10話:不穏
「さっきの試合凄かったね。」
「はい、あんな細腕であっさりと投げ飛ばすなんて。」
祐二の試合も終わり、ミラとニスアとで次の試合を観戦していた三人は先程の試合についての感想を述べている。
試合に参加している選手は、屈強だが強面で騎士と言うより盗賊といった見た目の男性と細身の女生とで誰もが男性が勝つと考えており、多くの観客が男性に賭けていた。
だが、試合が始まるとその予測はあっさりと覆された。剣を上段に構え突撃してくる男性に対し女性はその腕を掴むと男性を投げ飛ばし、硬い石で出来た闘技場に顔面からぶつかり気絶、そのまま女性の勝利となった。
予想外の結末に観客は女性に賞賛の声を送ると同時に男性には賭けた金を返せと罵声を浴びせかけている、そんな中祐二だけは口元に手を当てずっと何かを考えている。
「格闘技のスキルでも持ってたのかな。ってどうしたのユージ?さっきから難しい顔をして?」
「ああ、いや、あの女の人何処かで見た覚えがあるなって。」
「そうなの?」
「気のせいかもしれないけどな、それと多分あの女の人は格闘技のスキルは持っていないぞ。」
「え、どういうことですか?」
普通であれば細身の女性が男性をあっさりと投げ飛ばすなんて事は格闘技のスキルが無いと無理なはずだが、祐二はそれは無いという。
「だってあの女の人、構えを取ってなかったし、動きもデタラメ。もし本当に格闘技に関するスキルを持ってたらもっと流れるような動きで投げ飛ばせれたはずだから、多分あれは本当に力任せに投げとばしただけだよ。」
「え!ということはあの女の人は、あんなに華奢なのにゴリラだったという事ですか!?あのバインバインの胸には脂肪じゃなく、筋肉が詰まっていると!!」
「いや、身体能力を上げるスキルを持ってる可能性もありますから。」
そんなこんなで残りの試合を観戦していると全ての組み合わせの試合が終了し、勝ち残った者達で行う次のトーナメントは明日に行う事を司会が参加者一同に説明する。何でも開催側が考えていたよりも参加者が多く、とてもではないが一日では終わらず、数日に分けて行うことになったらしい。
「それじゃ僕達も帰ろうか。」
「だな、俺も残った参加者のスキルや戦術、特に勇者達の戦い方を分析しないと。」
「勇者、、、正直武岡さん以外見ていて気持ちの良い試合ではなかったですね。」
祐二の言葉にニスアが顔を暗くし、俯く。彼女の言う通りこの選抜大会に参加している勇者の内御剣と海藤の試合は余り見ていて気持ちの良い物ではなかった。
武岡は正々堂々正面から相手を叩きのめす戦い方だったのに対して、残りの二人は甚振るような戦い方で、御剣は狂ったような笑みを浮かべながら、相手の武器を場外に弾いた後、鳩尾や喉元などの急所ばかりを攻撃し、相手が棄権を訴えようとしてもその度攻撃をし、棄権を宣言させず審判が止めに入ったほどだ。
海藤は相手が行動を起こす度にわざと低威力の魔法を使い、相手の動きを封じ甚振るような戦い方をしていた。
王族の目的としては、勇者の力を世間に知らしめたいのだろうがこれでは却って勇者の悪評を広めてしまうのではないか?祐二はそう考えてしまう。
「それで勝てるの?」
「正直、微妙かな。でもやるしかないさ。」
そう強がる祐二だが、内心では彼らに勝つイメージが全く湧かなかった。
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「くそ、あの女!!」
顔に包帯を巻き、前歯が数本抜けた男が大声を響かせながら怪我をした参加者を治療する救護テントから出ていく。
彼は先程祐二達が感想を言い合っていた試合の女性に負けた選手である。幸い怪我は顔のみだったが、散々大口を叩いて負けた事、彼に金を賭けた観客たちから浴びせられた罵声によってプライドはズタズタとなっていた。
そんな彼がプライドを取り戻す唯一の方法、それは自分を負かした相手の女性を力尽くで犯し、屈服させることである。
常人ならそんなことでプライドが取り戻せるのか?と首を傾げる所だが、彼は弱い者には高圧的に強い者には媚び諂うという典型的な小物であったため、それに比例してプライドも小さかった為問題なかった。
やがて会場の入り口近くで目的の人物を見つける。女は試合の最中に来ていた鎧を外し、露になった見事な肢体は周りの男連中の目をくぎ付けにしている。また女の隣には別の女性がおり、彼女もまたも事なスタイルの持ち主だ。
自分のプライドをへし折ったのだ。迷惑料としてあの女も頂いていこう、下衆な考えをさも正しいことのように考えている男が女性達に声を掛ける。
「おい、待てよアンタら!」
「あら、散々デカい口を叩いた挙句あっさり気絶した雑魚じゃない。」
「なっ!テメー馬鹿にしやがって!お前のせいで俺がどんな目に合ったかわかってんのか!落とし前はちゃんとつけさせてもらうぞ!痛い目見たくなかったらついて来いよ!」
「主様、この男どうされますか?」
「そうね、騒がれても面倒だし、貴方が相手してあげて。」
「御意。」
「何コソコソ話してんだ!」
自分を無視して何かを話している女性達に男が喚き散らしていると、部下らしき女性が男の前に立ちはだかる。
「申し訳ないが、主は多忙でな。代わりに私が相手をしよう。」
「ああ!?」
女性がそう言うと、男の返答も聞かずに男の首根っこを掴み、何処かへと消えていく。そんな二人を見ながら一人残った女性は不満そうに呟く。
「はあ、早く鬼面の男と戦いたいわ。でも試合のルールじゃ殺しちゃダメなのよね。本気で戦いたいのにどうしたものかしら。」
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「や、止め、助け、、、」
「我が主に邪な視線を向けた挙句、無礼な態度を取って許されると思うか?」
誰もいない路地裏、そこで先程参加者の女性に突っかかっていた男が、無理矢理路地裏に連れてきた女性に命乞いをしている。
最初は路地裏で行為に及ぶと思っていた。だがいざ路地裏に到着すると女は両腕に火と風の魔法を纏い、その腕で男の両腕を片方は風の刃で切り裂き、もう片方は炎で消し炭に変えた。突然の事態に驚き助けを求める為、男は逃げようとしたがその瞬間、両足も切り裂かれてしまった。
「だ、誰か助け、、、、」
「やはりこんな雑魚を甚振っても楽しくないな・・・死ね。」
「ま・・・」
女の火を纏った手が男の顔を掴み、男の体を炭に変える
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「やっぱり御剣は剣に細工をするとして、海藤は・・・・・」
祐二、ミラ、ニスア、が三人並んで帰っている中、祐二はひたすら御剣達への対策を考え、時々道を歩く人達とぶつかりそうになる。
「それじゃ、今日はウチで晩ご飯を食べよっか。今頃クレアが料理を作って待ってるだろうし、ユージも今日は一緒に食べるでしょ?」
「ん?ああ。」
何気ない会話をしながら、ミラの家に向って歩く三人だが、そんな彼らの前にある人物が声を掛ける。
「おい、そこにいるのはミラじゃねえか、久しぶりだな。」
「え、、、」
彼らに声を掛けたのは高価な衣装に身を包みながらも、衣装に見合わない小汚い雰囲気を纏った男で、男の顔を見た瞬間ミラは怯え体を震わせる。
「ダスト、、、何で此処に、捕まったんじゃ。」
「ああ、そうだよ俺は捕まったよ。お前は王女に保護されてたけど、俺は冷たい牢屋行きだったな。その後は苦労したぜ、何とか脱獄しても騎士団に怯える毎日、でも運よく勇者と出会ってな。今は勇者の仲間として特別に仮釈放扱いになったんだよ。しっかしお前は相変わらずいい体してるな~。」
下品な笑みを浮かべながら近づく男に怯えるミラ。二人がどんな関係だったかは知らないが、ミラが怯えているのを放っておけず、祐二がダストの前にでてミラを下がらせ、ニスアがミラを抱きしめる。
「なあ、久しぶりの感動の再開だしって、、、アンタ誰だよ。」
「まずアンタが名乗れよ、オッサン。」
「ああ、そうだな。俺はダスト。そこにいる尻軽女とは昔の仕事仲間でな。へ~、今度はこの男を騙してんのかい、羨ましいね~。組織に居た頃は俺がどんだけ関係を求めても断ってきたくせに、標的相手だったらあっさり許すんだからよ。」
「や、止めて!昔の事は言わないで。」
怯えているミラをニヤニヤと眺めるダスト、これ以上この男に付き合っているのはマズイと判断した祐二とニスアは男を無視して、ミラと共に先に進もうとするが男はしつこく付きまとってくる。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。感動の再開なんだから少しは話させてくれよ。」
「ミラはアンタと話したくないみたいだが?」
「そうですよ。余りにもしつこいと騎士を呼びますよ。」
ダストを睨む祐二とニスアだが、ダストはそれすらも面白いのか笑みを浮かべるのを辞めない。
「いやいや、これはアンタらの為なんですぜ。アンタらはその女の正体を知らないみたいだから言っておきやすけど、その女は、、、」
「やめて!!」
ミラの過去をダストが暴露しようとした瞬間、ミラが叫び周りの注目を集める。ダストはそれが目的だったのか、より一層深く笑うと芝居がかったように周りに聞こえる大声で話し始める。
「おいおい、それは不誠実ってヤツじゃねえのかい。こんなにもお前を想ってくれる人達に隠し事何てしちゃいけねえ。だから正直に言ってやろうぜ!お前が元犯罪組織の一員で、命令の為だったらどんな男にでも股を開いて、しかも相手を殺す毒婦だってな!!!ヒャーッハッハッハ!!」
「あ、あああ、ああああ。」
遂に知られてしまった。娼婦だという自分の卑しき職業を知っていても尚、自分を一人の女性として見てくれる祐二に最も知られたくない過去を、自分が最も忌み嫌う過去を、これだけは彼に知られたくなかった。もしこれを知られたら流石の彼も自分を軽蔑するだろうと必死に隠してきた過去を。
絶望し地面に泣き崩れるミラに満足したような笑みを浮かべるとダストは祐二に近づく。
「いや~、危ないとこだったな。やっぱりこの女自分の過去を明かしてなかったか。あれ、もしかしてアンタ悲しんでる?アンタもしかしてコイツの事好きだったの?いや~それは悪いことをしたな。でもこれもアンタの為なんだよ。安心しな、この尻軽女は俺が責任をもって引き取るからよ。アンタはそこにいる銀髪の彼女にでも慰めてもら、、、」
「・・・せえよ。」
「あ?」
「うるせえよ、アンタ。」
祐二がそう言った瞬間、彼の渾身の右拳がダストの顔面を直撃し、彼を吹き飛ばす。
「な、テメーいきなり何しやがる!俺は親切にその尻軽女の正体を、、、」
「知るか!んなもん!!」
祐二はそう叫ぶと、泣き崩れているミラに近づき、彼女を立ち上がれせ彼女を抱き寄せる。
「ミラの過去は知らねえ、でもな俺と出会ってからのミラは知ってる!俺の知ってる彼女はアンタが言うような人じゃない!いつも人の事を気にかけて、支えてくれる。そんな人だ!過去は関係ねえ!」
「なっ!」
「失せろ。」
祐二に対してダストが何かを言おうとするが、騒ぎを聞きつけた騎士達が駆け付けてきたので慌てて人混みの中に隠れ、残ったのは祐二達三人だけとなった。
「あ、あのユージ、僕、、、」
「帰ろう。ミラ。」
「そうです。帰ってみんなで美味しいご飯を食べましょう。」
自分の過去が知られたことに何を喋っていいかわからないミラに対して、祐二とニスアの二人はそんな事は気にしてないと彼女に笑顔を向け、帰路に着く。そんな二人に対し、どんな顔をすればよいのか分からず、ミラはうつむいたまま二人の後ろを付いていく。
途中、彼らの騒ぎを見ていた屋台のおじさん、おばさん達から『兄ちゃんかっこよかったよ。』だの『彼女さん幸せにしてやんなよ』とか『いいかい、男ってのは女の為に立ち上がって初めて一人前なんだ。ほら一人前になった記念に持っていけ』など言われて、野菜やら干し肉やらを貰い少々苦労した三人であった。
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「クソが、ぜってえ、許さねえからな。覚えてろよミラ、テメーだけ幸せな人生歩めると思うなよ。あの男もだ。アイツらは不幸にしなきゃ気が済まねえ。」
何とか騎士団から逃げたダストは一人、濁った目を血走らせながら、憎悪の言葉を紡いでいた。
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