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4話:苦い思い出

今回はちょっと下品な描写があります

 近衛騎士、それはセイン王国の王女の傍に仕える専属の騎士で地球でいうSPに近い。その名誉は王国騎士団長とは比べ物にならない程で、長い歴史の中では王女と結ばれた騎士もいる。

 無論、簡単に成れるものではなく、人格、戦闘力、教養などありとあらゆるものが求められる最難関の狭き門である。


「で、再来週にアンタの近衛騎士を決める選抜大会が開かれると?」


「うむ、そうなのだ。」


「つーか近衛騎士はギールじゃないのか?」


「いや、ギールは姉上の近衛騎士で私の近衛騎士ではない。と言うより私に近衛騎士はいない。」


 早朝から家に押しかけ、『近衛騎士選抜大会』のチラシを見せてきたソニア、突如の第二王女の乱入にアシュリー、ニスア、クレアは大混乱で場を落ち着けるべく、今は部屋を移動しミラ、祐二、ソニアだけミラの寝室で会話をしている。


「元々私はそれなりに腕っぷしには自信があったからな。父上が近衛騎士を宛がおうとしても私が直接叩きのめしてクビにしてきたのだ。それで父上も考えたのか今度は選抜大会などを開いてそれで決めさせようとするのだ。」


「ふーん。大変だね。」


 まったく興味が無い祐二は適当な返事をする。正直誰がソニアの近衛騎士になろうが彼の知ったこっちゃないので好きにしてくれと言った感じだ。

 だが、ソニアは話はそれだけではないと告げる。


「いや、まあ私も最初は最後に優勝した奴を叩きのめせば良いと考えていたのだが、どうやらこの選抜大会の目的はそれだけではないのだ。」


「それだけではないって、他に何の目的があるの?王女様?」


「この選抜大会の真の目的は勇者の人気取りだ。最近、民の間で勇者や”勇者税”対する不信感や強まってきただろう。父上はその不信感を払しょくするために、この選抜大会を開いたのだ。参加者に勇者を紛れ込ませ、圧倒的な力を見せつけることで勇者の力を再度見せつけると同時に不満を溜めている勇者のガス抜きを同時に行うつもりだ。そして私では勇者には勝てないだろう、そうなってしまえば勇者が近衛騎士となって、王国の象徴となってしまう。」


 困ったように頭を抱えるソニア、確かに勇者の力は別格で優勝は間違いないだろう。そして民衆に見せつけられる圧倒的な勇者の力、それを見た民衆はきっと勇者に畏怖の感情を抱いてまうことは想像に難くない。


「もしそうなったら、”勇者税”の廃止は難しくなるな。」


「ああ、漸く民も"勇者税”に疑問を持ち始めた中、勇者の力を見せつけられたら”勇者税”の廃止なんて難しくなってしまう。」


「成程、アンタの言いたいことは分かった。」


「おお!!」


 ソニアの説明を聞いて、何故彼女が急に家に訪れたのか分かった祐二は自分が何をすべきか理解する。要はその選抜大会で勇者が優勝しないようにすればいいのだ。


「国王を暗殺して大会そのものをぶち壊せばいいんだな!」


「「いやいやいや」」


 余りにもぶっ飛んだ発想をした祐二に、ミラとソニアは思わず突っ込んでしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「俺に大会に出て、優勝してほしい?」


「うむ、ユージ殿が優勝して近衛騎士になれば王城への潜入も楽になるし損はない。」


 右斜め上の発想をした祐二にミラとソニアが突っ込んで数分、ソニアは改めて自分がミラの家に訪れた理由を話した。

 彼女が城を抜け出してわざわざここまで来た理由、それは近衛騎士選抜大会に祐二も参加してもらい、彼に勇者が優勝するのを防いでもらうと同時に優勝して近衛騎士になってもらうためだ。

 祐二なら信用できるし、”錦の御旗”として王城の宝物庫に侵入する際も近衛騎士なら堂々と王城に入れるから、潜入の手間も省ける。


 だが、ソニアから出場を頼まれた祐二の顔は暗い。


「それは難しいな。」


「?何故だ?今のユージ殿はギールに鍛えられ、最初にあった頃より腕は上がっているだろう。それに何だ?あの銃?とかクロスボウ?とかを使えば勇者に勝てるのでは?」


「それが問題なんだ。俺が今まで勇者に勝てたのは不意打ちばかりだったから、でも大会って事はそれはまず無理だろ?それに銃やクロスボウは俺が”鬼面の男”として活動しているときに使ってるもんだ。それを公の場で使ったら俺が”鬼面の男”だって宣伝してるようなもんだし、まあ狩人として活動しているときに使っているクロスボウならギリギリ大丈夫かもしれないけれど、やっぱり関係性を疑われる可能性があるからな。殆どの武器は使えないぞ。」


 祐二としても勇者が優勝するのを防ぎたい気持ちもあるのだが、それ以上に正体がバレるのを防がなくてはいけない。そうすると大会に参加したところで使える武器は限られている。そんな状態で優勝するなど夢の又夢だ。それに何より。


「後俺、アンタの近衛騎士とかあんまりなりたくないし。」


「な、何故だ!!」


「何故って言われても、、、」


 彼の言葉にショックを受けるソニア、今まで彼女の近衛騎士になろうとし幾人もの男が屍となっていた。そんな中、近衛騎士になってほしいと頼まれて断られるという想定していなかった事態にショックを受けても仕方がないだろう。


「私のどこが不満だのだ!自分でいうのも何だが私は器量よし、胸も大きい!今年で四捨五入したら三十歳になる姉上よりも若い。腕っぷしも自信がある!一体何が不満なのだ!」


「何って、、それは、、」


 確かに本人の言う通り、ソニアは美人だしスタイルもいい。性格も多少喧嘩速い所もあるが基本的に良い人物だ。普通なら喜んで彼女の頼みを受け入れるだろう。というか恐らく祐二も彼女と出会った当初なら喜んで受け入れた。


 だが、ギールのスパルタ特訓中、何度も吐瀉物をまき散らせながら虹を描き、鼻からパスタを出す姿を見た後では百年の恋も冷めると言うもの、何より祐二にはソニアを女性として意識できない()()()()()があるのだ。


「それにお前、私にあんなことをしておいて責任を取らないとはどういう事だ!」


「はっ!?責任!?ユージ、王女様に何かしたの!?」


「身動きが取れない私にあんなことをして、私をもう嫁にいけないような目に合わせておいて、そのくせ近衛騎士になりたくないとはどういう事だ!」


「おい、言葉のチョイスに悪意を感じるぞ。」


「ユージ、、、何したの。」


 もの凄い誤解を招きそうな言い回しで祐二を責めたてるソニア、慌てる祐二、そんな彼を腐った生ごみを見るよう目で見つめるミラ。


 何とか誤解を解こうと祐二は事情をミラに説明する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それはギールとの特訓が始まって二週間が経過した頃だった。その日はグリードは騎士団の仕事で参加できず、祐二とソニアで特訓を行っていた。

 特訓の内容は、人体に害のある野草や茸、害のない野草や茸の餞別だった。まずはギールが図鑑を用いて簡単な説明をし、その後祐二とソニア二人だけで森に出向き、実際に収穫を行うという内容だった。


 嘗て祐二は集落に住んでいた頃、スレーヤという薬屋の老婆から毒のある野草、無い野草に付いて教えられていたので何も問題はなく、ソニアもギールからの説明を受けていたので収穫に問題はなかった。


 問題が起こったのは昼食時、腹が減ってきたので昼食にしようという事になり、森の中で魔物や獣に襲われない為、交代しながら昼食を取ることにした。


 最初は祐二が護衛、ソニアが食事をすることとなり、串に刺した茸やスープにした野草を食べ進めていくソニア、そしてそろそろ交代しようという時に事件は発生した。


 少し離れた場所で周りに魔獣などがいないか注意していた祐二が、ソニアの元へ戻ると彼女が倒れていたのだ。


「おい、どうした!!魔物に襲われたか!!」


 慌ててソニアに駆け寄るが、彼女は手足を動かさず呂律の回らない口調で祐二に話しかける。


しゅーぷ(スープ)()ふしみゃい(串焼き)はへはら(食べたら)はらはら(体が)ふほはなふはっは(動かなくなった)。」


「ああ?」


 何を言っているかよくわからないが、何となく彼女が食べた茸の串焼きや野草のスープに原因がある気がして、確認すると祐二は呆れた顔でソニアに向って原因を話す。


「お前コレ、シビレビレダケじゃないか。毒キノコで食料の茸とよく間違えるヤツだ。痺れた原因はコイツだ。体が痺れるだけで命に関わるヤツじゃないから暫くそこで安静にしていろ」


 ”やれやれ”と言った感じで首を振る祐二だが、事態はそこで終わらなかった。取り敢えずソニアを木陰まで移動させたのだが、その瞬間、彼女のお腹から”ギュルルルルル!!”と音がし、ソニアの顔が青紫色になる。


「まさかお前!!」

 

 今度は急いで野草のスープを確認すると、具の中に腹下しの薬として使われている野草を発見する祐二。この野草はかなり効能が強く、薬として作る際は水に浸しゆっくりとエキスを抽出、薄めて漸く薬として仕える代物だ。そんな野草を直接口に入れてしまったソニア、このままいけば大惨事だ。


「おい、あと少しだけ我慢しろ!!今すぐ下痢止めの薬をお前に飲ませるから!!」


 腰に取り付けた試験管から下痢止めの薬を取り出し、急いでソニアの口に含ませようとするが一足遅かった。そもそも体が痺れて自由が利かない中、我慢などできるはずがなかった。


「あ、ああ、あああああああああああ~~~~!!」


「地獄だ、、、」


 あっさりと決壊してしまったソニア、目元に涙を貯める彼女に祐二は唯目を背けることしかできなかった。


 


 その後、ソニアをそのまま放置しておくわけにもいかず、涙を流しながらも体の自由が利かない彼女の代わりに祐二が()()()後始末を行った。


 そしてお互い無言の微妙な空気の中、特訓を続ける気にもなれず今日の特訓は終了となり、祐二はこの事件以降、ソニアの事を女性扱いはするものの恋愛対象と言う意味では女性として見られなくなった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「と、言う事があったのだ!女性にあんな辱めを受けさせて、責任を取らないとはどういうつもりだ!!」


「なあ、ミラ。これは俺が悪いのか?」


「え、えええと、、どうだろ?」


 死んだ魚のような目でミラに問う祐二に、ミラは困ってしまう。確かに原因は毒キノコと毒草を食べたソニアだが、もし自分がソニアと同じような目に遭い、それをユージに見られたらと思うと恥ずかしくて生きていけなくなる。むしろ恥ずかしい所を見られたのだから責任を取ってほしいと思う。故にソニアの意見にも反対しづらい。


「と、取り敢えず、参加するだけ参加してみれば、もしかしたら勇者を倒すような人が出てくるかもしれないし、、、それに参加すれば王女の恥ずかしい所を見た事も許してくれるかもしれないよ」


 最後の部分は祐二にだけ聞こえるよう小声で彼に伝える。確かに祐二としてもいい加減忘れたい記憶なので、適当に参加してソニアに許してもらうのが得策かもしれない。


「はあ、分かったよ。俺もその選抜大会に参加するよ。但し負けても文句は言うなよ。後、卑怯なことしても文句いうなよ。俺は弱いんだから。」


「無論構わない。あの勇者共が私の近衛騎士にならなければな。」


感想、ご質問どんどん募集しております。厳しいご意見も自身の糧としていきますのでバンバンきてください!

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