9話:作戦開始(祐二)
後数話で一応の終わりを迎えます
首を切り落とされた騎士達が辺りの地面に転がっている中で、銃撃音と金属がぶつかる音が響き、その中心にいる鬼を模した二丁拳銃の男と狂った笑いを浮かべながら、剣を振り回す男の戦いを銃を持った男と同じ鬼を模した仮面を被った者達が見守っている。
「テメエ、自分が何やったのか分かってんのか!!」
怒りを込めた声で、剣を振るう騎士、御剣を睨みながら鬼面の男、祐二は怒鳴る。
「ひゃははははは、あははははははははは、死んだ♪死んだ♪死んだ♪死んだ♪死んだ♪足手まといが死んだ♪役立たずが死んだ♪後はお前を殺すだけ~~~~♪」
だが、怒りを向けられた男、御剣はそれを笑い飛ばす。
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御剣が護衛する輸送団を襲撃した祐二達、ダイナマイトによる爆発で辺りの地面は崩れ落ち、騎士団は統率が乱れ、襲撃は成功した。最初の内は。
そして祐二達は拳銃やライフル、弓やクロスボウで遠距離から牽制をしつつ、勇者税の奪取を行おうとしたのだが、その瞬間、ずっと大人しく騎士団に付いてきていた御剣が勇者として、あり得ないことをした。
御剣は狂ったように笑いだすと剣を鞘から引き抜き、横向きに一閃、周りにいる騎士達の首を撥ねたのだ。
突然の御剣の味方殺し、これに唖然となっていると御剣は今度は標的を祐二達に切り替え、襲い掛かってきたのだ。
「おーーい、鬼面の男~~~!出て来いよ~!いるんだろ~~~~!!お前が出てこないんなら全員殺すぞ~~~~!!!」
叫びながらこちらに向ってくる御剣に祐二は、周りの者達を下がらせ、自ら一人御剣の前に姿を現した。
「おお、出てきた出てきた♪」
目当ての人物が出てきたことに御剣が笑みを浮かべるが、一方の祐二は怒りを浮かべている。
「何故、騎士達を殺した?」
「何故って、邪魔だからだよ。アイツら俺のこと馬鹿にしてムカついてたから。」
「アンタは勇者だろ!!!!」
勇者が仲間殺しをするというあってはならない行動を取ったことに祐二は怒鳴るが、一方の御剣は祐二の言った言葉が琴線に触れたのか、目を見開き首を傾げる。
「勇者?はっははははは、俺は勇者じゃねえんだよ。」
「何?」
「国王から言われたよ、勇者の称号をはく奪するってな。鬼面の男に有り金全部奪われて、盗賊に身を落として、近衛騎士選抜大会でもそこら辺の奴に負けた俺は勇者として相応しくないって言われて、スキルを封印された挙句に勇者税を取り上げられたさ。」
「・・・・・・」
どうやら流石の御剣の自分勝手と無能っぷりに国王も重い腰を挙げたらしい。既に遅すぎたが。
「でも言ってたんだよ。俺が鬼面の男を捕まえたら、勇者の地位を再び与えてやるってさ。だから他の騎士共を殺した。俺がお前を捕まえるのに邪魔だから、他の奴らに捕まったら俺が勇者に戻れないからさ、、、なあ、鬼面の男。」
御剣は背中を大きく反らしながら空を仰ぐと、右手に持った剣をダランとぶら下げる。
「勇者は人殺しをしちゃいけないが、勇者じゃない俺には人殺しが出来るんだよ!!!」
そして勢いよく、祐二の方を向くと走りながら切りかかる。技術も何もない、唯力任せに振るっただけの切り込み、確かにスキルは封じられているらしい。
だが、正気を失いかけて脳のリミッターが外れている故か、何か薬物で身体強化をしているのか、祐二が腰に差している短剣でその刃を受け止めているのだが、若干押されている。
そして。
「何!!」
「ひゃははははは、燃えろーーーー♪」
突如、御剣が持っている剣が炎を纏い、祐二の短剣を溶かしつくす。
「あはははははははは、やっぱりこの武器は最高だ。これがあればスキルなんていらない。この神器”獄炎剣カンオティオス”さえあれば!!!」
「神器だと、、、」
それは作戦開始前に聞いていた物、嘗て神が人間にスキルを授ける前に作ったというスキルを持った武器、だがそれを扱うには心技体が優れた人間でなければならなかったはずだ。
(美丘か、、、)
だが例外がある。それは勇者である美丘だ。彼が所持するスキル”選ばれし者”はその条件を無視して神器を使う事が出来ると聞いた。そして美丘は戦争が終結した後も各国が管理していて貸し出されていた神器を返却していない。
恐らく、御剣は何らかの手段で美丘と連絡を取り、彼が所持している神器の内の一つを譲ってもらったのだろう。
(接近戦は不味いか?)
御剣が持っている獄炎剣カンオティオスがどんなスキルを保持している武器かはわからないが、名前や先程の攻撃から炎に関係することは明白で、少なくとも刃の表面に炎を纏う事は確かだ。
(だったら!!)
祐二は邪魔になる近接武器を全て捨てて、遠距離武器に持ち帰る。腰に差していた上下二連式のフリントロック式の拳銃の御剣に向って放つ。
パンッパンッパンッパンッ!!!
放たれた四つの弾丸、だがそのうちの三つを御剣は剣で弾く。残りの一発は御剣の肩をかすめただけで終わった。
「ひゃはははははははははははははははははははははははは♪」
そして狂ったように笑いながら、御剣は切りかかってきた。
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神の創造物である神器と人類の知恵の結晶である銃、それらを扱う二人の勝負は祐二が押されていた。
”装填”のスキルにより、手早く次弾を装填できる祐二だが、元々彼が使っている銃は弾数が少なく、装填に時間が掛かる旧式の先込め式の拳銃だ。どうしても装填の時間が掛かってしまう。
腰の他にも脇腹に予備の拳銃を六丁持っているが、それも直ぐに打ち終わってしまった。
「くそっ!」
弾を撃ち尽くし、御剣の炎を纏った斬撃を避けながら装填を行っていく。火薬の量を計っている暇はない、自分の経験を信じて御剣から目を離さず、腕の感覚だけで火薬を込める。
「オウラ!!」
強烈な横薙ぎを避け籠手と一体化した連弩で牽制をするが、炎で焼かれて炭へと変わってしまう。弾丸が入った袋に銃身を突っ込み、弾を装填する。普通ならこれで装填されるはずは無いのだが、そこはスキルの恩恵で問題なく銃身に弾が装填される。
そして再び御剣に放ち、今度は三発ほど腕と足に直撃したのだが、御剣の攻撃が止まる気配はない。
(コイツ、ヤバイ薬でもやってるのか!!)
嘗てスレーヤの元で薬学について学んでいた時、人の痛覚をマヒさせる薬の存在を祐二は聞いた。その薬を摂取すれば痛みが無くなり、死ぬまで戦い続けることが出来るのだが、副作用として思考力の低下、感情の高揚、そして脳のリミッターが外れる事による肉離れや骨折があるという。
御剣がその薬を摂取したかはわからないが、狂ったように笑みを浮かべ、滅茶苦茶に大剣を振っても息切れせず、カウンターを喰らってもそれを無視して攻撃してくる御剣は明らかに正常ではない。
(スキルが封印された方が強いなんて皮肉だよな!!)
「オラオラどうした?ビビッて逃げちゃいたいでちゅか?」
「言ってろ!!」
再び銃を放つ、今度は御剣の左足首の撃ちぬいたのだが、御剣は攻撃されたことに気付いていないかのように攻撃の手を辞めない。
(このままじゃ、、、殺すしかないか?)
相手の動きを止めようとしても今の御剣は止まらない。嫌っていたとはいえ級友を殺す可能性があるかもしれない事に祐二は躊躇いを覚え、動きが一瞬だけ遅くなる。
そして御剣はその隙を見逃さなかった。
「ひゃーははは、あっひょひょひょひょ♪」
炎を纏った剣が祐二の腹部を貫通した。奇しくもそれはフェイに貫かれた位置と全く同じであった。




