16話:近衛騎士
「面を上げよ。」
玉座に座った国王が眼前で跪いている祐二に声を掛ける。この場所は王城の広間で、近衛騎士選抜大会で(不戦勝)ながら優勝した祐二を第二王女であるソニアの近衛騎士に任命するための式典が開かれている。
祐二が準決勝にて御剣に勝利し決勝へ駒を進めた三日後、本来なら決勝戦が開かれるはずだったが海藤が無くなり、そのまま祐二が優勝と成ってしまった。流石に決勝戦が不戦勝というのは味気ないし、勇者の力を見せつけたい国王は、準決勝で海藤に負けた武岡を決勝に進めようとしたが、本人が固辞したため不戦勝となった。
顔をあげた祐二の目に映る国王の表情には勇者への失望の色がありありと浮かんでいる。それもそうだろう、勇者へのご機嫌取りと民衆へ勇者の力を改めて知らしめるための選抜大会だったのに、如月は路地裏で全治三週間の怪我を負い大会に参加できず、御剣は準決勝でショボいスキルしかない祐二に手も足も出ず、海藤に至っては腹上死という何とも言えない死因で無くなったのだ。結果として勇者の力を民衆に見せびらかす事は出来なくなった。
因みに海藤の死については表向きは隠されており、時機を見て魔物の討伐の途中で騎士を庇い亡くなったという事にするらしい。
まあ、馬鹿正直に下半身丸出しで腹上死で死にましたと言ったら、勇者の威厳は地に落ちる為仕方ないだろう。
国王の隣に立っていたソニアが儀礼用の剣を抜き、祐二の傍に寄り彼の肩に剣を置く。
「狩人、ユージ、この日をもって貴方を私の近衛騎士として任命します。例えいついかなる時でも私の傍を離れず、私の盾として、剣として、騎士として戦いなさい。」
「御意。」
普段の彼女からは全く想像できないしおらしい態度で祐二を近衛騎士に任命するソニア。思わず吹き出してしまいそうになるが、必死に我慢する。
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「近衛騎士って辞退出来ない?」
「いきなりそれか!!」
任命式も終わり、控室に集まった祐二、ソニア、ギール、グリード、レイア、先程任命したばかりだというのにいきなり辞退を求める祐二にソニアの目が点になる。
「嫌だって、近衛騎士になったら常に王女さんの傍に居なきゃいけないんだろ?そうなったら動きづらいぞ。確かに王城には忍び込みやすくはなるけど、その分勇者と触れ合う機会も多いし、正体がバレるリスクも増えるんじゃねえか?顔を覚えられたら逃げ場もなくなるし」
「まあ、それは否定できんな。」
祐二の指摘にギールも納得する。確かに彼の言う通り近衛騎士は王城に忍び込むには理想(というより役職上王城に住む)だが、逃げるには逆に不利となる。
「なあ、グリード。代わりにお前がなってくれよ。ほら、ご先祖に顔向けできる偉業を成すって言ってたじゃんか。近衛騎士とかいいんじゃね?」
「うむ、確かにそうだが、、ソニア王女様の近衛騎士か、、、遠慮する。」
「まあ、それは仕方ないか。」
「お前ら、本人を前に何だその態度は!!泣くぞ!本気で泣くぞ!!」
近衛騎士という役職を押し付け合う祐二とグリード、それに納得するギールという、余りに失礼な男共に涙目でソニアが剣を抜こうとする。
「一体何が不満なのだ!確かに胸は姉上よりは小さいが、十分大きいし、他国から見合いが何度も申し込まれているくらいには容姿には自信があるぞ!!」
必死に己をアピールするソニアだが、彼らは度数の高い酒をラッパ飲みし、訓練中に吐き、鼻からパスタを出す彼女を見ているのだ。正直女性として意識できるかどうかと言われれば、答えは否だ。
「なあ、やっぱり辞退ってできない?」
「まあ、国王には相談してみよう。」
「ふぐ、ぐう、ぐぬ~~~~~。」
とうとう口を膨らませ、泣き出したソニアだが男共は失礼な会話を辞めなかった。
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「取り敢えずこれで、王様の企みは妨害で来たんだよな?」
流石に近衛騎士に任命された当日に王城に住めるわけが無いので、祐二は任命式が終わった後ギールから借りている王都の外れにある廃墟へと向かっていた。
任命式には結構時間が掛かり、既に太陽は沈みかけていて、人も大分少なくなってきている。
(でも、本命の方は全然進んでないんだよな。)
確かに今回は国王の企みを妨害できたが、祐二達の目的は”勇者税”の廃止、最近は近衛騎士選抜大会に罹りきりで、こちらの方は全然動き出していない。そろそろ動かなくては。
祐二がそんな風に考えていると、後ろから彼に声を掛けてくる女性がいた。
「あら、近衛騎士の任命式はもう終わったのかしら?狩人さん?」
「アンタは、、、」
そこにいたのは、選抜大会で彼を圧倒できる程の力を持ちながら、何故か棄権した対戦相手のフェイだった。彼女はサイズの小さい服に身を包んでおり、どこか窮屈そうだ。
近づいてくるフェイに対して、祐二は二歩ほど距離を取る。
「あら、どうして距離を取るのかしら?」
「女性が苦手なので。」
嘘である、確かに女性の扱いには成れていないが、かと言って近づくことも出来ない程ではない。ただ純粋に彼女を警戒しているだけである。
その後も距離を取りながら、廃墟に帰ろうとするのだが何故かフェイは祐二の後を着いてくる。
「それで、近衛騎士になった感想はどうかしら?」
「別に、頼まれて出場しただけで、成りたかったわけじゃないから。」
「あら、つれない人ね。」
彼女から持ち掛けてくる会話を何の感情もなく、返事をする祐二、今彼は唯ひたすら、この得体のしれない人物から早く離れたい一心だった。
「ねえ、貴方が近衛騎士になったお祝いに一杯奢らせて頂戴。」
「っ!!」
突如祐二の左腕に抱き着くフェイ、普通の男だったら鼻の下を伸ばすだろうが、彼女の強さを知っている祐二は自分の心臓を握られたような感覚に陥る。
「いや!急いでるから!帰らせてもらう!」
「え~、そんな釣れないことを言わずにさ。一杯だけ。」
「断る!」
「お願いだから付き合ってよ。鬼面の男さん。」
「っ!!」
フェイが言った台詞に驚きながらも、慌てて彼女の腕を振りほどき距離を取る。彼女からは見えないが服の袖に隠しているナイフを構え、いつでも戦える姿勢を取る。
「あら、そこはすっとぼけなきゃだめよ。そんな反応したら自分から正体を明かしてるようなものだから。」
「何故知っている!」
「そんなの決まってるじゃない、以前あったからよ、王城でね。ほら貴方を助けてあげたじゃない。」
フェイの言った言葉で思い出す、最初に鬼面の男として王城に忍び込んだ際、万事休すの時に一人のメイドに助けられたことを、その時のメイドこそフェイだったのだ。
「それで、何のつもりで近づいた?」
「だから言ってるじゃない、唯のお祝いよ。別に貴方の正体をばらそうなんて考えてないわ。」
「ああ、そう!」
勢いよく返事をするとともに踵を返し、全速力でフェイから逃げる。彼女の目的は分からないが、下手に近づいて藪蛇になるわけにはいかないと判断したからだ。
「彼女!可哀そうよね!顔にあんな大怪我負っちゃって!可愛い顔だったのに!」
だが、フェイが大声で言った言葉に足が止まる。
「確かミラって言ったかしら?勇者に襲われて大怪我を負って、彼女を助けたいと思わない?彼女の怪我を治して笑顔でいて欲しくないのかしら?」
「アンタならミラの怪我を治せるのか?」
祐二がそう言うと、フェイは何処からか薬品が入った瓶を取り出すと、躊躇いなくその薬品を顔に掛ける。薬品を掛けられた顔の皮膚はジュウジュウと煙を出しながら、焼けていく。
「なっ!おいっ!」
まさかの彼女の行動にフェイへの不信感も忘れて彼女に近づくが。
「ふふふ、どう?」
祐二が近づくころには、先程まで溶けて焼けただれていた皮膚は元通りになっており、傷跡一つ見当たらなかった。
「これは私の所持しているスキルだけど、これがあればミラって女の子の傷も治せるわよ。それでどうするのかしら?自分の命を優先して彼女を諦めるか?それとも彼女の笑顔の為に私の誘いに乗るか?好きな方を選ぶといいわ。」
「だったら、アンタの誘いに乗るよ。」
迷いなくフェイの誘いに乗る祐二に、思わずフェイは目を見開く。彼女には祐二が自分の誘いに乗るだろうことは予想していたが、まさかここまで躊躇いが無いとは思わなかった。
「ふふふ、そこまで貴方に思ってもらえるなんて、あのミラって子が羨ましいわ。」
「ほざいてろ。」
「釣れない態度ね、あの早漏勇者とは大違い。」
祐二の手を取り、裏路地へと進んでいくフェイ、そんな彼女の悪魔のような笑みに祐二は恐怖を隠すことは出来なかった。
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