12話:怒る者
「ミラッ!」
ニスアに呼ばれ、急いで選抜大会の負傷者を治療する救護施設へ向かった祐二、救護施設の一角、その天幕を捲るとベッドの上で上半身を起こしているミラと彼女の手を握っているアシュリー、二人から少し離れたところでミラを見守っているギール、グリードがいた。
「ユージ君、、、」
「ユージ、、、」
祐二に気付き振り向くミラとアシュリー、しかしミラの顔の右半分には何故か顔を覆うようにガーゼが巻かれており、彼女が怪我をしている事を示していた。
「ミラ、その怪我、、」
「見ないで!!」
シーツを被り、自分の顔を祐二に見られないようにするミラ。そんな彼女に周りの者達もどう接すれば良いのか困惑する。
「一体、何があったんです。」
「・・・ユージ、少し付き合え。」
ニスアからミラが怪我を負ったと聞いて慌てて彼女の元へ向かった祐二、だがミラは選抜大会には参加していないのだから、怪我を負うはずがない。それに周りの状況もおかしい、何故か皆怒りを露にしていたのだ。
状況が呑み込めない祐二に、ギールが彼を救護室の外へと連れ出す。
「すまんな、彼女が居る場所で経緯を話したら、思い出させてしまうと思ってな。」
「一体何があったんだよ。」
「まず最初に結論を言う。ミラに怪我を負わせたのは勇者だ。」
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グリードと騎士団長の試合?が終わった後、会場では次の試合が始まる前に食事をしたり、トイレに向う者達などおり、ミラも次の祐二の試合が始まるまでに用事を済ませようとしていた。
「僕ちょっとお花摘みに行ってくる。」
「はい、でも急いで戻ってきてくださいよ。」
ニスアとアシュリー、クレアの三人に連絡を入れ、会場に設置されている簡易トイレへと向かうミラ、幸い試合開始ギリギリに時間をずらしたことでトイレの順番待ちの行列は無く、すんなりと用を足すことが出来た。
「あ、ヤバイ、もう始まっちゃう。」
しかしギリギリすぎたのか、トイレから出てきた後すぐに次の試合の開始の合図が会場に響いて、ミラは急いで観客席へ戻ろうとする。
殆どの観客が席に着き、人がいない廊下を走るミラ、そんな彼女の後ろを付いていくフードを被った二人の男がいた。
男達は何かのスキルでも使っているのか、気配を感じさせずミラに近づくと彼女の両手首を掴み、壁に押し付ける。
「ッ痛!!ちょっと何!!」
突如襲ってきた謎の男、男の手を引きはがそうとするが力は強く引きはがせない、すると男達がフードを取る。そこにいたのは予想だにしない人物だった。
「え、、、ミツルギ、ダスト、、、」
「よ~ミラ、久し振りだな~~。」
「まさかお前も此処に来てるなんてな。」
何処か狂ったような笑みを浮かべる御剣とダスト、確かに選抜大会に参加している御剣と勇者の騎士仕えになったダスト、この二人が一緒に居るのは別におかしいことではないが、だとしても何故自分を襲ってきたのか?
「お前と別れてから俺大変だったんだぜ~~、借金地獄で盗賊にまで落ちぶれてよ~~。捕まった後も国王からブチブチ文句言われるし、勇者税は減らされるし、鬼面の男の評判は鰻登りだしよ。」
「俺もだぜ、組織が壊滅して怯えながら騎士から逃げる毎日、なのにお前は第一王女の小間使いになっていい暮らししてよ。」
「それで何?自分達の不幸の原因は僕だって言いたい訳、その憂さ晴らしで僕を襲おうっていうの?」
ベラベラと不幸自慢をしてくる二人にミラは何故彼らが襲ってきたのか察しが付いた。要は全ての原因を彼女に押し付けに来たのだ。
原因は自分達にあるくせに、他人に責任転嫁し責め立てる。とことん自分本位な連中だ。ミラは嘗て自分に言い寄ってきた御剣とダストの態度から、彼らの目的は自分の体なのだと考え、護身用に手首のリストバンドに仕込んだ麻酔針を何時でも打てるようにする。
「ああそうだよ、て言っても文字通り、本当に襲うんだけどな!!」
だが、御剣はミラの言葉を聞くと左手で拳を作り、彼女の顔面を力の限り殴りつける。
「ぶっ!」
「何?まさか犯されるとでも思った?冗談だろ、ダストからお前の過去は全部聞いてるんだよ、今更誰がお前みたいな尻軽女犯すかよ。それよりもよくも騙してくれなあ!!」
「がっ!」
殴られ、地面に倒れたミラに対し、御剣は今度は彼女をの腹部に蹴りを入れる。それだけじゃないダストも加わりミラが反撃しようとする度に妨害をしてきて、男二人掛かりでミラを痛めつける。
「あ~駄目だわ、こんなんじゃ全然怒り収まんないわ。」
地面に横向きに倒れ口から血を流し、所々青痣が出来ているミラを見ながら御剣は次はどうやって彼女を痛めつけようか考えているとダストが懐から、液体が入った瓶を取り出す。
「何だそれ?」
「へっへへ、コイツは俺が組織に居た頃に使っていた薬で、焼水っていうんでさあ、見た目は一見唯の水なんすけど、うっかり体にかかるとその部分の皮膚が焼きただれるっていう劇物でね。命令を聞かない女の顔にかけて見せしめに使ってたんすよ。」
嘗てミラが所属していた犯罪組織では、彼女のように暗殺対象と親しくなる、若しくは娼婦として近づき油断したところを暗殺するという役目を持った女性が数多くいた。
だが、中にはそれに反発する者もいる。当然だ、何が悲しくて好きでもない男に操を許さなければいけないのか、組織の中にはそう言った女性が数割ほどいた。
そんな女性達の制裁に使われていたのが焼水だ、手足を縛った彼女達の顔面に焼水をかけ、顔を焼く、そうして彼女達は美貌を失い、願い通り、好きでもない男にすら抱かれなくなる。こうやって組織は命令に逆らうとどうなるかを周りに見せつけるのだ。
ダストの説明を聞いた御剣が楽しそうに焼水が入った瓶を手に持ち、ふたを開けミラに近づく。
「や、辞めてください、お願いします。」
これから自分の身に起こることを想像し、ミラは必死に懇願する。だが御剣はそんな彼女の様子が面白いのか、薬が後少しでも瓶が傾いたら零れ落ちそうなところまで傾け、彼女をあざ笑う。
「え~~、どうしよっかな、だってミラは男を騙す悪女なんだろ?きっとこのままじゃ沢山の男達が騙されちまうし、悪事を放っておくことは出来ないぜ、俺勇者だし。」
「お、お願いします。」
ミラの懇願に御剣は顎に手を当て、考える動作をする。そして瓶に蓋をし薬を懐に仕舞う。御剣が辞めてくれたと思ったミラは笑顔になるが、それは御剣の罠だった。
「な~んてな!!バ~~カ!!!」
ミラを馬鹿にするような笑みを浮かべた後、御剣は瓶の蓋を開け中身の焼水を全て彼女の顔に掛ける。
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
皮膚が焼け、顔面を襲う激痛にミラが苦しむ様を御剣とダストは楽しそうに笑い、罵倒する。
「ぎゃははははは!!!ざまあみろ!!俺達を馬鹿にするからこんな目に合うんだよ!!!これに懲りたら少しは大人しくするんだな!!!これで一生お前は娼婦としては働けねえ!!!」
「何をしているお前達!!!」
「やばっ!!!」
ミラに罵詈雑言をぶつける御剣とダスト、そんな彼らの前にいくら待っても彼らが勇者と仕える騎士に割り当てられた専用席に戻ってこないことを怪しみ、探していたギールが走りながら近づいてくる。御剣とダストは慌ててフードを被り、その場を離れていく。
「ミツルギ、アイツは何をして?おい君大丈夫か?」
「ギ、ギール、、、」
「お前ミラか?どうしたその怪我は、直ぐに救護施設に連れて行くからじっとしていろ!!!」
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「あ、ユージお帰り、さっきはごめん。」
ギールから話を聞き、再度ミラの元を祐二は訪れる。ミラの方も落ち着きを取り戻し、笑顔を彼に向けるが顔の右半分には痛々しい傷跡がガーゼからはみ出ていた。
幸いといってよいのか分からないが、彼女が横向きに倒れていたため皮膚が焼けたのは右半分で済み、左半分は無事だ。だがそれが逆に痛々しさを強調している。
「ミラ、」
「あ、別にこの怪我の事は気にしないでよユージ。」
暗い表情をしている祐二にミラは笑いながら話しかけるが、明らかに無理をしている事がわかる。
「ほら僕って、前の仕事の時、結構色んな男の人を騙したから色々と恨みを買ってるんだ。だからこの怪我もその罰が当たったんだよ。僕の自業自得だからユージが気にする必要ないよ。だから、、、だから、、ごめん、今はちょっと、放っておいて。」
笑顔で目尻に涙を貯め、嗚咽を鳴らすミラ。彼女を元気づけてあげたいが、どんな言葉を掛けて良いのか分からない祐二は何も言えず、苦し気に顔を歪ませる。
その後、ニスアとアシュリーに「私達に任せてください」と言われ、救護室を後にする。天幕の内側ではとうとう我慢が出来なくなったのか、ミラの大きな泣き声が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい、ユージ。」
「ギール、俺は後何回勝てば御剣と戦える?」
彼女が怪我を負ったことにショックを隠せない祐二にギールが声を掛けた瞬間、鋭い目つきの祐二がギールに問う。
「・・・後二回勝てば準決勝で御剣と戦える。」
「そうか、、、」
ギールの言葉を聞き、祐二は一人会場へと向かっていく、その背中には明らかに怒りの感情が宿っている。
「馬鹿が、」
誰もいない廊下でギールは一人呟く、決して怒らせてはいけない人間を怒らせてしまった勇者へと。
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係員に案内され祐二は次の試合へと向かう。選手の登場に会場が沸き上がるがその声は彼の耳には入ってこない。
「うるせえ。」
司会が選手の紹介を説明をしていくがそんな物は必要ない、さっさと試合を始めろ。槍を持った相手の選手も何かベラベラ喋っているが、こっちはお前に興味なんかない。
「---開始!!」
漸く試合が始まる。試合開始のゴングと共に相手が槍で突撃を仕掛けてくる。後数センチで貫かれるというタイミングで体を反らし、槍を避ける。そのまま相手の槍を掴み膝を使い、相手の槍を折る。
獲物を破壊された相手が困惑するが、獲物を一つ破壊されただけで困惑するなど鍛え方が足りない。例えスキルが無くても、どんな武器でも戦るようにするのが戦士と言う物だ。
「こっちは急いでるんだ。さっさとひっこんでろ。」
相手の顔面に全力のパンチを叩きこみ、吹き飛ばす。吹き飛ばされた相手は鼻の骨が折れ、前歯も幾つか抜け落ちていた。
白目を剥いている相手に対し、審判が祐二の勝利を宣言する。
「あと一人。」
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