7話:勇者税
暮らしの中で金は大切だ。金を稼ぎ食糧や生活用品を購入し家族を養う。金よりも大切なものである家族を守るため皆働き、金を稼ぐ。
それはこのフェストニアでも変わらない。フェストニアでは金は硬貨しか存在せず、金貨(1万円相当)、銀貨(千円相当)、銅貨(100円相当)の三つに分けられている。貴族や豪商を除いた一般家庭の平均収入は、金貨6枚から7枚ほどであり、皆それで生活し残った金を貯えとする。
それがこの異世界での普通の暮らしだ。そんな中、突如作られた”勇者税”という制度、毎月金貨三枚という収入の半分を持っていかれる事に民衆からは多くの抗議の声が上がった。
だが、魔族との戦争が本格化している事、戦争に勝つためには大量の資金が必要な事、そして勇者がいれば戦争には勝てる事、この三つの現状を各大陸の最高権力者が示し、民には苦しい思いをさせてしまうが耐えてほしいと懇願したことで抗議の声はなくなった。
各大陸で一番立場が上の人間が懇願したのだ。こうなってしまえば口を閉じるしかない。幸いだったのは勇者税が”一人につき金貨三枚”ではなく、”一家庭につき金貨三枚”だったことだ。これで多少は負担は減る。民衆は勇者税を受け入れた。
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「距離良し、風向き良し、後は引き金を引くだけ。」
”遠見”のスキルを使い猪に狙いを定めて祐二は引き金を引く。それは祐二の狙い通りに動作し矢を放ち、猪の脳天に直撃する。恐らく即死だろう。祐二の使ったそれに対しバンが驚きの声を上げる。
「ほんとにユージの言った通りになったな。すげえなその”クロスボウ”ってのは。」
「これを使えば、人力では引くことができない弓でも引くことができるんです。まだまだ改良は必要みたいですけど。」
祐二が今回の狩りに使った道具は”クロスボウ”と呼ばれる機械式の弓だ。実はこれが祐二が達成したかった目的だ。狩りの際、今使っている弓では威力不足を感じることがあった。その問題を解決するために作ったのがこのクロスボウだ。てこの原理で生身では引けない弦を引くクロスボウなら威力不足を解消できるのでは、と考え何度も試行錯誤を繰り返していたのだ。
そしてフェストニアに来てから半年、漸く形になったのだ。といっても改良は必要であり、特に連射性は弓に大きく劣る。暫くは小さい獲物は弓、大きい獲物はクロスボウと切り替えていく事になるだろう。
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「ん?バンさん。これ何すか?」
猪を狩った帰り道で、祐二は足元に転がっている歪な球体の結晶を見つける。所々鈍く光っており余り高級そうな感じはしない。
「ああ、スキルオーブだな。魔物が自然死すると肉体が朽ちていくんだが、偶に球体の結晶を残す魔物がいる。その結晶がスキルオーブで魔物が使っていたスキルが記憶されてるんだ。」
”スキルオーブ”それはニスアにフェストニアについて説明された際に紹介されたもので、これを使うことで後天的にスキルが得られる。中でもレアスキル以上の物は貴族間で高値で取引されている。
思わぬ収入に顔が綻ぶ祐二、だがバンが期待を裏切る言葉を発する。
「つっても、それは見る限りコモンのスキルだな、高い値はつかねえし、このご時世誰も買わねえよ。」
「でも、捨てるのはもったいないっすよ。」
「だったらテメーが使え、オーブを砕けば砕いた奴にスキルが宿るようになってる。」
バンの言う通りスキルオーブを砕くと、祐二の脳内に文字が浮かぶ、自分が取得したスキルの詳細だ。
・挑発Lv1(コモンスキル):相手の注意を引き付けることができる。
バンの言う通り、コモンスキルであり強力そうなスキルではない。恐らく上位のスキルには、相手の意識を完全に自分に向けさせるスキルや相手を引き寄せるスキルなどがありそうだ。それでも何かの役には立つだろうと考え、帰路につく。
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「それじゃ、ユージ君は、明日から暫く狩人稼業で別の村で働くの?」
「はい、畑を荒らす魔物が出たとかで組合に連絡が来て、その退治に向います。行き帰りも含めて多分一週間程かかると思います。」
夕食時、暫く家を離れる報告をする祐二の台詞に寂しそうな顔をするアシュリー、彼女にとって祐二は、半年間一緒に暮らした掛け替えのない存在となっていた。それでも自分たちの暮らしのために働く祐二を止めることはできない。
勇者税が制定されてから、苦しくなる生活を少しでも楽にするため祐二は”狩人組合”というものに参加している。
”狩人組合”というものは民衆に危害を及ぼす獣や魔物を退治してほしいという依頼に対し、スキルや腕っぷしに自身のあるものを派遣、退治し報酬を貰う組織で報酬の一部は派遣された狩人にも支払われる。
ちなみに狩人と言っても全員弓を使っているわけではなく剣を使うものや己の拳のみで戦う人もいる。あくまで魔物を狩るから”狩人”なのだ。
そして、狩人には強さによってランクが存在し、ランクごとに依頼が選べる。強い魔物に弱い人材を派遣しても被害が拡大するだけであり、そういったランク付けは大切なのだ。ランクは上から、白金級、黄金級、銀級、鉄級、銅級に分かれており、銀級以上に上がるには最低でもレアクラスのスキルが必要だ。
祐二も狩人として組合の依頼を幾つかこなしてきたが、戦闘向きのスキルがなく又全てコモンスキルである彼は銅級である。その為、依頼内容も畑を荒らす獣の退治などで収入もあまり良くない。それでも必死に依頼をこなしてきたからか、生活は多少楽にはなってきていた。
「ユージ君、君が私達の為に頑張っていることは分かっているけど、余り危ないことはしないでね。もしユージ君に何かあったら、アタシ、、」
「大丈夫です。俺は銅級で危険な依頼は回されませんし、俺も危ない目に会うのは俺も嫌ですから、腰抜けと思われるくらいの心構えで依頼に取り組みます。」
アシュリーの不安を吹き飛ばすように言う祐二に、アシュリーが微笑む。祐二の言葉に嘘はないと判断したのだろう。そして悪戯を思いついたような顔をして祐二にある提案をする。
「それじゃ、明日からユージ君が暫く帰ってこないなら今日は、一緒のベッドで寝よっか♪」
「ブッ!なっなんで、そんな話になるんすか。」
「だって、明日から一週間アタシ一人で寂しいし、今日は思いっきり甘えたり甘えさしてあげようかなって。」
アシュリーの提案に対して、過剰なほどに祐二は反応してしまう。半年一緒に暮らしてきたとはいえ若々しく見事な肢体を持つ彼女と同居している事に未だ慣れていない祐二は、彼女に少しでも攻めに回られると途端に慌てふためく。そしてアシュリーもそんな祐二が可愛くて何度もこう言った悪戯をするのだ。
”俺って女性から見たら、からかい甲斐のある男なのかな?”と思いながらも祐二はアシュリーの提案を断った。
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祐二がフェストニアに転移してから半年、素朴ながらも充実した生活を送る祐二。しかしその半年後、彼に思いもよらない出来事が発生する。それは、世界を救った勇者には小さな出来事で、しかし勇者でない彼には大きな出来事だった。
始まりは、祐二が転移してから一年後、各大陸の首脳陣が行っていた会議で一つの議題が終了したことだった。その議題の内容を聞き届けた大臣は、すぐさま部下を呼び寄せ内容を伝える。上司の今まで見たこともないほどに緊張している状態に、部下は不安を覚える。そして大臣の口が開き衝撃の内容を伝える。
『魔族との和平が成立した。』
少しずつですが、閲覧数も伸びてきました。これも皆様のおかげです。このまま頑張っていって皆様に面白い話を読んでいただきたいと考えています。
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