5話:正々堂々戦って勝てたら闇討ちなんてしない
「それでは、これより近衛騎士選抜大会にて如何にして勇者を妨害するか作戦会議を始める。」
第二王女に祐二が近衛騎士選抜大会への参加を頼まれた日の午後、”錦の御旗”の計画に携わっている者達がギールが所有する廃墟に集まり、作戦会議を始める。
今この場にいるのは、祐二、ミラ、ギール、グリード、ソニア、そして、、、
「なあギールその前に一つ聞いていいか?」
「何だユージ?」
「何で太田やニスア、アシュリーさんまでいるんだ?」
全く関係ないニスアとアシュリー、そして立場上敵対しているはずの勇者である太田まで参加していた。
「仕方ないだろう。彼女達自身が協力を申し出たのだから。」
「はい、勇者が暴走しているのには私も多少は関係していますから、放っていくわけにもいきません。」
「アタシはユージ君が心配だからかな。だって勇者って強いんでしょ?怪我したら大変じゃない。」
「何か無理矢理第二王女に連れてこられたのと、これ以上御剣君達が好き勝手にするのは流石に見過ごせ無いからかな。」
三人それぞれ理由を話していく。祐二としてはあまり巻き込みたくはないのだが、三人とも降りる気はなくやる気満々で止めたところで意味はないだろう、それに太田の持つスキルを使えば、御剣達のスキルを封じられるのできっと役に立つはずだ。
「それでは作戦会議を進めるぞ。」
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「まず、我々の目的は勇者、正確にはその中でも問題を起こしている勇者達が選抜大会にて優勝することを防ぐことだ。勇者も当日は一般枠として参加するが、使う装備などは王国が支給した一級品の装備となる。一方のこちらは正体がバレないよう”錦の御旗”として活動している際の装備は使えない。装備面、スキル面から見ても苦戦は確実だろう。」
「それでも勝たなきゃいけないってなると、、、」
「ああ、当日どのようにして、勇者を大会そのものに参加させずにするか、そして参加してしまった場合如何にして審判に見つからずに不正をして勇者を妨害するかだ。」
「んんん?」
突然、不正を行うと言ってきたギールに王国騎士団団長代理であるグリードは頭に”?”を浮かべるが、彼を除いたメンバーは気にせず話を続けていく。
「勇者を大会に参加させないか?その日に勇者に狩人組合から偽の依頼をするってのはどうだ?」
「いや、既に父上に確認したが勇者のスケジュールは既に選抜大会まで埋まっている。大会に参加させないようにするためには、勇者本人が参加しない意思を示さないといけないのだ。」
「ふーむ、となると当日勇者が大会の会場に向かうまでの道のりで色々と妨害しまくるとかはどうだ?それなら不戦敗扱いになるはずだろ。」
「そうだな、それも案の一つとして記録しておこう。他に誰か案はあるか?今すぐ思いつかないなら、後でもいい。次に勇者が大会に参加したとして如何にして審判に見つからずに妨害するかだが、、、」
「待て待て待て!」
黒板に勇者を妨害していく作戦を書き記していくギールに流石にツッコミを放置できなくなったグリードが叫ぶ。手を止めたギールは不思議そうな顔でグリードを見つめる。
「どうしたグリード、何かいい案でも思いついたか?」
「そうじゃなくて、何なのだこれは!」
「何って、先程から言ってるだろ。勇者を妨害するための作戦会議だ。」
「その時点で既におかしいだろ!!普通こういうのは大会までの間に厳しい特訓をして、正々堂々と戦って勝つものだろう!なのに何故堂々と不正をしようとしているのだ!別の意味で堂々としすぎだ!」
王国の騎士団として働いているグリード、生来の生真面目さが周囲に認められ副団長まで上り詰めた彼の心の奥底には騎士道精神が根付いている。
不正は一切許さず、どんな悪党でも正面から堂々と倒す。それこそが騎士であり彼の誇りであった。誇りであったはずなのだが、、、
「おいおいグリード何言ってんだ。正々堂々と戦って勝てないから、不正をしようとしてるんじゃないか。」
「ユージの言う通りだぞ。今から特訓を厳しくしても然程意味はない。であるならば、いかにして勇者を妨害するかを考える方が、よっぽど現実的だぞ。」
「そうだぞ、もし正々堂々と戦い、負けて勇者が近衛騎士になったらどうするんだ!」
「ええ~~。」
自分が弱いことを自覚し、”勝てばよかろうなのだーーー!!”の精神で卑怯な戦い方を好む祐二、格上に勝つためなら卑怯なことも厭わないギール、兎に角勇者が近衛騎士になるのだけは嫌なソニアには全く理解できなかった。
自分の考えが通用しないことにグリードが唖然としている中、他のメンバーはどんどん卑怯な作戦を立てていく。
「当日の勇者の食事に下剤を盛るっていうのはどうかな?参加者のユージなら難しいけど、僕なら給仕に変装しても問題ないと思うよ。」
「勇者の方達が使う武器に油を塗るというのは作戦はどうですか?試合開始直前に勇者のファンと嘘をついて武器を見せてもらってる隙に。あ!武器の根元に切り込みを入れて試合中に壊れるようにするのもいいかもしれません。」
「だったら、大会前日俺が王城に忍び込んで勇者達の鎧や防具の繋ぎ面に細工を施すのも良いな。試合中、上手い具合にバラバラになるよう細工するんだ。」
どんどん卑怯な案が飛び出してきて、会議が混沌としていく。先程までは和やかな雰囲気だったのに今では”ヒ~ヒッヒッヒ!!”というような効果音が付きそうな、悪の組織の会議となっている。そして最早此処に自分の求める正義は無いとしてグリードは部屋の隅で体育座りで俯いている。
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卑劣な、、いや勇者を倒す為なら手段を択ばない集団によって、勇者を大会に参加させない。若しくは参加したとしても優勝できないよう妨害する案が幾つか揃っていった。代表を上げるなら、
・大会開催までに、王宮で勇者に出される食事に腹痛や吐き気を催す毒を仕込む。
・大会前日、祐二が王城の保管庫に忍び込み、武器や防具に細工する。
・大会当日、会場に向う勇者にファンを自称して絡み、大会に参加させない。
・大会当日、勇者に配給される弁当に下剤を仕込む。
・試合開始直前、ファンを装った女性陣が近づき勇者の武器の持ち手に油を塗る。
・試合開始直前、太田が勇者に近づきスキルを封じる。
「中々、良い案が揃ったな。」
「だが、実際に行えるかどうかは別問題だ。これからどうやってこれらの案を実行するか考えなくては。」
ギールの言う通り、どんなに素晴らしい作戦でも実行できなかったら机上の空論でしかない。これから如何にして、これらの作戦を実行していくか話していく。尚グリードはすっかりいじけて部屋の隅で、”の”の字を指で書いている。
「まず、王宮で出される食事に毒を盛るか、、」
「それだったら私に任せろ。」
最初の作戦にソニアが自信満々に立候補する。
「私はよく、厨房に入ってつまみ食いをするからな。例え厨房に入っても怪しまれない。勇者に出される食事もどれかわかるから、毒を仕込むのも朝飯前だ。」
「つまみ食いって、王女としてどうなんだ?じゃあその毒は俺が調合するよ。」
「じゃあ、次は俺が王城の保管庫に忍び込む奴か。」
祐二が王城に忍び込み、防具に細工をする作戦。だが、以前祐二は同じように王城に忍び込み見つかった結果、王城の警備は以前よりも強固になってしまった。忍び込むのは難しいかもしれない。
「この作戦を実行するかどうかは保留だな。捕まる危険性がある以上、安全が確保できるまで実行できん。」
「じゃあ、次の作戦だな。当日勇者を大会に参加させない為に途中の道のりでファンを偽って絡むと、上手くいくかな、これ?流石に怪しまれるか?それにこれ下手したら勇者に襲われる可能性があるからやめた方が良いんじゃ?」
「ファンと言うよりは怪我人を装った方が良いか?そうすれば流石の奴らも襲おうとは思わないはず?いや、それだと無視されるかもしれん。」
「じゃあ、アタシがそれをやるよ。」
「アシュリーさん?」
”この作戦も難しいか?”そう考えているとアシュリーが挙手をして、立候補する。意外な人物が立候補したことに祐二が驚いているとアシュリーが理由を話す。
「勇者って助平な子が多いんでしょ?アタシはこう見えてスタイルには少し自信があるから、道端で足を挫いたから、家に着くまで肩を貸してくださいって言えば、ホイホイ付いてくるんじゃないかな?」
そう言って胸を揺らすアシュリー、逆にその胸の大きさや腰の細さで自信を持たなかったら、太田はどのようにすれば良いのだろう。今もアシュリーの胸を親の仇を見るような目で睨んでいる。
「確かにこの胸の大きさなら、男はホイホイ付いていきますよね。逆にユージさんよく一年間耐えられましたね。」
「あの、ニスアちゃん流石に恥ずかしいんだけど、、」
アシュリーの胸を下から持ち上げるようにペシペシと叩くニスアに流石のアシュリーも顔を赤らめ、恥ずかしがっている。
「チキショーー!こんなデカチチー!」
「痛い痛いトモカちゃん!千切れちゃう!」
「千切れろー!!!」
とうとう太田は暴走してしまった。何とか彼女を羽交い絞めにして落ち着かせようとする祐二は、アシュリーに向ってこの作戦の懸念事項を伝える。
「でも、アシュリーさん。この作戦割と危険ですよ。御剣とか海藤とか、アイツらほぼ強姦魔みたいな奴ですから、別に無理しなくても他の作戦を考えたりしますからやらなくていいっすよ。ニスアもミラも、身の危険を感じるなら無理に参加しなくていいから。俺やギール、グリード、王女だけでも何とかするからさ。」
確かに祐二は勇者に勝てない、だからこそ卑怯な作戦を躊躇わないがそれにも限度がある。もしミラやアシュリー、ニスアと言った大切な女性たちが辱められる可能性が一分でもあるのなら、祐二はその作戦は実行しないつもりだ。それ程祐二にとって彼女達は大切なのだ。
「ん?大丈夫だよ。ユージ君には内緒にしていたけど、アタシ実は”スーパーレア”のスキルを持ってるんだ。」
「へ?」
「多分それを使えば、襲われても返り討ちにできるから心配ないよ。」
まさかの”スーパーレア”のスキルを持っていたことに祐二は驚きを隠せない。だが、アシュリーの顔には勇者を返り討ちにできる確かな自信が宿っており、嘘とは思えない。
「じゃあ、任せますけど、身の危険を感じたら逃げてくださいよ。」
その後も作戦について話が進んでいき、弁当に下剤を仕込むのは変装をしたミラ、勇者の武器に油を塗るのは勇者に顔を知られていないニスアとなり、いよいよ最後の作戦。
「後はアタシが御剣君達のスキルを封じるのか。」
「けど、流石にこんだけ妨害したら怪しまれるよな?これは諦めとくか?」
「大丈夫!任せて」
いくら一つ一つがバレないように注意していても、連続して起こっては流石に怪しまれる。”下手にリスクを冒さないようにするか?”と周りのメンバーが考える。
「アタシが色仕掛けで御剣君たちを誘惑するから、その隙にパパっとスキルを封印すれば問題なし!流石の御剣君たちも同級生を襲おうとは考えないだろうし!」
自信満々に言う太田だが、周りのメンバーは彼女の胸部に注目すると即座に否定する。
「いや、無理だろ。」
「無理だな。」
「無理だろうな。」
「無理だと思うな僕。」
「無理じゃないですかね?」
「無理だと思うよ。」
「お前ら今どこ見て言った!ん!?ん!?ん!?」
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