6話:プレゼントを贈るときは相手が喜ぶものを贈るべきだ
次回から本格的に主人公たちは動き出します
「うし、こんなもんかな。」
布で口を塞ぎ、先程から乳鉢で何かをすりつぶしていた祐二が出来上がったものを見て満足げに頷く。ここはギールが所持している廃墟で、現在祐二は一人で此処で暮らしている。
今までミラの家に住んでいた祐二が、何故今廃墟で暮らしているかと言うと流石に男女比1:4では彼の理性も色々と限界という事で、ギールに頼み込み此処に住まわせてもらっているのだ。
「ユージ、毒できたの?」
「ああ、寸胴一杯のスープに一匙入れれば、腹痛やら吐き気を催す毒だ。まあ死にはしないし、安静にしてれば一晩で収まるから、大丈夫だろ。」
「別に死んでもいいんじゃないかな。特にミツルギとかカイドーは。」
選抜大会に勇者を参加させない為の打ち合わせでメンバーが全員廃墟に集まっている中、恐ろしげなことを言うミラに祐二は少し怯えてしまう。元から彼女が勇者である御剣や海藤にあまり良い印象を持っていないことは知っていたが、此処までとは思わなかった。
そんなミラと距離を取りながら、作った毒を試験管に入れていく。この毒は勇者が第二王女の近衛騎士選抜大会に出場しないようにするために、王城で出される食事に仕込む毒である。この毒を摂取すれば勇者達は選抜大会当日不参加にならねばならない。
勿論中には毒が効かないスキルを持つ勇者もいるかもしれないが、それでも一人でも出場者を減らせるのなら御の字だ。
「よし、それじゃあ後は大会の前日に私が料理にその毒を仕込むだけだな。」
「バレないように頼むぞ。というか今更気づいたんだが、料理に毒が仕込まれたとか判明したら、王城の料理人たちは大丈夫なのか?責任を問われるんじゃ?」
「ああ、それなら心配ない。王城で勇者の料理を担当している料理人は皆勇者が嫌いでな。この間も『あのクソガキ共また料理残しやがって!』、『何にでもソースかけやがって味音痴共が!』『いっそ毒でも仕込んでやるか!』とかぼやいていたし、既に何人も辞表を出してクビになる事を望んでいるからな。私が毒を仕込むと知ったらむしろ嬉々として協力するんじゃないか?それにもし料理人達が疑われても、私と姉上が手厚く保護するさ」
祐二から毒を受け取ったソニアが笑顔でケラケラと笑う。大方王城の料理人が勇者の内、誰に恨み言を吐いているかは何となく予想が付いてしまう。
「まあ、気を付けて。」
「うむ。」
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「そうだ!今日はユージに渡すものがあるんだ!」
ソニアに毒を渡した後、皆それぞれの予定の為に解散となったのだが、帰り際にミラ、ニスア、アシュリー、クレアが立ち止まり祐二に向ってそれぞれ一つずつ紙袋を渡す。
「これは?」
「ユージ今日誕生日でしょ?だから誕生日プレゼント。」
「誕生日プレゼントを選ぶのって初めてで緊張しました。」
「アタシ達なりにユージ君が喜びそうなものを選んだから喜んでくれると嬉しいな。」
「お納めください主様。」
彼女達の言葉に祐二はハッとする。確かに今日は自分の誕生日だが、”勇者税”廃止の為に動き出してからはすっかり忘れてしまっていた。
「そいうや、そうでしたね俺すっかり忘れていました。ありがとう皆。」
そして彼女達が自分の誕生日を覚えていてくれたことに嬉しくなって思わず涙が出てしまう。”勇者税”廃止の為には本当なら誕生日などを祝っている余裕など無いのだが、プレゼントを受け取るくらいは許されるだろう。
「それじゃ、早速中身を見てもいいかな?」
「エッ!いや、それは流石に僕達も恥ずかしいっていうか、できれば僕達が帰ってから開けて欲しんだけど、、、」
何故か急に顔を真っ赤にして、モジモジと体を震わせる女性陣、理由は分からないが彼女達は今ここでプレゼントの正体を知られたくないらしい。仕方ない、袋は夜に開けるとしよう。
「それじゃまた明日!」
「はい、明日もよろしくお願いします!」
「お腹出して寝ちゃだめだよユージ君!」
「それでは旦那様!」
早歩きで夕日に向って、進んでいく彼女達に祐二は手を振って見送りをした。
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「祐二さん、喜んでくれるでしょうか?」
「大丈夫だよ。男なら誰だって喜ぶだろうし、ああ見えてユージはムッツリだから、きっと喜んでくれるよ。もしかしたら今晩早速使ってくれるかもよ。」
「とはいえ、流石に恥ずかしかったね。」
「私、元貴族の令嬢なのに、あんなもの、うぅぅぅ。」
祐二と別れて、ミラの家にたどり着いた女性陣は早速今日渡したプレゼントの話題で持ちきりとなる。
始まりは一週間前、ニスアが祐二の誕生日が来週だという事に気付いた事からだ。流石に誕生日会は開いてあげられないが、プレゼント位は渡してあげたい。そんな思いをミラ、アシュリー、クレアに伝えて皆で誕生日プレゼントを贈ることになった。
だがここで一つ問題が発生した。四人の中で誰一人として男性にプレゼントを贈ったことが無かったのだ。ニスアは神としてずっと働いてきたので男性との出会いはなかったし、アシュリーはずっと集落で暮らしてて、基本誰かの誕生日は集落の皆で宴をする日でプレゼントは必要なかった。ミラとクレアは、元娼婦と元貴族の令嬢と言う立場からプレゼントを受け取ることはあっても、贈ることは無かった。
そんな中、必死に頭を回転させどんなプレゼントが喜んでもらえるか考えた。現在一人暮らしの祐二にとって必要で、男性に喜ばれるプレゼント。それを三日三晩考えた彼女達はある結論を出し、プレゼントを決定した。それを購入するのは自分達にとっては恥ずかしいが、祐二に喜んでもらいたい。そう決意した彼女達は羞恥心を捨て、そのプレゼントを購入したのだ。
「所でさ、ユージは誰のプレゼントを一番喜んでくれるのかな?」
「「「・・・」」」
「それは勿論私ですよ。」
「アタシだったら嬉しいかな、、、いや、でももしそうだったらちょっと複雑かな。」
「男性にはああいう願望があると聞いています、私のプレゼントを一番に喜んでくれます。」
誰のプレゼントが一番喜んでもらえるか?それに気づいた瞬間、四つの視線が交差し、火花を散らす。
「それじゃ、明日ユージに聞いてみよっか?誰のプレゼントが一番使えたかって。」
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「・・・どうしろと。」
夜、廃墟にあるベッドで祐二は理解に苦しんでいた。全ての用事が終わり、いよいよ寝るかという時間にミラ達から貰ったプレゼントの中身を確認することにしたのだが、中身を確認した瞬間思わず止まってしまった。
プレゼントの中身は本だったのだが、問題はその内容だ。まずミラがくれた本は表紙にミラに似た雰囲気の女性が、服をはだけさせている絵が載っており内容を確認すると、狩人としてコンビを組んでいる男女二人の内、男の狩人が森での害獣討伐の依頼の最中、誘ってくる女性狩人に襲い掛かりあられもないような目に合わす話だった。
次にニスアがくれた本は全裸の銀髪の女性が表紙の本で、十七歳の青年が幼馴染である銀髪の女性に告白して、恋人となり色々なことをする話であった。
アシュリーがくれた本は、巨乳の獣人の女性が幼い少年を抱きかかえている表紙で、内容は未亡人の獣人の女性に憧れの感情を抱いている十歳の少年が、その未亡人に誘われ一夏の過ちを犯す話だった。
クレアがくれた本は、メイドがあられもない姿になっている表紙で、とある貴族に恨みを持つ青年が、策略の限りを尽くして奴隷にまで落としたその貴族の令嬢をメイドとして購入し、いけない教育をする話だった。
要は彼女達が祐二に贈ったプレゼントは全てエロ本であったのである。
「・・・いや、確かに男は喜ぶけど、、、」
確かに男は喜ぶ、喜ぶが女性からエロ本をプレゼントされるなど何と言っていいのか分からなくなる。おまけに登場人物たちは皆プレゼントを贈ってくれた本人たちに似ているのだ。もし彼女達が祐二がこのエロ本を使ってそういう行為をする可能性に気付いているのなら、どう対応すればいいのか分からなくなる。
「・・・ハァ、寝よ。」
本当にどうすれば良いのかわからなくなった祐二は、考えることを止め就寝することにする。だが彼は知らない、翌朝彼女達から誰のプレゼントが一番良かったかと最悪の質問をされることに。
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