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8話:作戦開始(アシュリー)

 祐二が作戦開始を合図した同時刻、他の場所に待機していた者達も同じく勇者税強奪作戦を開始しており、それはアシュリーが担当していた国でも同じだった。

 彼女が担当した国は水源が豊富である事が特徴の国で各地に水路や下水道が配備され、そうして作られた水路の上に石やレンガで作った橋や建物を作ることが特徴だった。

 しかし、それは逆に言えばもし橋や建物が倒壊すれば、あっという間に上にあった物は水路に落ちてしまう事を意味しており。


「な、なんだ!!」


「襲撃か!!」


「お、落ち着け、お前ら!!」


 如月や他の勇者率いる勇者税の運搬部隊は突如ダイナマイトで地面を爆破され、水路に落ちた多額の勇者税が淹れられた馬車を尻目に崩れた隊列の中、襲撃者に耐えなければならなかった。


 これがアシュリー達の作戦だ。複雑な水路が入り組んでいるのが特徴の国で王都から出発する馬車に対して、その信仰ルートにダイナマイトを仕掛けて、騎士団と勇者、馬車を分断する。

 ダイナマイトが爆破し、地面が崩れたことで馬車は水路に落ち、あらかじめ地下水路に待機させていた者達がボートに勇者税を乗せ、国外に逃げる。

 その時間を稼ぐためにアシュリーを含めた襲撃部隊が、建物の屋根の上から、弓矢やクロスボウ、拳銃で騎士団と勇者を抑える。実に単純な作戦だ。


「当たらなくてもいいから、兎に角撃ちまくって!勇者のスキルが使えない今がチャンスだよ!」


 祐二から貰ったロングバレル上下二連式のフリントロックライフルで次々と騎士団を狙い撃つアシュリー。弓矢は使えないが、銃なら問題はない。


「クソ何やってる!?さっさと魔法でも何でも使ってこいつ等を殺せよ!」


 騎士団の盾に守られながら、恐怖と苛つきが混ざった声で如月が騎士団に命令するが、彼自身は動かない、いや、動けないのだ。

 如月が持つスキルは多数の魔物を従えるスキルで彼自身は一切の戦闘能力を持たない、しかし魔物を従えるというスキル故に市街地などでは住民や騎士団からの反感が強く、魔物を持ち込めないのだ。

 もしこれが平原などの場合、如月は強力な魔物であっという間にアシュリー達を蹂躙していただろう。だが今の如月は正直に言って騎士団のお荷物でしかない。

 騎士団とて、反撃に出たい、しかし此処で如月や他の勇者が死んでしまえば国の重鎮から責められる、それ故騎士団は反撃に出ずに如月を守るために防衛に徹するしかないのだ。


「催涙弾、撃て――!!」


 そんな騎士団にアシュリー達が追い打ちをかける。弓矢とクロスボウの部隊が矢の先に粉末が詰まった瓶を取り付け、騎士団に向って放つ。

 それは祐二特製の催涙弾で軽く吸うだけでも激痛が目と鼻を襲い涙と鼻水が止まらず、しかも下手をしたら失明の危険があるという、普通なら使わない代物だ。


「げほげほっ!おえっふ!!」


「目がー!!目がー!!!」


「ぼべぶべぼべべべべ!!」


 如月を守るため盾を構えていた密集していた騎士団、そんな状況で複数の方角から催涙弾を喰らったのだ、どうなるか言うまでもない。数人の騎士は風の魔法で催涙弾を吹き飛ばそうと頑張っているが、碌に喋れない中で詠唱が出来る訳もなく、刻印で催涙弾を吹き飛ばしたとしてもアシュリー達が攻撃を止めるわけがない。


「ああ、くそ、、、もう、こうなったら!!」


 頼りにならない騎士団にイラつきが最高潮になった如月、彼は懐から金属製の笛を取り出し催涙弾で苦しむ騎士や同級生である勇者を押しのけるとその笛を力の限り吹く。


 ”ピィーーーーヨ、ピィーーーーヨ!!”


 鳥の鳴き声を連想させるその笛の音にアシュリー達が攻撃の手を緩める。一体、勇者が吹いたあの笛は何なのか?一体どのような意味があるのか?その答えは直ぐにわかった。


 王都の城門近くで、轟音が鳴り響き、城門が吹き飛ぶ。そうして露になった王都の入り口には見た事もない魔物が複数おり、一斉に如月の元へと走ってくる。


「お前ら、こいつ等全員ぶっ殺せ!!」


「っな!こんな街中で魔物を呼んだの!?}


 如月の短慮な行動にアシュリーが呆れ、叫ぶ。確かに如月は魔物を操り、細かな指示を送る事が出来る。しかし実際はその指示を実行する魔物の匙加減なのだ。

 例えば如月が特定のグループに対し、魔物に倒せと指示を送る。魔物はその指示に従って敵を倒そうとするだろう。しかしこの場合の倒せとはどういう意味だろう?無力化するという意味か?敵を殺せと言う意味か?そこは魔物個人の判断で最悪皆殺しという可能性もあるし、ターゲット以外の周りの者も巻き込む可能性がある。


 そして今如月は魔物に対し、”こいつ等全員ぶっ殺せ!!”と指示を送った。如月の言ったこいつ等とはアシュリー達の事なのだろうが、それを知らない魔物達にとって”こいつ等”とは騎士団や勇者を含む、如月以外全員の事だ。最悪、無関係の民も含まれるかもしれない。


「皆逃げて!!貴方達も早く逃げなさい!!」


 瞬時にそれを察知したアシュリーは仲間だけでなく、騎士団たちにも逃げるよう叫ぶ。事前に厳しく訓練をしたおかげか、仲間達は直ぐに武器を片付けて、逃走ルートへと向って行く。しかし騎士団は先程まで自分達を襲っていた者から逃げろと言われたことに疑問を浮かべ、硬直してしまっている者や如月が魔物を呼んだことで形勢逆転したとして動かない者ばかりだ。

 それが彼らの運命を分けてしまった。


「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」


「ガゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 恐竜とゴリラのバッファローを混ぜ合わせたような二匹の魔物が器用に如月だけを避けながら、騎士団や他の勇者に突撃を仕掛ける。それはまさしく必殺の一撃、盾を構えたところで防げるわけがない。騎士団の大半はあっという間に鉄片と肉片に姿を変えた。


「うわあああああああ!!」


「いや、来ないでええええええ!!!」


 味方であるはずの魔物に襲われ、逃げ出す騎士団。逃げ遅れた者の中には勇者もいたのだが自分の命を考えたら、気にしている暇はない。


「あああ、もう!!」


 そして腕が四本ある巨大なチンパンジーのような魔物が女子生徒の勇者に襲い掛かろうとした瞬間、祐二の同郷である彼女を放っておけなかったアシュリーが獣人の身体能力を活かし、建物の屋根から飛び降り魔物を超える速さで女勇者を肩に抱きかかえ、別の建物の屋根へと駆け上る。


「何ぼさっとしてるの!?早く逃げなきゃ、、、、」


 地面に膝をついて魔物から逃げようとしなかった女勇者にアシュリーが注意しようとするが途中で顔を顰める。

 女勇者は動きやすいようミニスカートを穿いているのだが、抱きかかえられた事で丸見えになったパンツに黄色と茶色のシミが出来、膨らみ、排泄物特有の匂いがアシュリーの鼻を直撃したのだ。


「・・・まあ、怖かったから仕方ないんだけど、、、できれば漏らすのは小だけにしてほしかったかな。」


 動物というのは基本的に排泄物の匂いに敏感だ。犬のマーキングもそうだし、一部の動物は糞をする場所によって自分の縄張りを主張する。

 それは魔獣も同じで、糞尿の匂いで獲物を見つけたり、縄張りを荒らす新参者を見つけ襲うのだ。そしてアシュリーが抱きかかえている恐怖で気絶した女勇者の尻と下着には糞尿がベッタリと着いている。

 如月によって全てを殺せと命じられた魔物にとってアシュリーは非常に目立つ獲物だ。


「はあ、仕方ないか、こっちの仲間は全員逃げたし、騎士団も壊滅、魔物さえ倒せば、後は勇者税を盗むだけ。」


 こちらに襲い掛かろうと、距離を測っている魔物を尻目にアシュリーは服を脱ぎ、下着だけの姿になり、()()()()()()()()()()()()()()を使用する。


「グッ、ガッ!ガアアアアアアアアア!!!!!」


 アシュリーの体に変化が起こる。四つん這いの姿勢になり、口の牙が鋭く伸び、爪が獲物を切り裂くことに特化した形状と硬さに形を変え、目つきが鋭くなる。

 さらに全身から銀色の毛が生え、体も下着を引きちぎり数倍の大きさへと巨大化する。そうしてアシュリーは銀色の巨大な狼へと姿を変える。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン!!!」


 変化を終え、遠吠えをすると魔物達が委縮し、怯える。これこそがアシュリーの家が代々受け継ぎ、秘匿してきたスキル”魔獣化”だ。


・魔獣化Lv10:スーパーレアスキル、獣人にのみ継承可能、自らの体を一定時間魔獣へと変貌させる。変貌後の強さは所持者の能力により変化する。変貌後は戦闘本能が肥大化し、暴走の危険性がある


 アシュリーとしてはこのスキルはあまり使いたくなかった。使うには服を脱がなければいけないし、下着も破れる。下着も脱げばいいのではないかと思うが、敵や魔獣に全裸は晒したくない。

 それに魔獣になると敵を蹂躙することに快楽を覚え、暴走して敵味方の判別がつかなくなってしまうのだ。それでも何とかニスアや祐二のように大切な人間は襲わない程度には抑制できるが、それ以外は基本全員襲う。そうやって暴走するのが怖くて、このスキルは基本的に味方がいない状況でしか、使わない。


「グルルルルッ!ガウっ!」


 実際今も全てを壊したくて仕方がない。魔獣どもを食い殺したい、爪で、牙で、魔獣を痛めつけ、悲鳴が聞きたくて仕方がない。


「ガアアアアアアアッ!!!!!」


 そうしてアシュリーは戦闘本能に従うまま、魔物へと襲い掛かった。




 

因みにアシュリーがいる国はセイン王国ではなく、別の国です

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