5話:作戦会議2
「大まかな作戦は決まったな。」
「ああ、後は人員が揃えば、、、」
勇者税を全額盗み出すことを決めてから数日、レイアやソニアの配下がこっそり調べてきてくれた勇者税の運搬ルートと近辺の土地情報、勇者税を一部に纏める際に護衛に就く勇者の詳細など、作戦に必要な情報は全て揃った。
「取り敢えず、最初の作戦として、今回の勇者税はまず一部の国に集められてから纏めて運ぶことになってる。だから俺達は集められる前の輸送中の勇者税を狙う、纏められた後だと勇者の数も多くて一網打尽にされる恐れがある。それに大量の勇者税を盗むことになるから逃亡する手間も増える。だから複数の勇者税が集められる前に運搬ルートに罠を仕掛けてそれを盗む。同時に起きれば他の奴らも自分達の対処に精一杯で援護に向うことは出来ないはずだ。で、使う罠がこれ。」
そう言って祐二が背中に背負っているバッグから二つの物体を取り出す。一つは球体の物体でもう一つは円筒状の物で、どちらにも麻紐縛ってあり、導火線がある。
「それは?」
「元々ドワーフの王族や錬金術師に依頼してた物で、丸いのは黒色火薬を詰めた爆弾、細長いのはニトログリセリンを珪藻土に染み込ませたダイナマイトだ。結構前から完成してたんだけど威力が高すぎるから使わなかったんだ。こいつらは導火線に火を付けると下手な火の魔法よりも強い爆発を起こすんだ。これを輸送ルートの地面に仕込んで輸送する馬車が来たタイミングで爆発させる。後はその隙を見計らって奇襲を仕掛ける。まあ細かい陣形や訓練は必要だけど。」
「でも、戦うのは僕達だけじゃなくて、他の人達もでしょ?護衛に就く勇者達は皆戦闘スキル持ちだろうけど、僕達は戦闘スキルばっか持ってるわけじゃないよ?」
ミラの疑問は尤もだ。いくら奇襲を仕掛けても勇者は規格外の存在、ついこの間まで鍬を持って畑を耕していた人間が剣術のスキルを持つ人間に正面から戦って勝てるものではない、正面からでは。
「そんな事は百も承知、だからこいつを使う。」
そう言って今度は大きな箱をドンっ!とテーブルに置く祐二、ふたを開けると中には大量のフリントロック式拳銃、しかも改良を施されたのか銃身が四つ並んでいる。
「これもドワーフの王族に急ピッチで作ってもらっている。襲撃部隊にはコイツの使い方を学んでもらう、別に充てる必要はない。ただ勇者や他の護衛の脚を止めてくれればいいんだ。俺達はどうやってもスキルでの戦いじゃあ勇者には勝てない。だからスキルに頼らない戦い方で勇者に勝つ!」
「だな、勇者の奴らの殆どはスキルに頼り切りでそれ以外はお子様以下なのはこの間の選抜大会で証明済みだ。」
勇者を鍛え上げてきたギールが言うと説得力がある。
「でも、皆協力してくれるかな?」
「ミラ?」
ミラが不安げな顔で自分の考えを言う。
「だっていくら作戦があるからって言ったって、相手は勇者、そんなのと戦えって言われたって、はいそうですかって納得できるものじゃないよ。僕だったら逃げるよ。」
「それは、、、」
ミラの言葉にギールが口ごもる。勇者がウルトラレアのスキルを持っているのは周知の事実、確かに戦うのは恐ろしいだろう。
「大丈夫、それも考えてる。」
「ユージ?」
「ただ、ギールや王女様にはちょっと悪いかもしれないけど。でも、多分、皆の不安は取り除けるはずだ。」
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「皆、集まりました。」
「ありがとうアルティ、後王女様も。」
深夜、ギールが所持し現在は祐二が暮らしている廃墟の近くに大勢の人間が集まっている。彼らはアルティが”奴隷として購入”という名目で鉱山から救ってきた者達や第一、第二王女の勇者税廃止という考えに賛同した者達だ。
これから彼らの前に出て演説を行うということに祐二は緊張してしまうが、ここで不安な姿を見せては彼らの信頼を得られない。
祐二は覚悟を決め、鬼面を付け彼らの前に出る。
「皆、集まってくれたこと、感謝する。」
王都やその周辺で話題になっている鬼面の男の登場に周囲がざわつく。
「皆も知っているだろうが、先日鉱山で魔族による襲撃事件があった。だがこれは嘘だ。本当は勇者税を集める為に国王が戦争の口実づくりの為にでっちあげた嘘だ。そしてこのままでは戦争が再び起こってしまう。それを防ぐためにも俺は勇者税を全額盗みだし、戦争を行えない状況にしようと思う。その為にも皆の力を貸して欲しい、俺一人の力では限界があるんだ。」
怒涛の勢いで告げられる真相と企みに周りは混乱する。彼の言っている事は本当なのか?本当だとしたら戦争が起こってしまう、自分達はどうすべきか?鬼面の男に従うべきか?勇者相手に戦うべきなのか?戦火に巻き込まれないよう遠くに逃げるべきではないか?
どんどんネガティブになっていく周りの者達に傍で控えているレイアやギールが苦い顔をする。やはり無理だったのかと。
「二人共、ごめん。」
「?」
そしてそんな二人の顔を見ずに祐二は謝ると、彼らの前で鬼面を外した。
「なっ!ユージ!!」
「皆、聞いてほしい!!俺は確かに指名手配されている鬼面の男で、何度も勇者や王城から勇者税を盗んできた!!皆はそれを聞いてきっと俺にはスーパーレアやウルトラレアのスキルがあると思ってるんだろう!でも違う、俺が持っているスキルは殆どがありふれたショボいスキルだ。唯一持っているレアスキルも”大道芸”とかいう戦闘には全く役に立たないスキルだ!それでも!!俺は勇者相手に勝つことが出来た!!この中にはレアスキルで戦闘向きのスキルを持った奴もいるだろう!!俺にできてアンタらにできないことは無い!!アンタ達だって充分大切な誰かを、自分自身を守るために立ち上がり世界を動かすことが出来る力を持っているんだ!!必要なのはほんの少しの勇気と覚悟だけだ!!戦争を二度と引き起こしたくないと、誰にも死んでほしくないと思える者は俺についてこい!!」
これが祐二の考えた策、敢えて自分の正体やスキルを明かし、彼らにも世界を動かす力があると思わせる事、実際は祐二は入念に相手の弱点を調べ準備し、鬼による特訓の成果もあり勇者相手に勝てたのだが、いかんせん今必要なのは即席の自信、騙すようで申し訳ないが兎に角勇者に勝てるという自信が付くだろう。
「なあ、本当に俺みたいなやつでも勇者に勝てるのか?」
おずおずと一人の若者が手を挙げる。
「ああ、スキルに頼らない武器や策も用意していある。俺は確信している、アンタ達が力になってくれたのなら絶対に勇者に勝って勇者税を盗めると!」
「お、俺はやるぞ、もうこれ以上戦争なんてしたくないんだ。」
「お、俺だって、もうこれ以上勇者税で金をとられたら、母ちゃんの薬代が払えなくなっちまう。」
徐々に彼らの中から声が挙がってくる、それらは全て勇者税廃止の為に動こうという声でその波は広がっていく。
「皆で絶対に戦争を回避するぞ!!」




