな野暮な真似するか、唯美丘は神器を操るからな。この剣をギールに渡せば、武器の差くらいは無くなるだろ。」
「それはそうだけど、、、でも私最初に言ったわよね?これは貴方達の問題だって。下手に干渉したところで私にメリットは無いわけだし、、、」
祐二の頼みを拒否しようとするフェイに祐二は彼女の胸倉を掴む。
「きゃあ♪、意外に大胆なのね。」
「うるせえ、良いか、俺の頼みを聞いてくれたら、もう一回アンタと勝負してやる!それでいいだろ!」
「・・・・・・・・・へぇ。」
揶揄うような笑みが、面白そうなものを見つけた笑みへと変わる。
「いいわ、特別に貴方の頼みを聞いてあげる。というかこの間の決闘で負けた時の条件で私、貴方の奴隷になってたわね。」
「細かいことは良いから、早く送ってくれ。」
「はいはい。」
そしてフェイは祐二を肩に抱えると、あり得ない身体能力を発揮してその場から飛び立った。
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「馬鹿か!貴様は勇者様を亡き者にするなど!正気か!」
「お前にだけは言われたくないな。」
御剣を殺したという祐二に皇帝が怒りの叫びを挙げる。
「ふざけるな!これでは、父の夢だった笑顔の絶えない帝国が、、、、、私は、私は、帝国を笑顔にしなければ、、、はい、父上、私は貴方の遺言に従って、帝国を笑顔の絶えない国にして見せます、、、はい、、、、」
「いきなりどうした?」
突如、うわ言を言い出した皇帝を二人は怪訝な目つきでみると、王妃が祐二達に近づく。
「申し訳ありません、鬼面の男とその仲間であろう御方。我が夫は先代皇帝である父上から、死の間際に皇帝の座を引き継いだ時に既に正気を失っているのです。」
「それは見れば分かる。でもどうして正気を失ったんだ?」
「それは先代皇帝が優秀でありすぎたからです、優秀な父を見て、周りから期待される中、思い通りにいかない自分への怒り、そして決定打となったのは父の遺言である『帝国を笑顔の絶えない国にしてくれ』という言葉です。夫はその意味をはき違え、国民を無理矢理笑顔にし、笑顔で無い者を捌く法律を作る程に。」
余りの愚行に言葉が無くなるが、皇帝は今もうわ言を呟いている。
「そして、勇者に入れ込んで、、、お願いします、どうか夫を楽にしてあげてください。」
最終回まであと少しです




