表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/89

10話:けりをつける(ギール)1

「久しぶりだな。勇者ミオカ。」


 帝国から発車した勇者税を乗せた馬車、帝国から数十メートル程進んだところでその場者の前に一人の男が立ちふさがる。

 右手に剣を持ち、左手にガントレットを携えた男、第一王女の近衛騎士であるギールだ。顔を隠す必要はない。


「う~わ、アンタかよ、なになに?またなんか説教、そーゆーのうぜーし、だりーし、クソだせえから。」


 突如止まった馬車に違和感を感じ、馬車の中から一人の日本人が出てくる。複雑なレリーフやエングレービングが施された剣と鎧、盾が恐ろしく似合っていない、軽い雰囲気の男、他の勇者達と同じく日本からきた者の一人で最強の勇者と言われる美丘だ。

 馬車には美丘以外には護衛はおらず、馬車の中には勇者税以外には露出の多い服を着た若い女性、御者も女だ。

 大方勇者に心酔している皇帝がご機嫌取りに用意したのだろう、他の護衛がいないのは美丘の力を信じている為か、彼の不況を買わない為か?


「あのさ~、俺急いでんだけど、そこどいてくんない?」


「悪いが、それは無理だ。戦争を再び起こす訳にはいかないのでな、それに漸く妻と娘の仇を討てる機会が訪れたのだ、この好機見逃せるわけがないだろう。」


「あ?あ~あ~、はいはい、そういう事ね、皇帝からなんかごちゃごちゃ言われてたけど、アンタがそうか?勇者税を盗むとかいう、うわ~、まじねえわ、人様の金を盗むとかさ~、あんた騎士なんでしょ?恥ずかしいとは思わないの?」


「人様の金で遊んでいるお前には言われたくはないな。」


 美丘の言葉を鼻で笑う。


「はあ?そんなの別にいいじゃん!勇者税は俺達の為に納められた金なんだから、そんなの俺がどう使おうと俺の勝手だろ!」


 違う、あの金は、勇者税は、民が勇者に世界を救ってほしいという願いを込めて納めた金だ。決して女遊びや賭け事に使われる為に納めた金ではない。

 ましてや、勇者の遊ぶ金を納める為に再び戦争を起こそうとするなど、決して見逃せるわけではない。


「もうお前を勇者とは思わない。お前は唯の愚者だ。」


「あっ!!お前、世界を救った勇者様に何言ってんだ!!ぶっ殺すぞ!!」


 剣を構えるギールに美丘も剣を抜く、だがその構えはお世辞にも戦い慣れているとは言えない素人の構えだった。

 それなのに最強の勇者と呼ばれる所以、神器を操れる”選ばれし者”のスキルによって彼は最強の地位をほしいままにしていた。

 だとしても逃げるわけにはいかない、この男の所為でどれだけの人間が苦しい思いをしたか、これ以上、好き勝手させるわけにはいかないのだ。


「アンタさあ、最強の俺に勝てると思ってんの?」


「訓練では散々俺に俺に泣かされた貴様がか?逆にお前は俺に勝てるのか?」


 ギールの挑発に美丘の顔が赤く染まる。戦場では冷静さを失う事は敗北につながるのだが、力に溺れた美丘はそれが出来ないらしい。

 祐二は怒りを抱いても冷静さを失うことは無かったのにと、ギールは内心美丘に何度目かわからない落胆の意を向ける。

 そして、勇者を鍛え上げた騎士と史上最強の勇者の戦いが始まった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ギールの妻は第一王女の侍女として使えていたメイドであった。この三人は幼い頃より友人で、孤児であり当時の騎士団団長に拾われたギールと彼に興味を持った当時侍女見習いであった妻を介して第一王女と知り合いになった。

 そうしてやがてギールは近衛騎士に、侍女は専属のメイドとなり、王女の口添えもあり無事結婚、翌年には娘も生まれ順風満帆な生活だった。


 それが変わったのは、それから数年後、魔族との戦争が始まってからだ。各大陸の王は異世界から勇者を召喚することを決意し、ギールは召喚された彼らへの指導を任された。

 最初ギールは彼らに落胆した、彼らは強力なスキルを持ちながらも戦闘に関しては素人、おまけに何処か戦いを舐めており、自分達なら勝てると妙な自信を持ち、訓練もまじめにやらずサボってばかり。

 こんな奴らに世界の命運を賭けなければならないのかと思った。


「何が世界の希望だ。」


 そして、その評価はタケオカやオオタといった一部の勇者を覗いて変わらなかった。遊びにばかりうつつを抜かし、碌に訓練を行わない勇者一行。


「本当についていくのか?」


「はい、私のスキルなら勇者様が怪我をしても治せますから。娘をお願いしますね。」


 そんな不安の中、勇者達は初めての戦場へと向かう事となる。彼らに不安を抱いていたギールは自分もついていこうとしたが、王国最強の騎士であるギールが国を離れ、王女の護衛がいなくなることを不安視した国王に止められた。

 一方の侍女であった妻は薬剤師として優秀な知識とスキルを持ち、看護師としても優秀であったため戦地の後方で勇者の支援を行う事となった。


 今思えばこの時、国王の命令を無視して戦地についていけば最悪の事態は避けられたかもしれない。


「あの子は体が弱いですから、しっかり見守ってくださいよ。」


「ああ。分かってる。だから君も決して、怪我をしないでくれ、危なくなったら直ぐに逃げるんだ。」


 そうして妻はギールと幼い娘を残して戦地へと向かい、二度と帰らなかった。


 勇者が参加した初めての戦闘、その結果は惨敗となった。兵の殆どは魔族や魔物に殺され、生き残った兵士も大怪我を負い、四肢を失って二度と戦えなくなった。

 一方の勇者は全員が強力なスキルを持っていたためか、怪我はなく、五体満足で帰ってきていた。最も無事に帰ってきただけで、魔獣一匹すら倒していなかったが、そして後方支援としてキャンプ場に待機していたギールの妻を含む非戦闘員の医者や看護師たちは全員が死亡した。()()()()()()()()()()()()


 本来この戦闘で惨敗する要素は無かった。資源や人員も充分、地形的にもこちらが有利、仮に負けたとしても双方痛み分けといった具合になったはずだ。

 では何故負けたのか?それは勇者がパニックに陥ったからだ。今までどこか遊戯感覚で訓練や魔物討伐に参加していた勇者、そんな彼らは初めての戦争で自分達に匹敵するかもしれない、強力な魔法のスキルを持っている魔族との戦いで我を失った。

 誰も自分達には勝てない、傷一つ付けられない、そう思っていた中で現れた魔族。本当に死ぬかもしれないことを知った彼らがパニックになるのは当たり前だった。


 そうして勇者はスキルや魔法を暴発させながら逃げ、多くの兵がそれに巻き込まれた。どれ程強固な陣形を組んでいても中で暴れまわれたら意味がない、パニックになった勇者が放った剣撃や魔法で兵は吹き飛ばされ、蹂躙された。

 そうして周りを巻き込みながら、逃げてきた勇者に戦闘系のスキルを持っていない後方支援の者達は殺された。

 特に神器を複数持つ美丘の暴走は激しく、キャンプ地には元は人だった物の残骸しか残らなかった。


 そうして終わった初めての戦、妻が勇者に殺されたギールは怒りの余り、勇者を殺そうと思ったが、国民に不安を与えるのを良しとしない国王の手により箝口令が敷かれ、逆らう事が出来なかった。


 愛する妻を失った。だが不幸はまだ終わらなかった。ギールと妻の愛の結晶である愛娘、幼い彼女は肺の病を患っており、その為の薬の調合できるのは王都で懇意にしている薬局の薬師一人だけだった。

 妻の死から必死に立ち直ろうとしていたある日、ギールは薬を購入しようと薬局に向ったが、その薬局は潰れていた。

 近くの者に話を聞くと、勇者税が払えなく、奴隷として鉱山での強制労働をしてるのだという。ギールは急いで馬を走らせた。娘の薬はその薬師だけしか調合できない。


「ああ、あのやせっぽちの奴隷なら今朝死んだよ。」


 だが、彼を待っていたのは、強制労働に耐えきれず、薬師が無くなったという悲報だけ、結局娘も肺の病が原因で亡くなった。


「あ、ああ、ああああああああああああ!!」


 愛する者を失ったギール、失意の中、王城へと戻ったギールと勇者税を懐に入れ、繁華街へと遊びに向う勇者がすれ違う。


(何故だ!何故!お前達が我を失わなければ友であった兵も妻も死なずに済んだ!!何故友であっ兵や妻が死んだのに平気な顔で遊びに出かけられる!!何故民が苦しい思いをして納めた金を平気で遊びに使える!!お前達は世界を救ってくれるのではないのか!!)


 こうしてギールは勇者に絶望し、のちに錦の御旗となる祐二と出会うまで、自分を殺して生きることとなった。



感想!!バンバン募集してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ