2話:三人の女性
国王から密命を受けた国の暗部たちが鉱山を襲撃した翌日、ギールが所有する廃墟にてギールや第一、第二王女、ミラ達など勇者税廃止に関わっている者達が集まり経過報告を行っている。
「今回被害を受けたのは王国が所持する鉱山の内、金山が三つ、銀山が二つ、銅山が四つでした。また襲撃の際、鉱山で元々働いていた者達は事前に避難をしていたようです。恐らく国王が、、、」
「勇者税を払えず奴隷となった者達はどうなったのです?ギール。」
報告を行っているギールの顔が曇る。
「我々が装備を整えて到着したころには、既に火が回っておりました。必死に救助を行いましたが死者は百人規模に上るかと、、、」
余りの死者の多さに重たい空気が流れる、戦場でなら百人規模の死者もそれ程珍しくはない。だが今回に至っては同じ国に住んでいる者からの襲撃なのだ。受け入れられるわけがない。
「王女様、この先はどうなるの?」
「・・・既に父の耳には”魔族が襲撃を行った”という情報が入ったという事になっています。そして次の勇者税徴収の日に魔族に対し、宣戦布告をすることも今朝の議題で決定しました。」
顔を歪ませながら爪を噛むレイア、議題には彼女も参加し、魔族との戦争には断固反対の意思を示したのだが、まるで台本でもあったかのようにスラスラと進んでいく議題に彼女の意見が通ることは無かった。
「じゃあ、この羊皮紙を公開すれば、、、」
何とか戦争を回避するための策として、魔族と国王の密約が書かれた羊皮紙を公の場で暴露すれば良いと考えるミラに対してレイアは首を振る。
「そんな事をすれば父は暗殺者を差し向けるでしょう、それにそれは”写し”いくらでも言い訳が聞きますわ。」
「そんな、、、、」
肩を落とすミラ。そんな彼女にギールが声を掛ける。
「ユージは、、、どうだ?」
勇者税廃止の為に集まった者達の中でも中心となっている祐二、彼は今この場にはいなかった。
「・・・ずっと部屋に引きこもってる。”全部自分の所為だ”って。」
「折れてしまったか。」
鉱山襲撃から帰ってきた祐二は見ていられない有様だった。ボロボロの装備に涙で真っ赤になった目、ひたすら自分を責め続ける彼にミラ達は何も言うことが出来なかった。
「どうなるの?アタシ達?」
再び戦争が始まるかもしれないという状況で、アシュリーが不安から漏れた言葉に答える者もまたいなかった。
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祐二はベッドでずっと横になっていたが、全く眠ることが出来なかった。目を瞑ろうとしても瞼の裏に溶けた灼熱の金で体を焼かれ、助けを求める人達の姿が焼き付いており直ぐに目が覚めてしまった。
「逆恨みで勝手に動いて、沢山の人を巻き込んで、、、最低じゃねえか、俺。」
もしかしたら、王都の人々から”鬼面の男”としてもてはやされていた事で調子に乗っていたのかもしれない。
そうやってどんどん自己嫌悪に陥っていると、部屋の扉が軽く三回ノックされる。
『ユージ、今時間大丈夫かな?入るよ。』
返事を待たずに入ってきたのはミラだった。御剣に負わされた顔の傷も消えており男を魅了する彼女の美貌が元通りになっている。
ベッドに寝転がっている祐二を見つけると彼女もベッドに腰かける。
「王女様に話を聞いたんだけどね、このままだと次の勇者税徴収の日に国王が魔族に宣戦布告を仕掛けるんだって。」
「!!」
祐二の体がビクンッと震える。自分の所為だ、自分が余計なことをしなければ。
「ねえ、ユージはさ、もしかして再び戦争が起こるのって自分の所為だって思ってる?」
「違うのか?」
ミラと顔を合わせず、背中越しに問いかける祐二にミラは人差し指を口に当てて、考えると彼の問いに答える。
「違わないよ、全部ユージが原因だもん。そりゃ確かに僕達も勇者税廃止に独自に動いていたけど、先に勇者から勇者税を奪い返したのはユージだし、ユージもノリノリでやってたじゃん。そのツケが今回回ってきたって感じかな。」
「・・・」
ミラの言葉に体を丸めていく祐二、やはり自分が余計なことをした所為で、、、
「だからさ、ちゃんと最後まで責任取ってよ。」
「責任?」
「そ、責任。ユージが勇者税廃止に動いた結果、再び戦争が始まろうとしてる。それでユージはどうするの?全部自分の所為だって自己嫌悪して、皆が戦争で傷ついて、死んでいく中このまま引きこもるの?そんなの僕は許さないよ。勇者税廃止に動いたのなら、ちゃんと最後までやり切って。それで戦争が起こるのなら戦争を防いで皆を救わなくちゃ駄目だよ。逃げ出すなんて許さない。だって祐二は”鬼面の男”なんだから、みんなの希望なんだよ。もし一人じゃ無理だって言うなら僕も力を貸すからさ。」
そう言って部屋を後にするミラ。この時祐二がどんな表情をしているのか、彼女は決して見ようとしなかった。
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「あの、、、アシュリーさん、、、」
次に入ってきたのはアシュリーだった。彼女はノックもなしに祐二の部屋に入ると無言で祐二と一緒にベッドに寝転がり、祐二を抱きしめた。
「ねえ、ユージ君。アタシが君が集落を出るときに言った言葉覚えてる?」
「ええっと、確か、、、」
「”心が折れそうなとき、心も体もボロボロなとき、逃げてもいいから、その時は集落に戻ってきて、アタシが傷がいえるまで甘やかしてあげる”っていったの。」
「はあ、」
「それで、今がその時かなって。」
そう言って祐二を抱きしめるアシュリー、甘い香りと柔らかい感触で少しだけ心が落ち着く。
「どう、傷は癒えた?」
「わかんねえっす。」
疲れたような表情で答える祐二に、”そう”とだけ言うアシュリー。
「ねえ、ユージ君、ミラちゃんから聞いたと思うけど、このままだとまた戦争がはじまっちゃうんだって。」
「はい。」
「アタシさ、人が死ぬところ見るのは嫌いなんだ。特に争いとかで人が死ぬのはね。」
「はい。」
淡々と答える祐二、そんな彼にアシュリーは辛そうな表情を浮かべながらも自らの言葉を紡ぐ。
「だから、お願い。戦争を起こさせないで!ユージ君が今回の事件で沢山傷ついたことも知ってる!でもアタシは戦争なんて見たくない!戦争を止めて!もしそれでユージ君が傷ついたなら、アタシがそれ以上に甘やかしてあげる!傷を癒してあげるから!・・・だからお願い、、、」
「アシュリーさん、、、」
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「祐二さん、祐二さんは私達神が貴方達を異世界に転移させた理由を覚えてますか?」
今度はニスアが祐二の部屋を訪問してきた、流石に何となく予想が着いたのでベッドから起き上がり、正座でニスアと対面する。
「魔族との戦争で世界が滅ぶのを防ぐため、、、ですよね。」
「はい、ですが私には転移者に”ウルトラレア”のスキルを与える権限がなく、祐二さんに世界を救う勇者としての使命を押し付けることは止めました。」
それはよく覚えてる。異世界に転移するなんて経験、普通はあり得ない。
「でもそれだったらおかしいんです。」
「おかしい?」
「はい、元々”ウルトラレア”のスキルを与える権限が無いのなら、世界を救う為の転移者を呼ぶ権限も必要がないんです。私はずっとそれを疑問に思ってました。けれど今回の事件で気づいたんです。何故私に転移者を一人だけ呼ぶ権限があったのか。」
頭を地面に下げるニスア、突然の土下座に祐二が困惑する。
「祐二さん、今私達の世界は危機に扮しています。再び魔族との戦争で多くの死者が出るかもしれません。だから”勇者”として私達の世界を救ってください!きっと私はその為に貴方をこの世界に召喚したんです!」
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誰もいない部屋で祐二は一人考える、この後自分はどうするべきか?惚れた女からは責任を取れ、逃げるなと言われ、世話になった女性から傷を癒すから戦争を止めて欲しい言われ、自分を異世界に召喚した女神からは”勇者”として世界を救ってほしいと言われた。
ふと机の方に視線を向けると机の上に鬼面が置かれている、集落を出た時からずっと使い続けてすっかりとボロボロになったソレを手に取る。
「随分と重くなったなあ。」
古木を削ったソレは物理的な重さでいえば全く重くない、だが”錦の御旗”として民衆の希望の象徴となったソレは祐二にはとても重く感じた。
「はあ、いつまでも引きこもるわけにはいかないか。」
このままでは武岡などの友人も戦争に再び巻き込まれてしまうし、ミラやアシュリー、ニスアにも被害が及んでしまう。
どのみち自分には引きこもるという選択肢は無いのだ。祐二は両手で頬を強めに叩くと部屋を出ると皆が居間に集まっていた。どうやら自分を心配して待っていたらしい。
「ユージ、、、」
「ごめん皆、心配かけた。」
「本当ですよ、もぅ。」
涙ぐむニスアに軽く謝罪し、祐二は皆に自分の考えを伝える。
「皆に聞いてほしい事がある。このままじゃ魔族との戦争が再び始まる、俺はそれを防ぎたい。だから皆の力を貸してほしんだ。」
「それは構わないが、戦争を防ぐ?どうやって?」
ソニアの疑問も尤もだ。そこで祐二は覚悟を決めて言葉を発する。
「勇者税を全額盗み出す。」




