13話:努力の差
「おい、大和。何怒ってんだテメーは。」
「痛てっ」
選抜大会で次の対戦相手を倒し、いよいよ明日に開催される選抜大会で御剣と戦う事となった祐二、明日に備えて早く廃墟に戻り準備をしようとしていた彼の後頭部を誰かが叩く。
一体誰だ?と思いながら振り返るとそこには、祐二とは別ブロックで大会を勝ち進んでいた武岡が心配そうな顔で彼を見つめている。
「いきなり何すんだよ、武岡?」
苛立ちを隠そうともしない祐二の態度に、武岡は溜息を吐く。
「いきなり何すんだか?じゃあ逆に聞くがお前は何をそんなに怒ってんだ?」
「別に怒ってなんか、、、」
「鏡見てみろ。今にも人を殺しそうな顔をしてるぞ。」
武岡の指摘に慌てて顔を手で覆う祐二。
「俺は心配だぜ、お前がその顔をするときはスゲー怒ってる時だからな。お前の姉ちゃんを騙した男やカツアゲしてた時の御剣達に殴りかかった時と同じ顔をしてるぞ。何があった?」
「別に、、、」
武岡を無視して、帰路へ着く祐二に武岡は声を掛けようとするが彼が振り向くことは無かった。
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近衛騎士選抜大会六日目、いよいよ参加者も絞られ、見ごたえのある試合も増えてきたことで大会の熱気も最高潮となっている。
「持ってきてくれたか?」
「うん、はいこれ、御剣君のスキル。それとごめん何とか御剣君のスキルを封印しようとしたんだけど。あのダストとかいう人に邪魔をされてできなかった。」
そんな熱気とは対照的に冷たい雰囲気を纏っている祐二は、太田智花から御剣が所持しているスキルの詳細が描かれた羊皮紙を受け取り、彼との試合の対策を考える。
羊皮紙に書かれているスキルは五つ。
・極上剣術Lv1:ウルトラレアスキル、最高峰の剣術を扱うことができる。極めた者は大地を裂き、空間をも切り裂くと言われる。
・斬撃硬化LV1:ウルトラレアスキル、斬撃を硬化し放つことができる。剣士の弱点である遠距離への攻撃を可能とし、一方的に敵に攻撃を加えることができる。
・斬撃倍加Lv1:ウルトラレアスキル、放った斬撃の回数を増やすことができる。増やせる倍率はスキルレベルに比例する。
・毒無効Lv5:スーパーレアスキル、ありとあらゆる毒を無効化できる。レベルが高ければ高い程無効化までの時間は早くなる。
・怪力Lv3;スーパーレアスキル、スキル使用者に身体能力以上の怪力を付与する。付与される筋力はスキルレベルに比例する。
以前戦った時よりスキルが増えているが、きっとスキルオーブなどで後天的に得た力だろう。
「それとニスアさんが勇者の弁当に下剤を仕込んだり、武器に細工をしようとしたんだけど、それもダストっていう人が邪魔してできなかったって。」
「そうか。」
恐らくダストという人間は本来祐二達と同じように、裏工作をする側の人間なのだろう。それ故祐二達が何かを仕掛けてくると気づき、妨害をしてきたのだ。
「別に構わないさ、元々不利な戦いだしな。」
「それで、ええっと、一応大和に聞きたいんだけど、、、御剣君を殺したりしないよね?」
「?何だよ急に?」
「嫌だって、さっきから人を殺しそうな顔をしてるし。」
武岡にも言われたが、そんなに怖い顔をしているのだろうか?
「大丈夫だよ。流石に勇者を殺しはしないよ。」
祐二は勇者税廃止に動いているが、別に勇者が必要ないとは考えていない。いつかまた魔族との戦争が始まったら勇者の力は必要となるだろう。だから御剣達を殺すわけがないのだ。
「そう、、、」
だが、会場へ向かう祐二を見つめる智花の目には不安の色が浮かんでいた。
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祐二が試合会場に現れるとそこには誰もいない。”まさか遅刻したのか?”と祐二が考えていると派手なファンファーレが鳴り響き、炎の柱が入り口の左右から発生し、御剣が現れる。
まるでプロレスの有名な選手の入場のパフォーマンスだ。
「よー、大和。まさかお前が準決勝まで来るなんてな。一体どんな卑怯な手を使ったんだ?」
「・・・」
一応勇者に毒は盛ったので、御剣の言葉を否定できない祐二だが代わりにある質問をする。
「なあ、御剣。この間、選抜大会の観戦に来ていた観客の一人が参加者に暴行を加えられたっていう事件があったんだが、あれお前か?」
「暴行?ああ!あの尻軽女の事か!そうだよ、俺がやったぜ!顔と腹を殴って、顔に劇薬を掛けてやったんだよ!!」
楽しそうに語る御剣に祐二の目が細くなる。
「何でそんなことをした?」
「何で?そんなの決まってんだろ!!!全部あの女に出会ってからだ!!変な仮面を付けた奴には金を奪われるし!!領主は追加の勇者税を断りやがるし!!エアフの街の奴らはツケを払えとか言って皿洗いさせやがるし!!ツケを払うために盗賊の真似事をしてたら、捕まっちまうしよお!!!なのにあの女だけのほほんと生きてるなんて許せるわけねえだろ!!!」
聞けば聞くほど自業自得だが、御剣はそれに気づかず全てのミラに擦り付ける。ハッキリ言って最低の所業だが、御剣にとっては正論なのだろう。
「そうか、分かった。もういい、さっさと始めよう。」
「何言ってんだ?お前みたいな雑魚が俺に勝てるわけねえだろう!!」
「やってみなくちゃ、わかんないぜ。」
互いが武器を構えると審判が試合開始の合図を出し、二人は剣を構え一歩踏み出す。片方は王国から支給された最高級の剣と最高の剣術のスキルを持つ者、もう片方は数打ちの量産品の剣でしかも剣に関するスキルを一切持たない者、圧倒的に祐二が不利な状況で試合は始まった。
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「ミラさん、大丈夫ですか?」
「うん、平気。」
「苦しかったら直ぐに言ってね。」
遂に始まった祐二と御剣の試合、それをニスアとアシュリーに挟まれながら顔を隠すようにフードを深く被ったミラが観客席から心配そうに祐二を眺めている。
(ユージ、もしかして怒って無茶とかしないかな?)
ミラが怪我を負ったあの日以来、ミラはユージを避けていたのだがニスアや智花から「祐二が人殺しのような目をしている」と聞いてから、もしかして彼が自分の事で勇者に怒っているのではないか?と心配していた。
(僕はそんな価値の女じゃないんだよ。お願いだから無茶はしないで。)
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(成程、確かに強いなこりゃ。)
試合が始まって、何度も打ち付けられる剣や御剣が飛ばす斬撃を避けながら、祐二は冷静に御剣の戦い方を分析していたが、以前鬼面を被って戦った時と全く成長していないことがわかり呆れてしまう。
確かに御剣の剣術の腕前はスキルの恩恵もあり、素晴らしい。増える斬撃も飛ばす斬撃も脅威だ。それこそ初めて対峙した時は不意打ちに徹したほどだ。
だが、ギールに鍛えられあらゆる武器の扱いを叩きこまれ、あらゆる武器の使い手との戦い方を教え込まれた今の祐二からみたら御剣の戦い方は。
「ハア、ハア、どうだよ!さっきから避けてばっかで碌に反撃も出来てないじゃねえか!!痛い目を見る前に降参したほうが良いんじゃねえか?」
(基本が全くできていない!)
息が上がり、呼吸を整えようとする隙をついて切り込む祐二に御剣が慌てて剣で受け止めるが、押し込まれてしまう。
(剣の握りが甘いし、軸もぶれている!攻撃もフェイントを入れず、視線で丸わかりだ!何より、、、)
押し返そうと怪力のスキルを使用した御剣に、祐二は剣を引っ込め代わりに足で御剣の腹を蹴り、距離を取る。
蹴られた痛みで腹を押さえる御剣、剣を振り回した疲れと腹の痛みで胃の中の物を吐き出しそうになるのを堪えているらしい。
(剣を振る為の体作りが全然できてない!!)
祐二の分析通り、御剣は基本が全くできていない。今までスキルに頼りきりで何とかなり、周りの騎士も御剣を持ち上げるばかりで彼が基本が全くできていないことを指摘しなかったため、それに気付けなかったし、努力もしなかった。なんせマトモに素振りもしたことが無いのだ。
確かにスキルは得た者に恩恵を与える。それこそ今まで剣を振るったことがない者を一流の剣士にするほどの剣術を与えられる、だがそれだけだ、スキルは決して剣の握り方やフェイントを混じえた戦い方を教えてくれないし、剣を振る為の頑強な肉体を与えてもくれない。そこは本人の努力でカバーするしかないのだ。
しかし、御剣はその努力をしていなかった。それこそギールが言っていた強力なスキルを所持しているが故の弊害のように。
確かに魔物相手なら問題はなかっただろう。だが、知恵を駆使する人間相手ではそれは弱点となる。
スキルに頼りきりで努力をしてこなかった御剣と、自ら努力し、己の戦い方を鍛え上げた祐二ではどちらが勝つかなど明白であった。
「んじゃ、今度はこっちからいかせてもらうぞ。」
「ハア、ハア、待ってくれ、、ゼイ、ゼイ、息が整うまで待って、、、」
「待つわけねえだろ!!!」
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