6話:クラスメイトとの再会
今回の話で少し物語が動き出します。”ぜんぜん成敗しないじゃん”と思っている方あともう少し(具体的には6~8話ほど)お待ちください
グレーリア大陸は、7つの国に分かれおり、”英知の神トラル”を信仰する聖教会の本殿があるセイン王国を中心に他六つの国をそれぞれの王が政治を行い、配下の貴族が領主として領地を治める。というのがグレーリア大陸での政治、経済の進め方だと町へ向かう馬車の中で、祐二はニスアから教えてもらっている。
「ちなみに、正教会のトップの法王も政治に参加しますが、その発言力は他七つの国の王とは比べ物にならないそうです。」
「宗教は、どの世界でも強大な力を持ってるんすねー」
「そして、これから向かう町がセイン王国の貴族が統治している”観光都市エアフ”です!」
興奮気味にこれから向かう町の観光名所や名店の紹介を行っていくニスア、彼女も今回の町への納品を楽しみにしていたのだろう。予定としては二日ほど掛けて集落から町へ向かい納品後、町へ一泊し集落へ戻る予定だ。そのため余った時間は観光に充てられる。
「観光地だから、宿や土産物屋が多くてね。集落の野菜や織物はよく贔屓にしてもらってるんだ。」
ニスアと同じく嬉しそうに語るアシュリー、尤も彼女の場合は集落の品を認めてもらっている事が嬉しいらしいが。
馬車に乗って今日で二日、道中獣や魔物に襲われることがあったが、祐二やバン、エミルの兄であるギークのおかげで無事追い払うことができた。そして間もなく目的地へ到着する。
「俺は、町に着いたら雑貨屋に行って”竹”が入荷してねえか、確認したいな」
「”竹”?、何につかうんすか?」
「ランセ大陸にある植物でな、軽くて丈夫な割によくしなる。弓を作るにはうってつけなんだよ。」
「そう言われると俺もちょっと欲しくなってきますね。」
バンと狩猟につかう弓の素材について語り合う。祐二もすっかり狩人として染まっているようだ。また彼には狩人として働き始めてから一つの目的があった。その目的を達成させるためのヒントが町にあるのではないかと彼は期待していた。
「あっ、町の門が見えてきましたよー」
馬車から身を乗り出したニスアが叫ぶ。祐二も馬車から顔を出すとスキル”遠見”を発動させる。普通の人の視力では町の外壁ぐらいしか見えないが、スキルで強化された視力は町の門とそこに立っている門番二人の顔も捉えていた。
ニスアの声を聴き各々準備を始める。アシュリーはローブを深く被ると同じようにニスアにもローブを被せる。祐二が理由を確認したところナンパ避けらしい、確かに二人とも絶世の美女という表現がよく似合う容姿だ。観光都市である以上、チャラついた観光客も来るだろう。そんな奴らに絡まれないためにも容姿を隠すローブは必需品なのだそうだ。そうこうしているうちに馬車が町の門に到着する。
「さぁ、祐二さん町に着きましたよ!色々と見て回りましょう!」
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”観光都市エアフ”セイン王国にほど近い東部にある都市であり、過去数多くの芸術家が存在し、彼らが残した芸術品が今も残っておりそれを一目見ようと毎年多くの観光客が訪れる。また山間部に近い位置に存在し、山頂からみる絶景目当ての登山家も多い。そして多くの観光客を受け入れるため領主も尽力し、充実した宿泊施設の増加や味やインパクトに重点を置いた料理店、治安の悪かった歓楽街を管理するなどを行うことで一大都市となったのだ。
「本当に賑わってるな~、というか道が混みすぎてマトモに町を歩けなかったんすけど、普段もこんなに人が多いんすか?」
「う~ん、祭りの時期とかだと此のくらいだけど今日は違うし、かといって雰囲気からいって事件が起こった訳じゃないみたい。」
町に着いた祐二達は、商品を卸すと早速町の観光を行おうとしたのだが一つ問題が発生した。あまりにも人が多すぎたのだ。その為前を歩こうにも碌に進めず、仲間たちと逸れてしまう始末である。こんな状況では観光を楽しめないと祐二たちは、現在宿泊している宿の食堂で休憩を取っている。
「祐二さん達とのんびり観光を楽しみたかったのに、いきなり計画がオジャンでがっかりです。」
「まあまあニスアちゃん、そんな膨れっ面しないで、今バンさんが宿の人に事情を聞いてるから。」
楽しい観光を潰されたことに文句を言うニスアをアシュリーが宥めていると、宿の人から町が賑わっている理由を聞いてきたバンが戻ってくる。
「宿の主人から事情を確認したが、町が賑わっている理由は”勇者”がこの町に来ているからだそうだ。」
「”勇者”って何?バンさん」
「魔族との戦争が続いてるだろ、その解決策として三大陸で同盟を結んで、大陸ごとに異世界から強力な力を持つ者を召喚して救って貰おうって計画があったらしい。で、無事召喚の儀式も成功して召喚した者たちを”勇者”と呼んでいるそうだ。」
「その勇者が今この町に?でも此処って戦争地帯から、かなり離れてるよね?」
「いや、勇者たちはまだ戦争地域に送らず、まずは訓練や各国の王や貴族と顔合わせをしているらしい。それでこの後勇者たちを紹介するパレードを行うってよ。」
アシュリーの質問に答えるバン、一方で祐二やニスアは顔を青くしていた。十中八九召喚された勇者というのは祐二のクラスメイトだ。もし彼らと出会ってしまったら事情を話さなければいけないだろう。
そして祐二の事情(ショボいスキルしかなく集落でのんびりと暮らしている事)を知られて、馬鹿にされるのはまだ良いが、”それでも一緒に勇者として戦おう”とか言われて戦争に駆り出されたり、”自分たちは戦っているのに高みの見物か”と言われて見損なわれてしまう可能性もあるのだ。正直出会いたくない。
”どうかクラスメイトと町で鉢合わせませんように!”と祐二が必死で祈っていると突如、肩を叩かれる。叩かれた方向に振り向くと頬を指で押される。祐二の知り合いでこんな悪戯をするのは一人しかいない。中学で知り合い、なぜかやたらと自分にちょっかいを掛けてくる女子。つまりクラスメイトだ。祐二は自分の祈りが神に届かなかったことに絶望した。まぁ祐二の左隣りにいるのだが。
「やっぱり、大和だ。久しぶり」
「ひ、久しぶり」
祐二のクラスメイトである女子生徒、太田智花は面白い玩具を見つけたような笑みを浮かべながら挨拶をした。
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「それじゃ、大和は勇者として召喚されなかったの?」
「お、応」
太田から事情を聴かれ全てを話し終えた祐二は、今にも真っ白な灰になりそうだ。あの後見知らぬ人と一緒では話しづらいだろうと、ニスア達は離れたテーブルに移動しこちらを見守っている。
「そっちは今は各王国のお偉いさんと顔合わせ中だっけ?」
「うん。戦争中、支援を受けるために顔が広いほうが良いって言われて、さっき此処の領主さんとも話してきて、この後開催されるパレードの準備をしているところ。」
「それで、どうやって俺を見つけた。」
「町をブラついてたらなんか見覚えのある人がいて、追いかけていったら案の定、大和だったって訳。」
こんなことなら自分もローブを被るべきだったと後悔する祐二、そして気になっている事を太田に質問する。
「一つ質問があるんだが、この大陸で召喚された勇者っていったい誰なんだ?たしか大陸ごとに分けられてるんだよな。」
「そうだよ。事前にトラルとかいう神に聞いたけど大陸ごとに14人ずつ召喚して、実際召喚された日に確認したけど私含めて14人だったよ。」
祐二のクラスは43人、内ニスアに召喚された自分は除いて42人。均等に分けたら大陸ごとに14人に分けられる。どうやら、あぶれた者はいないらしい。
「それで召喚されたメンバーだけど、男子は八人で御剣君たちや田中君、美丘君たちがいる。武岡もいるけど三井はいないよ。女子は六人で、まぁ普通かな。でもちょっとハメを外し気味かも」
祐二の質問の意図を理解した太田の台詞に祐二は頭を抱える。祐二がメンバーを確認したのは厄介な奴らが集まっていないか、集まっていても抑えることができる奴がいるか確認するためだ。そして困ったことに見事に厄介ごとを起こすメンバーが集まっており、抑える人は武岡しかいない。
「武岡だけじゃなく私も目を光らせてるから大きな問題は起こしてないけど、やっぱり御剣達はハメを外しすぎてる。気を付けたほうが良い。少なくともこの町では合わないほうが良い。」
祐二の不安に対してフォローを入れる太田。因みに彼女、心を心を許した相手は呼び捨てにするのだがそれ以外の相手は基本”君”付けである。
その後、祐二と太田がお互いの異世界での生活について話していると宿の扉が乱暴に開く、乱暴に開けたせいで蝶番が壊れてしまった扉から六人の男女が入ってくる。
男連中は一目で高級品だとわかる鎧や剣を身につけてそれらを自慢するように歩いてくる。一方女性たちは、ボロ布といっても良いような服を着ており、清潔感漂う肉体との違和感が激しい。また男連中に怯えながらも彼らの後を着いていく事から、立場は男連中のほうが上のようだ。
男連中の顔を見た祐二と太田が顔を顰める。彼らこそ先ほどまで話していた厄介ごとを起こす奴ら、御剣、海藤、如月の子悪党トリオである。
「あっいたいた。太田さーん。こんなチンケな宿で何やってんの」
「そうだぜ、俺たちは勇者なんだからもっと豪勢なとこじゃないと、つーかそこのお前だれ!」
「まさか、ナンパ?勇者にナンパするとか立場弁えろっての。大丈夫だよ太田さん。こんなやつ僕らが軽くボコボコにすっから。つーわけでお前!早く表出ろ勇者にナンパしたんだから死刑な!」
太田が立ち上がり、御剣達を抑える。最も会いたくない連中に真っ先にあってしまうとは、祐二は己の不運を呪った。
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「はははっ!何だよこの雑魚スキル、こんなスキルでお前戦えんのかよ。あっ、戦えないから引き籠ってんだっけ?」
「武器もこんな粗末なやつでよ。でも負け組のお前にはお似合いかもな。」
「その点、僕たちは勇者でチートスキルや国宝級の武器持ってるけど、世界救うために選ばれた僕たちと負け組の君じゃ元から違うんだよ。僻まないでよ。」
あの後、太田が場を治めようとしたが子悪党トリオは祐二に突っかかってきたので、祐二は改めて自分の正体と事情を説明したのだ。そして案の定彼らは祐二のことを馬鹿にしてきた。
確かに祐二の持つスキルや武器は彼らにとってはチンケなものかもしれないが、祐二にとってはこの世界で生きていく大切な手段だ。馬鹿にされて悔しいはずがない。
それでも抑えているのは、ここが宿の食堂であり他の客もいるためである。ここで祐二が反論すれば間違いなく御剣達は暴れて、宿や客の人達に迷惑が掛かってしまう。それだけは避けたいのだ。そのため会話の内容は聞こえないが、祐二が馬鹿にされて怒っているニスア達にも大人しくしているようジェスチャーで知らせている。
「で、今お前クソつまんねー集落で一人寂しく暮らしてんの?うわっ悲しー!」
「言ってやんなよ御剣、ぼっちは女がいる俺たちとは違って日々苦しみながら生きてんだからよ。な、ぼっちくん。」
祐二の現在の生活(狩人として暮らしている事)から、彼らは祐二が集落で一人で暮らしていると考えて更に祐二を馬鹿にする。御剣達は、彼らと一緒に宿に入ってきた女性たちを乱暴に抱き寄せ厭らしい笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「大和、良いこと教えてやるよ。彼女たちはな、貴族のお嬢様で勇者である俺たちの従者として今働いてんだよ。」
「俺達も最初は断ったけどさー、彼女たちが”どうしてもって”しつこくてさ、仕方なく身の回りをお世話をする使用人として雇ったわけよ。」
「勇者としてモテるのは、仕方ないよねー。モテるの本当に辛い。この辛さ君には一生わからないだろうね。」
そういいながらも厭らしい手つきで女性を撫でる御剣達、女性たちは笑顔だが明らかに引き攣っており無理に従っていることは明白だ。御剣達は気づいていないのか、それとも気づいたうえで高圧的に振舞っているのか、どちらにせよ最低だ。
太田の方に振り向き視線で確認をすると、頷きが返ってくる。恐らく彼女たちは勇者の機嫌を取るために貴族か王に命令されて彼らの下で従者として、夜伽も含めた身の回りの世話をするように言われているのだろう。幸い武岡と太田が目を光らせているなら無理やり純潔を散らされるような事はないだろう。
御剣達が更に自慢話をしようとしたところで、ニスアとアシュリーがテーブルから立ち上がる。そしてローブを下ろし祐二たちのテーブルに近づく。
笑みを浮かべながらこちらに近づく美女二人に御剣達が気づく。彼らは自分達に声が掛けられると思い下卑た笑みを浮かべながら、彼女たちの顔と胸を交互に見る。
祐二と太田が彼女たちに危害が加えられないように身構えるが、御剣達はそんなことお構いなしに近づいてくるニスアとアシュリーに手を伸ばそうとする。しかし、彼女たちは自分たちに伸ばされた手を華麗に避けると御剣達が見えていないかのように振舞いそのまま通り過ぎ、祐二の両手に抱き着く。
「も~、ユージ君いつまでアタシ達を放っておくの?今日は一日デートしてくれる約束でしょ♪」
「そうですよ、祐二さん。こんな人達放っておいて、早く三人でいっぱい楽しいことしましょ♪」
猫なで声を出しながら抱き着く二人、突然の状況に祐二の思考が止まる。そして自分たちが逆ナンされると思っていた御剣達は、手を空中に置いたまま唖然としている。そんな滑稽極まりない姿に周りにいる客たちが思わず吹き出してしまう。よく見ると太田も吹き出している。
笑いものにされた御剣達が顔を真っ赤にし、祐二に突っかかろうとするが制止の声が掛かる。
「お前ら、こんなとこで何やってんだ。」
「たっ、武岡!、お前なんで此処に」
「そりゃ、こっちの台詞だ。ったくあっちこっち探させやがって、他の客に迷惑かけてねえだろうな。」
御剣達の背後に身長180cmの巨漢が現れる。彼こそ祐二と幼稚園からの付き合いで義理人情に篤い不良、武岡だ。武岡は子悪党トリオが町の住人に迷惑を掛けていないか探し回っていたのだろう、肩で息をしている。
そんな彼の様子を怒っていると勘違いした御剣達は途端に大人しくなる。宿を見まわし彼らが迷惑を掛けていないことを確認する武岡、そして祐二の存在に気づくと驚きを露にする。
「大和、テメー何でこんなところにいやがる。召喚された日にはいなかっただろ!」
「それは、色々事情があって説明したいんだけど、」
「あー、確かに今は無理っぽいな」
武岡は周りの空気を察し御剣達が騒ぎを起こそうとしたことに気づく、下手に長居すると子悪党トリオがトラブルを起こしてしまうだろう。
武岡は御剣達に「行くぞ」と声をかけると宿から出ていく。祐二を恨めしそうに睨みながら出で行く御剣達、最後に出ていこうとする太田に武岡への事情の説明を頼んで了承した彼女が宿を出ていく。クラスメイトと再会してようやく一息つける状況になった。
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あの後、ニスアとアシュリーになぜあんな真似をしたのか聞いたところ”祐二が馬鹿にされて頭にきた”という回答が返ってきた。自分の為に怒ってくれたことは嬉しいがあんな危ない真似は二度としないでほしい。
その後祐二もアシュリー達から”勇者と知り合いなのか?”と質問されたが、逃亡中に一回だけお世話になったと答えておいた。
結局あの後、観光もできないし、勇者たちにまた絡まれるかもしれないとすぐ集落へ帰ることにしたのだ。祐二としてもパレードに興味はなかったので反対する理由はない。
「でも、あんな人達に世界の命運を預けちゃって大丈夫なんでしょうか?トラルは何を考えているんでしょう。」
「いや、逆にあんな奴らだから扱いやすいってのもあると思いますよ。」
帰りの馬車で、勇者に対して不安を覚えるニスアにフォローに入れる祐二、実際祐二も不安なのだが戦えない自分ではどうすることもできないのだ。
そうこうしているうちに集落へと近づいてきた。だが集落の門には人だかりができており、なにやら騒がしい
「何あれ、集落でなにか事故でも起こったの?」
「祐二さん、スキルで声を聴きとれますか?」
ニスアからの頼みに応え”遠見”と”聴覚強化”を発動させる。徐々に門の状況が見え、声が聞こえる。
門の前には集落に住む人々だけでなく鎧を着こんだ騎士たちと眼鏡をかけた男性がいる。騎士の方は見覚えがないが、眼鏡の男性の方は見覚えがある。エアフの町を管理している貴族の部下で税金の徴収の際などに何度か顔を合わせている。
都合が悪い時は徴収を待ってくれたりするので集落の人達からも受けが良いのだ。そして騎士が高圧的に、眼鏡の男性が申し訳なさそうに手に持っている紙の内容を読み上げる。
『この度、魔族との戦争に対する切り札として、我々三大陸は同盟を結び各大陸に勇者を召喚した。』
『そして、勇者の活動を支援するための支援金を”勇者税”として民から徴収することが各大陸の王の賛同により可決した。』
『よって、毎月金貨三枚を”勇者税”として納めることが民の義務となる。なお”勇者税”を払えないものには、金貨三枚に値する対価を払うこととする!』
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