15話:神速の勇者死す!!
「もうイチャつかなくていいのか?」
「「イチャついてない!!」」
ミラが泣き崩れ、祐二が彼女を抱いて慰めていた途中、救護室に入ってきたギール、グリード、第一、第二王女に揶揄われる。
彼らには自分とミラがイチャついていたように見えたらしいが、決してそんなことは無い。自分は唯彼女を慰めていただけだ、と抗議をする祐二だが、実はミラを抱きしめた際、彼女の胸の感触に心奪われたことは黙っていた。
「まあいい、イチャつくなら家に帰ってからにしろ。」
「いや、だから、」
「そんな事より、無事に決勝に進出できたな。」
まだ勘違いをしているギールに抗議をしようとするが、真面目な表情で祐二の決勝進出について話すギールに下手に返せなくなる。
「つい先ほど別ブロックでの準決勝も終わった。こちらは勇者タケオカと勇者カイドウでの勇者同士の戦いとなった。」
「結果は?」
「試合開始から1時間経過後、勇者カイドウの”詠唱破棄”によって放たれた雷が勇者タケオカに落ちて気絶、試合は勇者カイドウの勝ちとなり決勝進出だ。」
「よりにもよってそっちか。」
ギールの報告に頭を抱えてしまう。選抜大会は別に殺し合いではなく、相手を場外に吹っ飛ばすか戦闘不能にすれば良い、その為カウンター狙いでない限り先手を取った方が有利になる。
そして武器が弓しかない祐二では遠距離から一瞬で魔法を放てる海藤相手では明らかに不利だ。因みにグリードは三回戦で武岡に負けていた。
「あ~、嫌だ。あんな奴が近衛騎士など、うえ~、吐き気がする~。頼むユージ殿毒でも何でも使っていいから絶対勝ってくれ~。」
「まあ、下着泥棒を傍に置きたくはないよな。」
海藤が近衛騎士になる可能性が現実味を帯びてきたことにソニアが吐き気を押さえるように口元に手を当てる。
「いや、確かに下着泥棒はされたが幸いカイドウが盗んだのは、私の乳母を務めてくれていたトメ(御年50歳)の物だったから実害はないのだが。まあ本人は知らないが。」
「マジか、、、」
王女の寝室に忍び込み、下着を盗むというバレたら処刑一直線の事をしながらも盗んだのは全く別人のおばさんの下着だったとは、もしそれを海藤本人が知ったら、ショック死するのではないのだろうか?
「っとそんな事より、カイドウに勝つための作戦を考えねば!ユージ殿、ギール!何か良い作戦はないか?」
「そんなこと言われても、海藤は魔法がメインだから武器に油を塗っても意味はないし。」
「だったらいっそ、本当に暗殺でもする?下着泥棒とか強姦未遂とか?あんな女の敵、生きてる価値ないよ。」
やはりミラは海藤を嫌っているようだ。確かに舞踏会では邪な視線を向けられ、鬼面の女としては危うく強姦されるとこだったのだ。嫌ってもしょうがないだろう。
「今すぐは良い案は浮かばないが、決勝は三日後だ。それまでに各自で作戦を考えるとしよう。」
そろそろ救護室にも別の参加者などが運ばれてきた為、これ以上話を聞かれるわけにもいかず、本日は解散となった。
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「流石カイドウ様、決勝進出おめでとうございます!!」
「”神速の勇者”の名は伊達ではないという事ですね!!」
「そんな褒めんじゃねえよ。」
選抜大会にて準決勝が終わった日の夜、海藤が繁華街へ向かう道を歩く中、彼に仕えている騎士達が海藤のご機嫌取りをする。あからさますぎるのだが、それが逆に心地よい。
「うし、それじゃ俺は娼館で遊んでくるから、お前らは帰っていいぞ。」
海藤から解散の指示があり、騎士達も漸くご機嫌取りをする必要が無くなり、それぞれ帰路へと着く中、海藤は一人煌びやかな娼館へと歩いていく。
そんな彼に物陰から一人の女が声を掛ける。
「ねえ、そこのお兄さん。良かったら私と遊ばない?」
「ああ!悪いけど、俺はお前みたいな、路上の女とは、、、、」
これから行きつけの高級娼館に向おうとする自分を引き留めた女に海藤は苛立たし気な視線を向けるが、女の姿を見た瞬間硬直する。
艶やかな長い黒髪、雪のように白い肌、艶めかしく輝く唇に男の理性を崩す流し目、服装はわざとサイズの小さい服を着ているのか、少し動くだけではじけ飛び、その大きな胸が露になりそうだ。
「ねえ、お願い。私体が疼いちゃってもう耐えられないの。もし貴方に断られたら、そこら辺の浮浪者に声を掛けるしかないの。人助けだと思って、、、ね?」
自分に肩を寄せてくる女からは花の蜜のような甘い香りがし、更に興奮を掻き立てる。よく見ると海藤の服の股間の辺りが膨らんでいる。
「しょ、しょうがねえな。流石の俺も困っている人は見過ごせないぜ。」
女の肩を抱き、路地裏へと連れ込んでいく海藤、このとき彼は女性がまるで悪魔のような笑みを浮かべていたことに気付いていなかった。
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「あ、おはようミラ。」
「う、うんおはよう。」
準決勝を終えた翌日、朝からミラの家を訪ねた祐二にフードで顔を隠したミラが気まずそうに出迎える。ニスアやアシュリーと一緒に朝食を取るが、ミラはフードを被ったままで顔を決して祐二に見せようとはしない。
ミラとしては祐二は自分の過去の全てを知っても嫌わないでいてくれたことは嬉しい、だがそれと火傷を負った自分の顔を見られるのは別問題だ。誰だって好きな人には綺麗な自分を見てもらいたい、だから決して顔を祐二には見せるわけにはいかないのだ。
医者が言うには傷は通常の薬品による治療では一生傷跡が残るらしい、治る可能性としては”再生”といった上位の治療系のスキルを取得するしかないらしいが、そんな高価なスキルオーブを手に入れる資金などあるわけがない。
その後朝食を終えて、後片付けをしていると玄関のドアが蹴破られるよう激しく開き、呼吸が乱れたギールとグリードが入ってくる。
「おわっ!どうしたんだよ二人共?」
「早急にお前に伝えなくてはいけない事件が起こってな、グリードと一緒にお前を探していたんだ。」
「まずは、水をくれないか?」
落ち着きを取り戻す為、二人を椅子に座らせコップに入れた水を渡す。二人は一気にそれを飲み干し、呼吸を落ち着かせると意を決して話す。
「良いかユージ、落ち着いて聞け。」
「お、応。」
「勇者カイドウが死んだ。」
ギールが放った言葉に祐二だけでなく、ミラ、ニスア、アシュリー、クレアも意味が理解できず動きを止める。
「今朝、歓楽街の近くの路地で勇者カイドウが倒れている所が発見されて、近場で見回りをしていた騎士が意識が無いか確認した所、死亡していたらしい。」
「って、ちょっと待てよ!!アイツが死んだって?どうして?事故なのか?それとも殺されたのか!!」
「それが、その、死因がだな、、、」
何故か言いよどむギールとグリード。
「何だよ?そんなにマズイ死に方だったのか?」
「勇者、カイドウの死因なのだが、、、、、腹上死だ。」
「「「「「・・・・・・・はぁ?」」」」」
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腹上死とは、、、、此処では詳しくは書けないが、簡単に言えば頑張りすぎて死ぬことで事である。
あの後、ギールとグリードは付近の聞き込みをする為、再度歓楽街の方へ向かった。また海藤の死は一般には伏せられているらしく、近衛騎士選抜大会がどうなるかはこれから決めていくらしい。
その後、何とも言えない空気の中、正午までミラの家でのんびり過ごしていると聞き込みを終えたらしいギールとグリードが戻ってきた。成果はあったのだろうか?
「で、どうだった?」
「そうだな、付近の娼館で勇者カイドウについて色々と聞き込みをしたんだが。」
羊皮紙をペラペラと捲るギール。
「まず、、”速い”。」
「ぶっ!」
いきなりとんでもないことから始まってしまった。
「次に、、、”短い”。」
「ブフっ!!」
その後もどんどん海藤の恥ずかしい秘密が暴露されていく。
『30分コースが3分で終わる』
『短くて奥まで入らない。』
『というより本番前に終わる。』
『一発で終わり。』
『少し服をはだけさせただけで終わる』
「それで娼婦から付けられた渾名が”神速の勇者”だそうだ。」
「ブブハっ!」
駄目だ、もう笑いを我慢することは出来ない、よく見たらミラ達も口元を押さえて笑っている顔を見られないようにしている。
「勇者ってアッチは勇者じゃなかったんですね。」
ニスアがかなりひどいことを言っている。
「逆にユージはアッチが勇者だよね。」
「そ、そうなんですか!!」
ミラが祐二のサイズについて言及し、ニスアがもの凄い食い気味になっている。
「それで、海藤は本当に腹上死だったのか?」
「ああ、遺体に目立った外傷はなかったし、発見した騎士によれば下半身を露出した状態で見つかったらしい、間違いないだろう。」
「それで王国はどうすんの?市民への箝口令とか選抜大会とか?」
股間の辺りに女性陣の視線を感じながら、祐二は今後の事について尋ねる。ただでさえ勇者の評判が悪い中、その一人が腹上死したなんて国民に知られたら、確実に呆れられてしまう。国王としては何としても隠したいだろう。だがその場合、選抜大会で海藤が出ないことを不審に思われてしまう。難しい問題だ。
「取り敢えず、カイドウが死亡したことは明かさず選抜大会で決勝に進んだが大怪我を負い、療養中という事にするらしい、選抜大会の方は不戦勝でお前の優勝だな。」
とても嬉しくない勝ち方ではあるが、勝ちは勝ちだ。取り敢えずこれで国王の目論見は潰せたという事で良しとしよう。
あと気になる事といえば、
「アッチは勇者、アッチは勇者、アッチは勇者、、、ゴクリッ!」
ニスアがやたらと自分の股間に視線を向けてくることか。
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