11話:脅威
「それじゃ、行ってくるよ。」
「はい。頑張ってください。」
「危なくなったら棄権するんだよユージ君」
「・・・」
選抜大会二日目、盛り上がりを見せる会場で祐二は参加者が待機しているテントに向うが、エールを送るニスアに対してミラの表情は暗い。
「あの、ミラさんこの間からずっと表情が暗いですけど何かあったんですか?」
「えっと、それは。」
ミラの表情が暗い理由が分からず、ニスア達と同じように祐二の応援に来ていたクレアがニスアに理由を聞くが、ニスアは何とも言えない表情をして自分が教えても良いのか困ってしまう。
ミラの表情が暗い原因、それは恐らく先日、嘗てミラの仕事仲間だったというダストと言う男に彼女の過去を暴露されたからだろうとニスアは考えている。祐二やニスアは気にしない素振りだったが、ミラとしては知られたくない、知られてはいけない過去を大勢の前でしかも惚れている男の前で暴露されたのだ。
例え祐二が気にしていなくても、”もしかしたら心の底では自分を軽蔑したのかもしれない”とミラが疑心暗鬼になってしまうのも仕方がないだろう。そんな不安からミラは口を閉ざし、祐二やニスアとは目を合わせなくなった。
「すいません。私からは言う事は出来ません。」
「そっか、でも何とかミラちゃんには元気になってもらわないと。だってほら、ミラちゃんに無視されるようになってユージ君も元気ないもん。」
「う、、確かにそうですね。」
そして元気が無いのはミラだけでなく、祐二もそうであった。落ち込んだ彼女を元気づけてあげようと色々と手を尽くしたのだが、ミラは全く元気を取り戻さず祐二を無視して終わるという結果となり。祐二も大変落ち込んでいるのである。
そんな状態で大会で優勝できるか不安なので、ニスア、アシュリー、クレアの三人としてはミラに元気を取り戻してもらい、祐二にも元気になってほしいのだ。
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『さあ、それでは早速第一試合を開始します。選手の方ご入場ください!!!』
司会の指示に従い、西と東の入場口から選手が入ってくる。西側にいるのは騎士団の鎧とは別に個人で鍛冶師に作成を依頼した鎧に身を包み込んだグリード、そして東側から入場してきたのは彼にとって予想だにしない人物であった。
「え、、、何故貴方が、、、」
『それでは選手を紹介させていただきます、西側は現在騎士団で騎士団長代理を務めているグリード=マキシマム!騎士団長代理と言う立場に対して、本人は自信がなく。この大会で優勝し自信を付けることが目的と言っていました!そして東側は何と、元騎士団長でグリード選手の師匠でもあった、セルゲオ=ゲイザーです!まさかの師弟対決!盛り上がってまいりました!!」
東側から入ってきたのは、嘗ての自分の師であり尊敬する上司でもあった騎士団長。行方不明になってからずっと探していたが、見つからず諦めかけていた。
そんな人物が近衛騎士選抜大会に参加している事にグリードは驚きを隠せない。
「騎士団長!何故此処にいるのです!いやそれよりも貴方が行方不明になったあの日に一体何があったのです!」
グリードが叫び、騎士団長に何があったのかを問うと、セルゲオはグリードを見つめた後頭を抱える。
「うう、行方不明?何故此処にいる?あの日に一体何があった?そうだ私はあの日、、倉庫に向って、、、、それで、、、」
「騎士団長?」
「うわああああああ!!!!!」
「き、騎士団長?一体あの日に何があったのです!?」
「あの日の事を思い出させるなーーーーーーーー!!!!」
頭を抱えながら左右に激しく降るセルゲオにグリードだけでなく、司会者や観客も騒然とする中、セルゲオは入場口に向って逆走をしていく。
「うわあああああああーーーーーー!!!思い出させるなーーーー!!!!」
「き、騎士団長おおおおおおおお!!!」
『えー、セルゲオ選手の逃亡によりグリード選手の勝利となります。』
逃げたセルゲオに対し、もはやどうすれば良いかわからない司会はグリードを勝者とし、観客たちもまばらにグリードに拍手を送る。
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「はあ、はあ、はあ」
「おやおや騎士団長、敵前逃亡とは騎士にあるまじき行為ではありませんか?」
「お、お前は!!」
闘技場から逃げ出し、裏路地で息を整えていたセルゲオの前に一人の男性が現れる。彼は以前見てはいけない光景を見てしまったセルギオを口封じもかねて、後ろから突き刺した人物である。
「これは少々お仕置きをしなくてはいけませんね。」
「ま、待て!!」
「アッーーーーーーーーー!!!」
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「何だ今の試合。」
選手専用のテントから先程の試合(といってよいものか判断に困るが)を眺めていた祐二が呆れた声を出していると、次の選手の入場が近いことを係員が連絡をする。次の試合は祐二だ。
係員の案内に従い、入場口に向かう祐二、彼は次の対戦相手に対して妙な既視感を覚えていた
「どっかで会った気がするんだよな~。誰だっけな?」
彼の次の対戦相手、それは先日片手で大男投げ飛ばした女性である。格闘スキルを使わず力任せに男を投げ飛ばした彼女、祐二はどうしても彼女に会った覚えがあるのだ。
そうこうしている内に祐二と対戦相手の女性がステージに上がり、司会が祐二と女性の解説をしていると女性が祐二に向って語り掛けてくる。司会の解説を聞く限り名前はフェイというらしい
「久しぶりね。狩人さん。」
「ん?やっぱり何処かで会ってたか?悪いけど全く思い出せないんだ。」
「あら、酷いわね。」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑うフェイ。装備は祐二と同じ動物の皮などで作った鎧だが、サイズがあっていないのかアシュリーにも匹敵する胸が今にも鎧を弾き飛ばしてしまいそうだ。
思わず祐二が目をそらすと観客席にいるニスアから「ユージさん!バインバインのおっぱいに負けちゃだめですよ!!」という声援?が贈られる。
「ふふふ、愉快なお仲間ね。それで大丈夫?」
「大丈夫だよ。正直、女慣れしていないけど、それでも戦いで揺さぶられるほど軟じゃない!」
「そう、それは良かった。」
そして司会が試合開始の合図をし、勝負が始まる。
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(この人、戦い方が滅茶苦茶だ!本当に力任せに拳や蹴りを繰り出してるだけだ。・・・でも)
全ての矢を放ち、弓をフェイの手によって握りつぶされてしまった祐二が必死に彼女の攻撃を避ける。
フェイの戦い方は徒手空拳、ひたすらに拳や蹴りをデタラメに繰り出すだけ、それこそ格闘系のスキル所持者が見たら鼻で笑ってしまう程のお粗末さだ。本来であればギールに鍛えられた祐二なら、簡単に避けカウンターを喰らわせられるだろう。
だが、祐二はひたすら回避に専念し、防御をしてすらいない。
(この人、、、兎に角強い!!)
試合開始と同時に祐二は飛び道具を持っていないフェイに対し、弓矢による遠距離からの攻撃を仕掛けた。だがそれらの矢は彼女に当たる直前、フェイの両手によって掴まれ握りつぶされた。そして一瞬で祐二との距離を詰められ、弓も握りつぶされ祐二はあっさりと遠距離の攻撃手段を失ってしまった。
その瞬間祐二は彼女の強さと戦い方を理解し、回避行動に専念をすることにする。
フェイの強さ、それは格闘技や剣術のような技ではなく、圧倒的な力と反射神経によるゴリ押しである。
相手の攻撃を驚異的な反射神経で避け、相手の防御を無視する怪力で止めを刺す。そんな技を磨き上げた人間の努力をあざ笑うかのような戦い方を可能にするだけの力をフェイは持っていた。
祐二が回避に専念してるのも下手に防御でもしたら、受け止めきれずに場外まで吹き飛ばされてしまう確信があったからである。
(でもこのままじゃマズイ!!)
神速のごとき速さで繰り出されるフェイの拳を避ける祐二だが、そろそろ集中力が限界だ。ここらで一旦状況を変えないと真面に一発喰らってしまうだろう。
「っらあ!!!」
「!!!」
何とか隙を見て蹴りを繰り出す祐二、まさかの反撃にフェイは驚きながらも腕をX字に組み彼の蹴りを受け止める。その瞬間、
「っ!!!!!」
攻撃をして、今度は自分がフェイを追い詰めようとしていた祐二だが突如、目を見開き急いで彼女と距離を取る。
一気に攻め込めるチャンスだったのに距離を取った祐二に観客たちは彼に疑問を抱くが、祐二の足が震えている事に気づいた者はいなかった。
(何だ今の感覚!!良く分からないけど、この女かなりヤバイぞ!コイツその気になれば一瞬で此処にいる人達殺せるんじゃねえか!?こんな強い奴が何で手加減してんだよ!!!)
彼女に蹴りを入れた瞬間、祐二の脳内に謎のイメージが浮かんだ。それは会場が焦土と化す映像でフェイがそれだけの実力を持っている事を祐二は理解した。
先程までと打って変わって自分に怯えたような態度を取る祐二に対して、フェイは考えるようなしぐさをした後、右手を上げ審判に宣言をする。
「降参します。」
「えっ?」
突如の降参宣言、グリードの試合とはまた別の意味で場の空気が凍ろる中、フェイは祐二に近づき、彼の耳元で囁く。
「貴方、私の強さが分かったのね。フフフ、やっぱり貴方は勇者とは違う。ああ、本当に楽しみね。」
甘い声で囁かれるその呟きは、祐二にとって悪魔の囁きに聞こえた。
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(何だったんだアレは?)
先程の試合の恐怖がまだ残っている中、テントに戻る祐二。自分の席に座り呼吸を整えていると、天幕が乱暴に捲られニスアが現れる。
「ユージさん!どこですか!?ユージさん!」
「ちょ、ニスアさんどうしたんすか?」
大粒の涙を流しながら必死に祐二を探すニスアに慌てて駆け寄ると彼女は悲痛な面持ちで告げる。
「ミラさんが、ミラさんが!」
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