表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/89

17話:決闘の申し込み

「どう?此処の料理は中々美味しいのよ。」


「・・・」


 フェイに連れられて、路地裏にある小さな酒場に連れてこられた祐二。カウンター席に座る二人に周りの客がチラチラと視線を向ける。

 フェイには彼女が放つ色気と美貌から情欲の視線が、祐二にはそんな彼女の相手となっている事による嫉妬の視線を、だが祐二はそんな視線よりも彼女の隣に座っている事の方が居心地の悪さを感じていた。


「ねえ、さっきから何も食べてないし、喋ってくれないじゃない?どうしたの?」


「冗談言うなよ。アンタみたいなやつの隣に座って陽気に話せるわけないだろ。」


 隠し持ったナイフを握りしめたまま、フェイと視線を合わせないようにする祐二。一見彼女の美貌に魅了され、照れ臭くなり視線を合わせようしないように見えるが、実際はそんな生易しいものじゃない。


 近衛騎士選抜大会で、いや以前王城に忍び込んだ時から薄々気づいていたフェイの底のしれない力。まるでそれは象に対峙する蟻のような感覚、蟻は象に気付いても象は蟻に気づかず踏みつぶしてしまう。そんな片方にだけ迫る理不尽な死を祐二は感じ取っていた。


「ふうん、私を目の前にして警戒を解かずに何時でも戦えるようにする。やっぱり貴方は他の男とは違うわね。大抵の男はちょっと腕を組んだり、もたれかかったりしたら簡単に鼻の下を伸ばすんだもの。最近会った、ええと、そう!カイドーとかいう勇者もそうだったわね。」


「アンタ!アイツにあったのか!」


「ええ、でもすぐ鼻の下を伸ばして他の男と一緒だったから、適当な路地裏で遊んで終わったわ。それで死んだから、そこら辺に捨てといたの。」


 フェイの言葉に驚くが、彼女を騎士団に突き出すことは出来ない。突き出す前に自分は殺されるかもしれないし、突き出せても騎士団が皆殺しにされるだけだ。

 今はそれよりもミラの怪我を治す方法を聞き出さなくては。


「んで、アンタのスキルでミラを治せるんだよな?わざわざ誘ったって事は何か条件があるんだろ?」


「あら、せっかちね。早い男は女から笑われるわよ?長い時間楽しませるようにしなきゃ。じゃないとあの早漏勇者みたいに変な渾名が付けられるわよ。」


「俺にアンタを楽しませる義理はないし、俺はさっさとアンタの傍から消えたいんだよ。」


 いい加減フェイからは離れたかった。常に自分の心臓を掴まれているような感覚の所為で自分が今生きているのか死んでいるのか分からなくなってくる。


「そう、ならここを出ましょ。」


 そう言ってカウンターにお金を払い、店を出ていくフェイ。途中酔っぱらったガラの悪い客が彼女にちょっかいを掛けようとしていたが、その全ては祐二の鋭い睨みによって退散した。


「あら、あんなに私を怖がっていたのに守ってくれるの?紳士なのね。」


「分かってて言うな。」


 別に祐二はフェイを守った訳じゃない。むしろ逆その逆、彼女にちょっかいを掛けようとしていた客を守っているだけだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 酒場から出て数分後、二人が辿りついたのは路地裏にある大きな広場、周りには誰もおらず、街の喧騒が遠くから聞こえてくる。


「此処はね昔、闘技場として使われていたの。多くの騎士が、狩人が、己の欲望や誇りの為に武器を手に取り、相手の肉を引き裂き、命を奪い合った場所。」


「それで?」


「貴方、戦いは好き?」


 首をコテン、と傾げて問うてくるフェイ。普通の男であれば一瞬で恋に落ちるだろうが、やはり祐二には恐怖しかない。


「好きか嫌いかでいえば嫌いだ。特に理由はないけど争いごとは好きじゃない。避けられる戦いなら避けるに越したことは無いと思う。」


「そう、私は好きよ。大軍を魔法で殲滅するのが好き、率いた大軍を魔法で殲滅させられるのが好き、誇り高き騎士と一対一で正々堂々勝負するのが好き、騎士の体に剣を突きさすのが好き、騎士に体を剣で貫かれるのが好き、拳闘士と拳で殴り合うのが好き、顔を殴るのが好き、顔を殴られるのが好き、軍の最高司令官を暗殺するのが好き、暗殺されるのが好き、知略、謀略を張り巡らして国を滅ぼすのが好き、知略、謀略を張り巡らされて国が滅ぼされるのが好き、兎に角兎に角兎に角兎に角兎に角兎に角兎に角兎に角兎に角兎に角!私は戦うのが好き、それこそ自涜に溺れるよりもずっとね。」


 まるで底の無い井戸のような虚ろの目で自らの性癖を暴露し、自分を見つめるフェイに思わず数歩下がってしまう。

 

「ねえ、貴方は鬼面の男として勇者と戦い勝ち、勇者税を奪ってきたんでしょう?それってつまり勇者より強いんでしょ?いいえ強いに決まっているわ!だって私はこの目で見たんだもの!貴方が選抜大会で勇者ミツルギを圧倒する様を、それだけじゃない!最初の試合の時だってそう!スキルレベルが下げられたのに貴方は平然としていたわ!それってつまり貴方はスキルを封じられたりしても別に戦いに支障はないって事でしょ!そんな強い人を見つけて私はもう我慢できないの!、、、だから、私と戦ってよ?」


 股間の辺りを手で押さえながら、興奮して早口でまくし立てるフェイ。そんな彼女を見て何故フェイが自分に声を掛けてきたのか祐二は理解する。別に彼女は自分の正体をチラつかせて脅し、金を奪おうとか、騎士団に突き出そうとかそんなことを考えていたわけじゃない。ただ単に自分と戦いたいだけ、戦いそのものに価値を見出す戦闘狂、それがフェイという女なのだ。


「それで?アンタと戦って勝ったら、ミラの傷を治してくれるのか?」


「ええ、私に勝てたらね。その代わり私が勝ったらそうね、、、私専属の奴隷になってもらおうかしら?私が椅子に成れと言ったら椅子になって、私が死ねといったら死ぬ、そんな絶対服従の奴隷に。でもそれだと貴方が勝った時と見返りが釣り合わないかしら?だったら貴方が勝ったら、あの女の子の傷跡を治してあげるのと私の処女をあげるわ、もし処女だけで満足できなかったら性処理用の奴隷になってあげてもいいわよ?」


「処女って、、、アンタ海藤と遊んだんだろ?」


「失礼ね。私はそこら辺の男に純潔を捧げられるほど軽い女じゃないわ。あれはあの早漏勇者がちょっと胸元を見せて、耳に息を吹きかけたら勝手に果てて死んだだけよ。」


 唇を尖らせて少し拗ねたような態度を取るフェイ、”マジか、、、アイツそこまで早かったのか”と呆れを通り越して、悲しみすら湧いてくる。せめて本人が渾名の意味を知らないことを祈るばかりだ。


「それでどう?この勝負受ける、受けない?」


「それは。」


 ミラの傷跡を治してあげたいと思う気持ちに嘘偽りはない。だがフェイと戦って勝てるかと聞かれれば分からないとしか言いようがない。選抜大会では明らかに彼女は手加減していて、実際彼女がどの程度の実力を持っているのかは未知数だし、何より今の祐二が持っている武器は量産品の剣とナイフ、数種の薬品しかもってきていない。これで勝てると確信できるはずがない。


「あ、もしかして装備が足りない?だったら大丈夫よ。今取りに行かせてるから。」


 そんな祐二の考えを読み取ったのかフェイが両手を合わせると、上空から一人の女性が背中に大きな籠を背負い降りてくる。


「っ!お前は!」


「む、久し振りだな。我が主、頼まれていたものをお持ちしました。」


 現れたのは以前、狩人組合で祐二を指名してきたアルム。彼女は去り際に自らに主人がいる事を口走っていたが、その主とはフェイの事だったらしい。


「ご苦労アルム、さてこれでどう?わざわざ貴方が今住んでいる廃墟から持ってきたのよ?」


 フェイが籠に掛けられている布を取ると、そこには祐二が狩人として働いている際に使っているクロスボウや鬼面の男として動く際に使っている仮面や籠手、連弩、薬品が入ったベルトなど全ての装備が収まっていた。


 鬼面の男として活動する際、住処などがバレないよう細心の注意を払い、また装備も廃墟の隠し部屋に隠していたはずなのに、それらの全てがフェイとアルムにはお見通しであり、自分に勝負の誘いを断る道が無いことに気付く。


 もし此処で断っても彼女は勝負を仕掛けてくるだろうし、断り続けていたら仲間たちに被害が及ぶかもしれない。ミラの事や自分の正体や住処を知っている連中だ。ギールやレイア、ソニアの事を知っていても不思議ではない。


 もはや逃げ道はない。覚悟を決めた祐二が装備を手に取り体に付けていく。顔には鬼面を、右手には籠手と一体になった連弩を、左手には毒を塗ったナイフが内蔵されている籠手を、腰には薬品が入ったベルトと上下二連式の拳銃を二丁、替えの弾丸と火薬を、背中には狩人として戦っている際に使っている大型のクロスボウを、他にも様々な装備を身に着けていく。生半可な装備ではフェイに勝てない以上、用心するに越したことはない。


「ふふふ、装備を付けたって事は戦ってくれるのよね?」


「・・・ああ、その勝負受けてやるよ。」


 



”面白い!”と感じたら、ブックマーク、感想を頂けると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] うわ……勝ち目のない戦い、に思えるが… 何か策でもあるのだろうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ