8話:ハニートラップ
「「今日からお世話になります!!!」」
第二王女の近衛騎士選抜大会がいよいよ明日という日、祐二は書類上は彼の奴隷となっているアルティに呼び出されて彼女の屋敷に向ったところ、いきなり屈強な男の集団に挨拶された。
客間には、祐二とアルティ、彼女に仕えている女性狩人、そして何故かソニアがいた。
「えっと、誰?この人達?」
困惑する祐二にソニアとアルティが困ったような笑みを浮かべながら説明する。
「こいつらは王族に仕えている宮廷料理人の内の勇者の食事を担当している奴らだ。先日私が勇者の食事に毒を盛ってな。その責任を取らされてクビになったんだよ。」
「その割には凄い嬉しそうだな。」
恐らく国民に不安を与えてはいけないという判断で箝口令が敷かれていたのだろうがソニアは作戦を実行、成功したらしい。詳しく話を聞くと選抜大会に参加する勇者8人の内4人が当分安静にしなくてはならないらしい。
「無事だった勇者は運が良かったか、後天的に毒を無効化するスキルを持っていたんだろう。」
ソニアが説明をしていると宮廷料理人の内、リーダー格の男が祐二の手を握り、感謝の言葉を述べてくる。見た目としては料理人と言うより全員ボディービルダーのような体格だ。
「ありがとうございます。ユージさん!あのクソガキ共に一矢報いただけじゃなく、お陰で宮廷料理人を辞めることも出来ました!」
「そんなに嫌だったの?」
「ええ、アイツら直ぐ料理にケチ付けて、殆ど残しやがる。それどころか何でもかんでもソースをかけやがる。あんなの料理への冒涜ですぜ。」
「しかも国王はぐちぐち文句を言ってくるしな。」
その後の彼らの雇先だが、アルティの奴隷として”派遣”という形で人手が足りない食堂などで働くそうだ。
「それで次の作戦なのだが、、、」
「俺が王城に忍び込んで、勇者の武器に細工をするってやつか。」
料理人達の話が終わった後、本題としてソニアが今後の勇者の妨害作戦について話し出す。一応次の計画としては祐二が王城に忍び込み、当日勇者が使う武器や防具に壊れるよう細工をする手はずなのだが、ソニアの表情は険しい。
「それは難しいかもしれない。」
「やっぱり王城の警備は厳しいか?」
「いや、そうではない。どうやら我々の活動に勇者達も個人で備えてきていてな。かつては王城の倉庫で勇者の武器や防具は管理されていたんだが、今では勇者が個人で装備を管理しているんだ。」
ソニアの言葉を聞いて納得する。確かにその状態で勇者の装備に細工を仕掛けようとするのなら直接勇者と対峙しなければいけなくなる。
そうなってしまえば確実に祐二はお縄に捕まるだろう。
「となると、残りの作戦がどうなるかか?」
「一応勇者が城から出ていく時間は把握しているが、アシュリー殿が受付の締め切りまで勇者を足止めできるかだな。あともう一つ伝えたいことがあってだな。」
「?」
「ミツルギなのだが、盗賊として捕まってからどうも様子がおかしいんだ。今は王城地下の牢屋で大人しくしているのだがな。常に何かをブツブツと言っていて気味が悪い。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いよいよ第二王女近衛騎士選抜大会当日、中央広場にて建設された受付には既に多くの人間が並んでいる。皆”勇者税”で苦しい中、わずかなチャンスを得ようと必死だ。
「それではこの用紙に、お名前と職業、所持スキルを記入してください。」
いよいよ祐二の番となり羊皮紙に名前と職業を記入していく。
「名前はユージで職業は、、、指名手配犯っと。」
「違うでしょ!ユージ!」
「そうですよ!そんな事書いたら出場できませんよ!!」
羊皮紙に危うくとんでもないことを書きそうになる祐二を慌ててミラとニスアが止める。勇者の足止めを行うアシュリーとは異なり、彼女達は事前に会場に忍び込まなければいけない為祐二に同行している。
二人に注意されながら参加用紙に必要事項を書き、受付に渡すと控室であるテントへと案内される。そこには既に登録を終えた者達が集まっており、何人か狩人組合で見知った顔もいる。
「ユージ、貴様も受付を終えたか。」
「グリードも参加すんの?」
「当然だ。あんな勇者共を姫様の傍に置いて行けるか。別に私が近衛騎士になろうとは考えていないが、それでも勇者が近衛騎士になる確率が下がるのなら参加はする。しかしユージ貴様、、、」
いつの間にか参加していたグリードに祐二が驚いていると、グリードは祐二の装備をみて溜息を吐く。
「本当にそんな装備で戦うつもりか?」
「う~ん、確かに他の選手と比べるとショボいかも。」
「何というか、都会を知らずに上京してきた田舎者って感じですね。」
「うっさいわ。」
グリード、ミラ、ニスアの言葉に拗ねたように祐二は答える。だが、彼らの言う通り現在の祐二の装備は問題があった。
今までであればクロスボウなどの特殊な武器を装備していたのだが、今の祐二の武器は嘗て集落で使っていた弓、片手でも扱える細身の数打ちの剣、防具は動物や魔獣の皮をなめして作った鎧と他の参加者と比較しても明らかにランクが下がる物だった。
「俺だってもっとマシな装備にしたかったよ。でも正体がバレない為にはこの装備しかなかったんだよ。」
選抜大会で優勝することも大事だが、それよりも祐二にとって大事なのは自身の正体がバレない事だ。それ故”鬼面の男”として活動するときの装備は持ってこれず、このような装備になってしまった。
「それに一応、バレないように幾つか仕込みはしてきたから、それなりに奮闘は出来ると思う。」
その後も四人で話していると、受付の方からそろそろ参加者の登録を打ち切ると連絡が入ってくる。
「アシュリーさん大丈夫でしょうか?」
「アシュリーさんが任せてくれって言ってたんだから信じよう。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「やばいなあ間に合うかな?」
目立たないようフード付きのコートで顔を隠した勇者の内の一人、如月は近衛騎士選抜大会に向うため急いでいた。
彼は毒を摂取して倒れた他の勇者とは違い、運が良かったのか症状が軽く、朝になるころには全快していたため、急いで準備をし選抜大会の解錠へと向かっている。
何でも国王が言うには”勇者税”に不満を持っている国民が増えてきて、そんな彼らに改めて勇者の力を見せつける為にも参加してほしいと言われたため、面倒くさかったが参加することを決意した。倒れた勇者を除いた他の勇者、御剣、海藤、武岡の三人は既に向っており、盗賊行為をして捕まった御剣は騎士の監視がついて向っていて海藤と武岡も御剣が暴れないよう同行しているらしい。
馬鹿な奴だ、何処とも知れない奴に負けて有り金を全て奪われて、盗賊行為をして捕まる。アイツとは縁を切るべきだと如月は元友達として薄情なことを考えながら、大通りを走っていく。すると、
「キャッ!!」
「ああ、悪かった、、、ね。」
前方不注意によって、彼と同じようにフード付きのコートで顔を隠した女性とぶつかり、女性が倒れこんでしまう。”この愚図!”と内心で女性を蹴り飛ばしたい欲望が芽生えるが、周囲に人の目がある為、感情を抑え込み女性に手を伸ばすが、フード付きのコートの中から現れた獣人の女性の顔と肢体によって視線が釘付けになる。
ツリ目気味の目尻で綺麗といった雰囲気で10人中10人が美人と認める顔立ち、服のサイズが明らかにあっておらず、服の押さえつけによる反発で少し動くだけで服が弾け飛びそうなほどの大きさの胸、転んだ際に敗れたのか、付け根まで露になった艶めかしい脚、そのどれもが男を欲情させるに十分だった。
「すいません。前を見ていなくて、、、痛っ!」
「どうかしましたか?」
「それが足を挫いたみたいで。これでは歩けません、あの図々しいお願いなのですが、すぐ近くに私が済んでいる家がありますのでそこまで肩を貸していただけないでしょうか?」
「も、勿論ですよ。困っている人を放っておけませんから。」
鼻息を荒くし、女性に肩を肩を貸す如月、肩を貸したことで女性の艶めかしい吐息や胸の揺れが彼を刺激し、頭の中が煩悩で一杯になる。
女性が家までの道を案内しているのだが、何故かどんどん裏路地を進んでいき人が少なくなっていく。
「あの、本当にこっちに家があるんですか?」
如月が疑問に思い女性に尋ねると、周りに人がいないことを確認した女性が如月から離れ距離を取る。
「あーごめんね。こっちに家があるっていうのは嘘なんだ。それに足を挫いたのも嘘。」
「へ?」
「君勇者のキサラギでしょ?実は君に用があって、わざとぶつかって二人きりになりたかったの。」
女性の言葉を聞いた瞬間、如月は歓喜する。わざと自分にぶつかってきて、人目のない場所へ誘導する。それはつまり女性の方からお誘いが来たということだ。流石に午前に屋外で行為に及ぶというのは恥ずかしいが、それはそれで興奮するし、こんな美人とできるのなら、大した問題ではない。
「そ、そうだったの?そ、それじゃ早速始めようか。」
選抜大会の受付の締め切りも迫ってる中、如月はベルトを急いで外し、ズボンを下そうとするが女性が冷たい視線を向けてることに気付いていない。
「うん、そうだね。早速始めようか。何とか半殺しで済むよう手加減するから。まあ勇者だし、大丈夫だよね。」
「へ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「よっし!あとはユージ君達の頑張り次第か。」
アシュリーが如月を誘い出してから数分後、裏路地には沢山の野犬に襲われたようなボロボロの気絶した如月だけが残って、無傷のアシュリーは表通りへと向かっていた。
それなりに自分のスタイルには自信があるが、まさかこんなにホイホイと着いてくるとは思わなかったと思うと同時に集落で女性に慣れていない祐二を散々からかったことにアシュリーは罪悪感を感じてしまう。彼だってお盛んな17歳、きっと悶々としていたのだろう。
「そう言えば結局ユージ君は誕生日プレゼント誰のを一番使ってくれたんだろう?」
”アタシだったら嬉しいな”そう考えながら、勇者を一人しか足止めできなかったアシュリーは大会に参加するユージ達の無事を祈った。
もし気に入ったのなら、ブックマーク、感想の程よろしくお願いいたします。




